番外編 ひとでなしエレゲイア ~side Reverie~ 【2】
下層部にある森林公園、憩いの森には、ジョギングコースやフィールドアスレチックス場が広がっている。
フリーマーケットが開催され、市民で賑わう休日の公園にレヴェリーは父親のアデルバートとやってきた。
親子の目的はアスレチック設備だ。レヴェリーは三キロに渡って広がる遊具を二時間掛けて攻略し、ジョギングコースから外れた川沿いの木陰で少し遅いランチを取っていた。
「レヴィ、好き嫌いは駄目だよ。トマトもきちんと食べなさい」
「うげ……」
「トマトに限らず、キミは好き嫌いが多過ぎる」
レヴェリーの好みは魚よりも肉、野菜よりも肉だ。
あまり量は食べられないものの食べ物の好みはかなりあって、好きなものばかり食べる癖があった。
「れ……レタス食べてるじゃん!」
「レタスだけしか食べていないじゃないか。ほら、食べなさい」
大嫌いなチェリートマトと大好きなチーズを交互に刺したピックを渡され、レヴェリーは青褪める。
トマトの中でも特にチェリートマトは苦手だ。弾力のある皮を噛み破った瞬間、口内に溢れる果汁。その奇妙な酸っぱさを早く飲み込もうと果肉を噛むと、種と実と汁とが絶妙にコラボレートしてレヴェリーが大嫌いな味と食感になる。この世にどうしてこんな食べ物があるのかと存在理由を疑うほどに、レヴェリーはチェリートマトが嫌いだった。
「ポティマロンも食べてるし……」
「カボチャのタルトはどちらかというとデザートだね」
食べたくないと訴え続けていると、アデルバートは琥珀色の双眸を細めてくすりと笑った。
春の日溜まりの中で心地良さそうに寛ぐ猫のように穏やかな笑みだ。
だけどその笑みに場の空気が十度くらい下がったような気がして、レヴェリーはぎくりとする。
「私も鬼じゃないから強制はしないけど、食べないと大きくなれないと思う」
「う……っ」
「ルイは嫌いなものでも頑張って食べるから将来伸びるだろうね。ああ、父さんの身長も越されてしまうかもしれないな」
「……た、食べる……トマト食べる……っ!」
真綿で首を絞められるように追い詰められたレヴェリーは、トマトとチーズを一気に口に放り込んだ。
必死で飲み込むと、背中をとんとんと叩くようにして撫でる手があった。
「良い子だね、レヴィ」
褒めてあげるよ、と甘やかし口調で言われたレヴェリーは半目になる。
アデルバートは人畜無害そうな顔をして、レヴェリーがトマトを食べざるを得ない状況に追い込んだのだ。
最終的に食べることを決めたのは弟に身長を負けたくない自分なのだが、この父が腹黒い人間だと本能的に察しているレヴェリーは面白くない気分になる。
「はい、じゃあ口直しにハニーサンドでも。消化に悪いからゆっくり食べるんだよ」
「分かってるよ!」
レヴェリーは蜂蜜がたっぷりと染み込んだサンドイッチを頬張りながら、トマトの乗ったクラッカーを悠々と摘むアデルバートをじろりと睨む。
共に暮らし始めて一年が経っても、未だに自分の父親という立場の彼が良く分からない。
弟のルイスはアデルバートを分かり易いと言うけれど、レヴェリーにはさっぱり分からなかった。
「とーさんとルイって似てる」
「本当に? やっぱり親子って似るのかな。因みに何処が似ているんだ?」
「イジワルなとこ!」
「……そうなんだ」
義理親子二人は機嫌の悪い時や都合の悪い時に浮かべる笑みがそっくりなのだ。
ルイスのような本心を隠すタイプの子供が成長すると、このような胡散臭い大人になるのではないかという予感がしてレヴェリーはぞっとする。
「エレンさんが作ってくれた弁当をこんな自然の中で食べられるなんてキミも私も幸せ者だ」
レヴェリーは、貴族が調理場に立たないことを知っている。
エレンは料理を作ることをしないし、作れもしない。作ったといっても、ちょっとした手伝いをしただけだろう。それを知っているはずのアデルバートはそれでも嬉しそうだった。
「とーさんってかーさんのどこが好きなの?」
「そうだな……、可愛らしいところかな」
「たとえば?」
「エレンさんは良く表情を変えるね。貴族の娘の癖に気取ったところがなくて感情をそのまま顔に表す。怒ることがあれば、意味もないことで泣いたりもする。そして花が咲くように笑う。……その無垢なところが堪らなく愛しいと思うし、危うくて放っておけないとも思う」
