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ルチア、おねだりを受ける

 どれくらい経った後でしょうか。誘拐未遂犯さんたちの事情聴取が終わったからとレナートさんが呼びに来たので最初の部屋へ向かうと、そこにはがっくりうなだれた四人と、彼らを挟むようにして立つセレスさんとガイウスさん、そして少し離れたところに椅子を置いて腰かける殿下とその脇に佇む団長様の姿がありました。


「じゃあ、僕はちょっと話し合いに行ってくるから」


 わたしたちの姿を見た殿下は、相変わらずのにこやかな笑みを残すと団長様を引き連れて部屋を出ていかれました。話し合い……ということは、黒幕が誰かわかったということでしょうか。


「で、こいつら……」

「お嬢ぉおおお! さっきのアレ・・かけてくださいぃいい!」

「おれたち反省してるんですぅううっ! ちゃんと依頼主も吐きましたぁああっ!」

「だからっ! だからっ……! 癒してくださいぃ! 回復薬じゃ心は癒えないんだぁっっ!」

「もう悪いことはしませんからぁああっ!」


 事情を聴こうとマリアさんが口を開きかけた途端、床にへたり込んだままの四人が叫び声をあげました。すがるように“シャボン”をねだる姿に、マリアさんとわたしはびっくりして身を寄せ合いました。びっくりしたマリアさんにつられたのか、マリアさんの肩にいるシロもしっぽを立てて、きゅっ!っと短く鳴き声を上げます。


「へぇえ……まだ懲りてなかったんだ? 俺、ルチアに近寄るなって話、君たちにしたよね?」

「ひぃッッ!」


 わたしとの間に立ちはだかるように立ったセレスさんに、ひどく怯えた悲鳴が上がります。セレスさん……なにしたんですか? なんでこんなに怯えられてるんですか??


「ストーップ。隊長サン、嬢ちゃんいるから自重。暴走した挙句に怖がられても知らねぇぞ。で、おまえら。回復薬使ってやっただけでもありがたく思え。これから罪に問われるんだ。傷なんて治さなくてもよかったんだぞ。わかったらその口閉じろ。嬢ちゃんも手を出すなよ」

「あ……はい」


 ガイウスさんにたしなめられて、わたしはマリアさんとつないでいた手を離しました。請われるままに“シャボン”をかけようとしていたのを見透かされたみたいでした。

 わたしが頷くのを見たガイウスさんは、ずんぐりさんの脚をブーツの爪先でつつきます。回復薬を使ったといった通り、その脚の傷はもうなくなっているようでした。


「兄さん、蹴るのはやめてください。とりあえず、聖女様とルチア嬢はいったん真ん中の部屋でおくつろぎください。殿下たちが戻られるまで一緒にいるとしても、この部屋ではゆっくりできないでしょう」


 レナートさんの申し出に、わたしとマリアさんは顔を見合わせました。たしかにこの状況で二人で部屋に戻るのは躊躇われますし、かといって十人もこの部屋に集まっているのは、いくら広い部屋とはいえ、ちょっとせまっ苦しいです。


「そうね……そしたらあたしたち、さっきの部屋にいるね。ここにいるとこいつらが目に入って鬱陶しいし」

「きゅ!」


 マリアさんが首肯すると、それに追従するようにシロが頷きます。シロ……相当マリアさんに懐いていますね。


「行こう、ルチア。それとシロ、痛いから肩には乗らないでってば。ほらおいで」

「きゅ~……」


 マリアさんは肩によじ登っていたシロを腕に抱きかかえ直すと、再び奥の部屋へと向かいました。慌ててわたしもその後を追います。


「なんかさ~、セレス怖かったわね」

「殿下も……迫力ありました」

「エドが怒るとこなんて初めて見た気がするわ。あー、早くお風呂入ってドレスこれ脱ぎたいっ。早く戻ってこないかな~」


 一段落したことで力が抜けたのでしょう。先ほどはわたしの無事を確認するだけだったマリアさんでしたが、いつもの調子を取り戻してころんとそこにあったベッドに横たわります。マリアさんに抱っこされていたシロも同じように転がると、ポンポンとクッション性を確かめるかのように跳ねだしました。


「シロ、髪の毛引っ張らない! ねー、やっぱあのワガママ姫の仕業なのかなぁ? ルチアを狙うとか、あいつくらいっぽくない?」

「わかりません……本当にどうしてわたしなんでしょう?」


髪の毛にじゃれつくシロを引きはがすと、マリアさんは仰向けになっていた体勢をうつぶせにして頬杖を突きました。


「メーナールの天晶樹、浄化してやんないわよっ!って気分よね~。あたしたちがなんのためにこの国に来てるか考えろっつーの!」


 素足になった脚をプラプラさせながら悪態をつくマリアさんを見つつ、わたしは考え込みました。たしかに、気に入った相手にわたしがくっついていたからと言ってここまでやるのは少し浅慮といいますか、考えがなさすぎる気もします。


「だからお子様なあのお姫様なんでしょ~。いかにもやりそう!」

「まだチェチーリア姫が依頼主とは決まってませんよ」

「セレスたちに訊く? あー、さっき訊いときゃよかった。まぁ今から訊けばいいか。おーい!」


 マリアさんはベッドに転がったまま声を張り上げます。


「おーい、セレスかレナートかガイ~」

「……どうされましたか?」


 マリアさんの声に呼ばれてやってきたのはセレスさんでした。


「あのさ、結局さっき訊き漏れたんだけど、あいつら動かしてたのって誰なの?」


 マリアさんの質問に、セレスさんはわたしを見ました。答えるかどうか迷ったのでしょうか、視線をさまよわせると、軽くため息をつきます。


「教えてくれたっていいでしょ? ルチアなんて当事者なんだよ? ねぇ~、セレスぅ!」

「セレスさん、わたしも知りたいです。教えてもらえませんか?」


 ねだるマリアさんの声に乗っかると、セレスさんは再びわたしを見てから、その視線をマリアさんへ移しました。


「ではご報告を。彼らの依頼主は──ベルナルディーナ姫でした」

「え?」

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