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ルチア、セレスの部屋へ連れて行かれる

 セレスさんに連れられて男性陣の部屋へ来たわたしは、開けられたドアの前で逡巡しました。生まれてこの方、男性の部屋に入ったことがないのでちょっと躊躇われるというか……いえ、別にセレスさんだけの部屋じゃないですし、後ろには例の四人を引きずっているガイウスさんとエリクくんがいるので緊張することもないんですけれど。


「嬢ちゃん、早く入っちまいな」

「あ、はい」


 ガイウスさんにポンと頭を撫でられて正気に返ったわたしは、意を決して部屋の中へと足を進めました。労わるようにセレスさんが、そっと背中に手を添えてくれます。

 わたしは肩を覆うセレスさんのマントをきゅっと握りしめました。ドレスの袖を破られてしまったので、それを隠すために今はセレスさんからマントを借りています。セレスさんの香りに包まれていると、安心する反面なんだかドキドキしちゃいますね。


 ひとり顔を赤くしながら入ると、思った以上に男性陣に宛がわれた部屋は大きなものでした。三部屋が続き部屋になっていて、ドアを開けてすぐの居間は今ここにいる三人が使っている部屋で、その奥の部屋が団長様とレナートさんが使っている部屋、そして一番奥にある主寝室を殿下が使っているのだそうです。最初は別々の部屋を宛がわれる予定だったそうですが、殿下がひとまとめにしてほしいと希望した結果、こういう部屋割りになったとガイウスさんが説明してくれます。


「んじゃ、オレはひとっ走りして王太子ドノか団長ドノでも呼んでくっわ。隊長サン、ちびっこ、あとよろしくな」

「えっ、ボクが行くよ!」

「なんかあったとき、おまえが雷の一つでも落としてやればおとなしくなるだろうが、おっさんのオレには複数の相手はしんどいんだよなぁ。ということでよろしくな。隊長サンはルチアについててやれよ」

「言われなくともルチアはひとりにしない。ガイウス、よろしく頼む」

「おっと、余計だったみたいだな。んじゃ、あとでな」


 背中を向け、頭の上でひらりと手を振ると、ガイウスさんは殿下たちを呼びにもと来た道を戻っていきます。その姿を見送っていたエリクくんが、ため息を一つ落とすとちらりと四人の誘拐犯の方へ険のある視線を投げかけました。


「おじさんたちさぁ、覚悟決めといたほうがいいよ。依頼主を吐くのか吐かないのか、ちゃんとしとかないとあとが怖いと思うよ」


 おじさんたち、とひとまとめにされた誘拐未遂犯さんたちは、エリクくんの言葉に下を向きました。今の彼らは後ろ手で拘束されているのですが、暴れる気も逃げ出す気もないようで、先ほどまでの行動が嘘のようにひどくおとなしく見えます。


「あんたたちさぁ、ルチアを殺そうとしたんでしょ? 彼女がこの国の人間じゃなくて、聖女サマの随行者だとわかってて手を出したんだよね? そうなるとさ、タダで済むわけないよね? なに考えて依頼受けたのかしらないけどさ、その“上の人”の名前を出すか出さないかで対処が違うかもだよ。考えとくといいよ」


 呆れたような苛立ったような棘のある声音で告げるエリクくんに、わたしの隣にいたセレスさんがふっと息を吐きだしました。


「ルチア、俺たちはこいつらと話があるから、いったん殿下のお部屋か団長たちの部屋でゆっくりしたらどうだ? 疲れたろう?」


 にっこりと優しい笑顔でセレスさんは労わってくれますが……勝手に他の男性のお部屋に入るのは憚られますよ? いえ、もうすでに入っているのはいるんですが、勧められた奥のお部屋を使っている殿下や団長様たちがいない状態では、さすがにそのお部屋に入れないです。

 なので自分に割り振られた部屋へ戻ると告げますと、セレスさんは難しい顔で首を横に振ります。誰が敵なのかわからない状態では、わたしとマリアさんを目の届かないところへはやれないんだそうです。


「ルチアッ!」


 奥の部屋へ行く行かないで軽くもめていると、悲鳴のような声とともにマリアさんが駆け込んできました。マリアさんの後に殿下と団長様、レナートさん、そしてガイウスさんの姿があります。


「ルチア、ルチア大丈夫!? 怪我はない??」


 飛び込むようにして現れたマリアさんを抱きとめると、がしがしと身体のあちこちを確かめられました。痛いですよマリアさん!


「大丈夫ですよ、なんともないです」

「あんたたちね! ガイから全部聞いたわ! よくもやってくれたわねぇ!」

「ぎゅわっっ!」


 わたしの無事を確認し終えたマリアさんは、一転して誘拐未遂犯さんたちに凄んで見せました。マリアさんの肩に乗ったシロも翼を広げて威嚇の声を上げます。普段可憐なマリアさんですが、怒ると迫力があって怖いです。


「マリア」


 身動きの取れない彼らの襟をねじりあげるようにしていたマリアさんを、殿下が冷静な態度で制しました。


「エド!」


 納得がいかないといった様子のマリアさんの肩に手をやると、殿下はにっこりと笑います。間違いなく笑っているのに、ひやりとした空気があたりを包みました。この感じは……少し前のセレスさんみたいです。


「マリア? いい子だから僕の部屋へ行っておいで? ルチアと一緒に。いいね?」

「でも」

「マリア?」

「……わかったわ」

「きゅー」


 笑顔なのに怖い。そんな人がこの場に二人も集結しています。すごい確率ですね。目に見えて怒っているマリアさんより笑顔の殿下やセレスさんの方が怖く感じるって……わたし、疲れてるんでしょうか。


「セレスティーノ、マリアとルチアを僕の部屋へ。エリク、きみはフェルナンドの部屋で待機。フェルナンド、レナート、ガイウス、きみたちは彼らから話を聞いてくれ」


 殿下は皆さんに役割を振ると、にっこりと満面の笑みを見せました。


「さぁ、きみたち、僕に聞かせてくれるよね?」


 綺麗な殿下の笑顔を見せられた誘拐未遂犯さんたちは、蛇に睨まれた蛙のように、全員揃って身震いをしたのでした。

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