「へえー」
「私はあの笑顔をずっと見ていたい。身勝手な思いかもしれないけど、守ってやりたいと感じている。つまり何を言いたいかというと、私はエレンさんの笑顔に弱い。私はあの人の笑顔に惚れたんだ」
半分以上何を言っているのか分からなかった。ただ、のろけているということは良く分かった。
口数が多い方ではないアデルバートが饒舌になるのは、自分が興味のあるものに対してだけだ。その興味が集中しているものが歴史と芸術、そして最愛の妻なのだ。
これ以上訊ねると胸焼けがしそうだと感じたレヴェリーは適当な相槌で聞き流した。
そうしてランチを終えたレヴェリーは敷布の上にごろりと横になった。
「レヴィ、食べた後に横になるのは行儀が悪いよ」
「ちょっとだけ」
「今日は良い天気だからね。私もちょっとだけ」
野外用の丈の短い上着を脱いだアデルバートは大きく伸びをすると、レヴェリーの隣に並んだ。
すぐ傍で焦げ茶色の髪が揺れ、香水のほの甘い香りが鼻腔を擽った。そちらを向くと薔薇を閉じ込めた琥珀のような色の瞳と目が合い、彼は淡く笑った。
「とーさん、行儀わるい」
「ああ、でもそういう気分なんだから仕方ない」
「えー」
「じいやには内緒だよ。あの人は怒ると怖いから」
「どうすっかなー」
自身が子供の頃から世話を焼かれてきた筆頭執事には適わないようで、アデルバートは内緒話をするように声を潜める。レヴェリーが悩んだ振りをすると、彼は生意気な子だと息子の頭をくしゃくしゃと撫でて笑った。釣られるようにしてレヴェリーも笑う。
草原を緩やかに波打たせる風に撫でられるよりも心地良くて、レヴェリーは目を閉じる。
周りには草原が広がり、風が吹くとさらさらと爽やかな音が聞こえる。耳を澄ませば小川の水が流れる音の向こうに、小鳥たちの歌声も響いていた。
春の若い緑と麗らかな木漏れ日に包まれた至福の午後。
陽を浴びてあたたかくなった敷布の上で、大自然の子守歌を聴きながら微睡むなんてなんと贅沢だろう。
このまま昼寝をしてしまおうか。
そう考えて寝返りを打つ。陽に照らされて銀色に輝く水面を見ながら夢の世界へ旅立とうというその時、レヴェリーは瞳を大きく瞬かせた。
「よ……四つ葉……!」
眠気なんて一気に吹き飛んだ。子供にとってはそれほどの大発見だった。
誰が奪う訳でもないのに急いでそれを摘み取ると、アデルバートも身を起こして覗き込んできた。
見付けると幸せになれるという四つ葉のクローバーがレヴェリーの掌の上にあった。
「これは見事なフォーチュン・クローバーだね。レヴィは幸せになれるよ」
「うん。これ、ルイにやるんだ」
「……折角キミが見付けたのにあの子にあげるのか?」
「ルイは外に出られなくてかわいそうだからあげる! おれが幸せを分けてやるんだ!」
自分が見付けた幸福も、弟の為に手放すなら惜しくはなかった。
レヴェリーは四つ葉のクローバーを失くしてしまわないようにハンカチーフでそっと包んだ。
「キミが自分の幸せを手放したりしたら、ルイは悲しむんじゃないかな……」
「なんで? ルイはかわいそうだから兄ちゃんが幸せを分けてあげなくちゃダメじゃん」
生まれた時から身体が弱くてベッドの上にいることが多かった弟は、誰から見ても不幸だった。親に捨てられた子供たちが集まる施設の中でもきっと一番恵まれない子供だった。
レヴェリーは自分の恵まれない人生を嘆いたことがある。けれど、すぐ傍に自分よりも不幸な存在があった。
悲劇の主人公ぶって嘆いている訳にはいかなかった。
「おれがルイの幸せをみつけてやるんだ!」
不幸なままでは可哀想だ。可哀想な弟の為にできることは何だってしてやりたい。不幸な弟を幸せにする義務が兄にはある。それが当然のことだとレヴェリーは思っていた。
けれど、レヴェリーのその【夢】を聞いたアデルバートは苦い顔をした。
「レヴェリー、幾らキミでもあの子の幸せを決め付けるのはしてはならないことだよ」
アデルバートはレヴェリーの手首を強く掴み、硬い声で言った。
「どうして……?」
「どうしてもだよ」
「ルイはおれの弟なんだ。おれが守ってやらないと何もできないんだ!」
