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ルチア、いじめを受ける

 皆さんと別れて庭園を出ると、わたしたちを探していたと思わしきくせ毛さんとのっぽさんに遭遇しました。二人とも顔色を変えています。


「あ!」

「あ~、いたぁ~!」


 お二人のセリフかと思いきや、それはわたしの隣にいるマリアさんから発されたものでした。先を越されてきょとんとした顔をするくせ毛さんとのっぽさんをよそに、マリアさんは突然大きな瞳に涙をためて泣き始めます。


「もうっ、怖かったぁ~! うっかり迷子になっちゃって、兵隊さんは見つからないしぃ~、怖かったんですぅ~!」

「きゅ~わ、きゅ~~!」

「えっ、あ」

「ルチアがいてくれたから耐えられたけど、ここ、広くて……兵隊さんが来てくれてよかったですぅ~}


 衛兵さんに口を挟む隙を与えずにたたみかけると、マリアさんは両手を組んでうるうると目を潤ませて細い首をかしげました。マリアさんの肩にいるシロも、マリアさんの真似をして首をかしげます。可愛いです。ダブルで可愛いとか、恐ろしいです!

 マリアさんとシロの可愛さに白旗をあげた衛兵さんは、お二人を撒いて行方をくらましたわたしたちを責めることはせず、軽く嘆息すると肩を落としました。


「聖女様、お部屋に戻りましょう。心配したのですよ」

「は~い! ありがと~」


 マリアさん、すごすぎます! 怒られるどころか心配されましたよ。わたしにはこんな誤魔化し方、できません!

 言葉もなくただただ驚いていると、衛兵さんの後をついて歩くマリアさんが、わたしを振り向いてペロッと舌を出しました。美少女はどんな仕草も可愛いんですね。


 ※ ※ ※ ※ ※


「まぁ! 聖女様たち、どちらへいらっしゃっていたのですか!」


 部屋へ戻ると、侍女さんたちに叱られました。迷子になっちゃったのと伝えるマリアさんでしたが、年嵩の侍女さんたちは不審そうな表情で一瞥をくれるだけです。こちらへ来たときにはもう少し友好的な態度でしたが、なぜか急に冷たい態度です。


「さぁ、パーティの準備を始めますよ。もう準備はできているんです。お早くお願いします!」


 どうやら侍女さんたちは、わたしたちが帰ってこなかったので随分待たされてじれているようでした。険のある声に急かされて、わたしとマリアさんは別々の部屋へ連れて行かれます。

 案内された部屋のドアが閉まると、部屋は妙にしんと静まり返りました。


「パーティはいつあるんですか?」

「今夜です。つべこべ言っていないでさっさと着替えなさい」


 静けさに耐えられず質問のため口を開くと、一番年上らしき侍女さんが冷たい視線を投げかけてきました。一人だけエプロンのラインが違うところをみると、中でも偉い人みたいです。着替えなさいと言われましても、ダル・カント風のドレスは着付け方がよくわからないのでちょっと困ります。

 ともかく着替えようとドレスを手に取ると、今お借りしているドレスより複雑そうな構造です。今のドレスはまだドレスの形をしていますが、これはひらひらした布と、刺繍のある布と、それを締めるだろうひもや帯やリボンの山です。これをどうすればドレスの形になるのか、さっぱりわかりません。


「あの、申し訳ないのですが着方がわからないので手伝ってはいただけませんか?」

「聖女様のお仲間ですもの、バンフィールドでもエリートなのでしょう? 貴女。バンフィールド王国のエリート様ならわたくしたちの手を借りずともできますわよぉ。簡単なつくりですもの」

「そうそう、基本形のドレスですもの。簡単ですわよ」


 助力を乞うと、返ってきたのは様々な冷笑でした。漣のように広がる嘲笑に、カッと顔に熱が集まります。


「ダル・カント風の衣装は初めてなのです。バンフィールドのものとはあまりにも違うので、わかりません」


 恥を忍んで正直に答えると、侍女さんたちは顔を見合わせて笑いあいます。今朝までこんな仕打ちをする人たちでなかったのに、一体突然、どうして?

 わたしは冷水を浴びせかけられたような心地で立ちすくみました。戸惑うわたしを見て、侍女さんたちはとても愉快そうです。


「一体突然なんなんですか!?」


 なんだか腹が立ってきました。こんな風にされる謂れがありませんし、また、おとなしくされるがままになる謂れもないです。

 急に刃向かったわたしが面白くなかったのでしょう。侍女さんたちは一様に眉根を寄せてこちらを睨みつけてきました。五人の侍女さんに囲まれて少し怖いですが、今は怖がってる場合でもない気がします。


「わたくしたちの姫様を悲しませた報いは受けていただきますから」


 最初に口を開いた一番偉い侍女さんが、憎々し気な表情でドレスを手に取ると、わたしの足元にぱさりと落とします。王女様のためかもしれませんが、こんなことして、上の方にバレたら怒られませんか?

 というか、悲しませた……というと、この人たちはチェチーリア姫のお付きの侍女さんたちだったのでしょうか。恨まれる可能性と言えばそれしかありませんし。


「チェチーリア姫は妃殿下に叱られて、あれからふさぎ込んでおりますわ。全部貴女のせいです!」

「一体どんな手を使って騎士様を篭絡したのかしら」

「大したご面相でもないのにねぇ。地味だし、聖女様くらいの方でしたらわかりますけど」


 悪意を隠そうともせず、侍女さんたちはわたしに詰め寄りますが……うーん、なんだか逆に怖さが麻痺したような気がします。魔物との戦いの方が怖かったですし、この人たちは口でひどいことを言ってきますが、やっていることは穴だらけというか、わたしが準備できずにパーティで恥をかいたとしたら、それは仕事を全うしなかったこの人たちの責任でもあることを失念しているようです。

 というか、皆さん仕事しましょうよ仕事! わたしのように生活に困ってのお仕事ではないでしょうけれど、ひとたび従事したからには、ちゃんと与えられた仕事を全うするべきだとわたしは思います。それがわたしのお世話だってことは王女様に心酔しているらしき彼女たちからしたら不幸かもしれませんけど、仕事ってそういうものじゃないでしょう!? 与えられた仕事の内、やりたいことしかしないなんて、ちょっとどうかと思います。

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