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ルチア、拉致られる

「すみません、ちょっと通してください」


 ガイウスさんたちのところへ向かおうと、綺麗に着飾った人たちの間を縫うように進んでいたら、飲み物をたくさん乗せたお盆を手にした侍女さんに視界をふさがれました。見ればここ数日わたしとマリアさんのお世話をしてくださった侍女さんのうちの一人です。


「……お気を付けください」

「あ、はい……すみません」


 先ほどのアナリタさんたちとのやりとりを思い出してこの人もなにか言うのかと身構えたわたしに、聞こえるか聞こえないかの小さな声で叱責の言葉を投げかけると、その侍女さんはそれ以上なにも告げずに行ってしまいました。どうやらたまたま導線上にわたしがいて邪魔をしていたみたいですね。


「あ……」


 お盆を持った侍女さんが行ってしまうと、見えていたはずのガイウスさんとエリクくんの姿が見えなくなっていました。一瞬のうちに見失ってしまったようです。

 それでもそちらの方角へ進んでいけば合流できるだろうと踏んで先を進むと、その先はテラスに通じる掃き出し窓があるだけで、ガイウスさんたちの姿はありません。


「どこに行ったんでしょうか……外?」


 季節は収穫月メスィドールも終わりかけ、熱月テルミドールも半ばになろうかというところでした。旅に出たのが花月フロレアルのはじめですから、もう三ヶ月以上も経つんですね。夏真っ盛りとあって、室内は少し汗ばむくらいの暑さです。壁際に氷の魔石が均等に置かれていますが、大勢の人々でひしめき合ったホールは熱気がこもっていて、夜風に当たれる外のほうが涼しそうですね。

 わたしは二人の姿を探してテラスへ出ました。予想通り夜風が気持ちいいです。きょろきょろとあたりを見回すと、涼を求めてなのか、あちらこちらに人の姿があります。


「お庭のほうへ行ってしまったんでしょうか?」


 薔薇の香りが立ち込める庭へ進んでみましたが、ガイウスさんたちの姿は見当たりません。これはお庭じゃなかったのかも。そう思って回れ右をすると、後ろからやってきていた他のお客様にぶつかりそうになりました。


「すみませ……」


 ぶつからないよう身体を引こうとしたわたしですが、スッと手首をつかまれてそれ以上下がれなくなってしまいました。


「? あの?」

「つかまーえた」


 わたしを引き留めたのは、礼服を着崩した若い男性でした。酔っぱらっているんでしょうか? 見ず知らずの人につかまれて困っていると、わたしの手をつかんだその人はにぃっと口の端を上げて笑いました。笑顔なのに怖いのは、目が笑っているように見えないからでしょうか。


「あ、いました?」

「ああ。お嬢さん、ちょっと付き合ってもらえる?」


 怖い笑顔のその人の後ろから、三人の新たな男性がやってきます。付き合ってって……嫌ですよ! 見ず知らずの方、特になんだか怖い人にはついていきたくないです!


「わたし、人を探しているので。それじゃ!」

「まぁまぁ! 僕らも一緒に探してあげるから」

「そうですよ~。人手があったほうがいいじゃないですか」

「さっ、行こうよ!」

「行きません!」


 手を振りほどいてその場を立ち去ろうとしましたが、力の差がありすぎてそれは叶いませんでした。わたしは四人の男性に囲まれるようにして、どんどん先へと連れていかれます。

 どうしましょう、すごく頭の中で警報が鳴ってます。怖いですよ、この人たち。ついてっちゃダメな感じです!


「離してください! 困ります!」

「うん、困るんだよね」


 声を張り上げて怒りをあらわにすると、最初にぶつかりそうになった男性が頷きました。


「困るんだよね、君に逃げられると。そういう依頼だから」

「……? どういう?」


 笑っていない目の目尻を下げて男性が笑うのと、口や身体を拘束されるのは一緒でした。


「!」

「ごめんね~。とりあえずいこっか」


 目の怖いこの人がリーダー格なんでしょうか。この人の号令で後の三人は動いているみたいです。せめて口さえ自由になれば叫べるのにと身をよじろうとしますが、全然外れる気配がないです。外れるどころか力をこめられすぎて痛いです。

 ちょ、どこ連れて行くんですか! そう叫びたかったわたしのセリフは、男性の固い掌にさえぎられて伝わりません。怖い! 待ってください、本当に怖いんですけど!

 魔物と対峙したときとは違う怖さに包まれながら、わたしはどんどん庭の奥のほうへ連れて行かれました。

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