「幸せの尺度はそれぞれ違う。不幸だなんて決め付けたらそちらの方が可哀想だ」
哀れむのは止めなさいと厳しい口調で言われ、レヴェリーは混乱する。
何を言われたのか、分からなかった。
アデルバートが語ることは難しくてレヴェリーには理解できないことが多いが、今言われたことは意味すらも分からなかった。
何故【可哀想】だと思うことがいけないのか、どうして【何かをしてあげたい】と思うことが駄目なのか。
その理由を尋ねたレヴェリーの両手を握りながらアデルバートは説明した。
「相手の気持ちを取り上げて自分の好意だけを押し付けたら、それは愛情ではなく同情なんだ」
「わかんない……!」
「自分が愛されていると分かったら嬉しいだろう。なれば、自分に尽くしてくれる相手に見縊られていると分かったら? 悲しくて惨めな気持ちになると思わないか?」
「……わかんない……」
「……難しいことを言って済まない。だけど、あの子はキミに幸せにして貰いたいとは思っていないよ」
俯いてしまうレヴェリーの様子を見て、ついルイスを相手にしている時と同じ調子で話してしまったアデルバートははっとしたように語調を和らげた。
優しく髪を梳く感触があったけれど、胸の奥がもやもやとしてレヴェリーは心地良さを感じられない。
(だって……ぼくがいないとあいつは……あいつがいないと…………)
哀れな弟だけが自分を必要としてくれる。弟がいなければ自分もただの哀れな孤児でしかない。
ルイスがいなかったら自分を必要としてくれる存在などいない。そんな意識がレヴェリーにあったのだ。
*☆*――*☆*――*☆*――*☆*――*☆*
双子に生まれたことの意味は何だろうとレヴェリーは考えたことがある。
背中合わせの自分と良く似て異なる兄弟。親子よりも濃い血縁関係を持つ片割れ。
だけど、レヴェリーとルイスには双子特有の強い精神的絆というものもなかった。少なくとも、レヴェリーはルイスのことが分からなかった。
言ってしまえば、極々他人に近い兄弟だった。
それでも周囲からは【双子】という二人で一つの存在のように見られていた。
『レヴィくんは可愛いのにルイくんはねえ……』
双子というものは厄介だ。
レヴェリーもルイスも何かにつけては周囲から優劣を決められてきた。
『あれは顔だけだろ。あとは全て半端で出来損なってるじゃないか』
大人びた賢い少年といえば聞こえは良いが、言い方を変えれば可愛げのない子供ということだ。
ルイスはレヴェリーのように周囲に気に入られるような子供らしい振る舞いをしなかった。場所柄弾かれることはなかったけれど、ルイスは大人受けも子供受けも良くなかった。
『あの子がいなければレヴィくんはもっと自由になれるのにね』
『お前もあいつの所為で苦労ばっかりしているよな』
頑なでこまっしゃくれたルイスの世話に疲れた兄姉がレヴェリーに良くそんなことを零した。
扉一枚隔てた先でルイスが苦しんでいるというのに、出来損ないだと莫迦にした。
だが、兄として弟より優れていると言われるのは誇らしくて、レヴェリーは兄姉を責めなかった。
子供とは残酷なもので、その頃のレヴェリーにとってルイスは引き立て役のようなものだった。
それが変わったのは、四歳の誕生日を迎えてすぐのこと。
『……なに、するの……?』
『出来損ないで……重荷でごめん……』
『る、ルイ……!?』
『兄さんが幸せになれるように、頑張るから……』
ルイスは爪で思い切り引っ掻いて、自分の顔に血の痕を付けた。
唯一兄より優れていると言われた顔を傷付けて、弟は綺麗に微笑んだ。
その笑顔を見た時、レヴェリーはルイスの為に生きようと決めた。
自分が守ってやらなければ弟はきっと死んでしまう。病で死ぬよりも先に、何かの拍子に命を絶ってしまうかもしれない。こいつを理解して守ってやれるのは兄である自分だけなのだ。
『ごめん……ごめんな……! にーちゃんがずっとずっとそばにいるからな……!』
笑わなくなってしまった弟を抱き締めながら兄は誓った。
『にーちゃんがおまえをまもってやるから……』
ルイスがあのように奇妙に落ち着いてしまったのはレヴェリーの所為だ。
レヴェリーが蔑ろにし続けたからルイスは何にも期待しなくなった。諦めたように微笑むようになった。
養子の問題で益々拗れていく仲。それでもレヴェリーは【弟を守る】という誓いに殉じてルイスの傍にいた。
里子に貰われそうになっても、問題を起こして破断にしてやった。
次第に兄姉たちはレヴェリーにも手を焼き始めた。
手余され、腫れ物に触るような目で見られたが、弟と同じ立場だと思うと却ってほっとしたくらいだ。
『ルイの夢は?』
『前も言ったけど、お菓子の家を造ること……なんて言ったら子供らしいかな……』
『じゃあ、にーちゃんがつくってやる! おまえの夢はにーちゃんが叶えてやる!』
『兄さん……』
『お菓子の家をつくって、いっしょにくらそうな』
まだ兄弟の仲が拗れる前、ルイスは【子供らしい夢】を語ったことがある。
菓子の家を造り、食べるのは惜しいから鑑賞して楽しむのだと変なことを言ってみせた。
だからレヴェリーは改めて約束する。二人で暮らせるような立派な菓子の家を造り、弟を幸せにするのだと。
『……うん』
『おまえを幸せにするのはにーちゃんだからな!』
強迫観念に駆られたような偽りの愛情だった。
初めは確かにそうだった。
けれど、偽りでも優しく尽くしていく内にレヴェリーは他人に必要とされる喜びを知った。
肺病の熱で苦しむルイスに付き添って看病をしている時、レヴェリーは頼りなく彷徨う手を掴んだ。すると、手を強く握り返された。自分がここにいて確かに必要とされているのだと、レヴェリーはそこに自分の存在価値を見付けた。
生みの親が分からないレヴェリーは地に足が着かないような気持ちで生きてきた。物心付いてから親から引き離されてきた兄弟たちと幾ら馴れ合っても、空虚は満たされなかった。その空虚を埋めてくれる存在がこんなに近くにいた。
親よりも血が濃い半身が存在を認めてくれる。レヴェリーの存在意義を与えてくれる。
いつからかレヴェリーは偽りではなく、本当にルイスに優しくするようになった。そして、喜びは次第にこう形を変える。
ルイスがいなかったらこの自分を必要としてくれる人なんて何処にもいない、と――――。
*☆*――*☆*――*☆*――*☆*――*☆*
「分からないよ、とーさん……」
ルイスの幸せはレヴェリーが見付けて与えるものではないとアデルバートは語った。
確かにレヴェリーはルイスのことを全て知っている訳ではない。
気難しい弟の心を読み取ることは双子の兄であろうと困難だ。それでもレヴェリーは必死でルイスが気に入るだろうことを探してきた。ルイスが昔のように屈託なく笑ってくれるように、幸せを探してやるのだと意気込んでいた。その独善をアデルバートは【同情】だと言った。
盲目の正義感で心が曇っていたこともあるが、幼いレヴェリーには同情と愛情の違いが分からなかった。
「そうだな……、例えば私は甘いものが嫌いだから特に欲しいとは思わないし、食べても何とも思わないけど、レヴィは欲しいと思うし、美味しいとも思うだろう? ある人にはどうでも良いことでも、ある人にとっては大切なことだったりする。幸せというのはそういうことだよ」
「……ルイの好き嫌いとぼくの好き嫌いがちがうように?」
「ああ、そうだ。あの子の好き嫌いをレヴィは全部知っている訳ではないだろう?」
「うん……」
「私もレヴィの好き嫌いを全て知っている訳ではないけど、トマトが嫌いなのは【知っているつもり】だ」
分かり過ぎるルイスが相手ならアデルバートも思うがままに話すのだろうが、分からないレヴェリーを前にして彼は慎重に言葉を選んでいた。
「私はレヴィに好き嫌いをなくして欲しいと思ってさっきは無理に食べさせた。その時、キミはどう感じた?」
「いやだった」
「そうだね。自分のことを良く知りもしない他人から、望まない親切を押し付けられるのは誰だって嫌なものだ」
筋張った大きな手が前髪を掻き上げる。嘘を吐くことができない目を真っ直ぐと見られ、レヴェリーは狼狽える。アデルバートはその動揺を知った上で視線を逸らさなかった。
「同情とか愛情とか難しいことはまだ理解しなくて良い。だけどね、レヴェリー。キミとあの子の幸せの形が同じだと限らないということは覚えておいて欲しい」
「――――っ」
目尻に浮かんだ涙を親指で拭われる。アデルバートは話は終わりと言って、レヴェリーの頭を撫でた。
上げられていた前髪が下ろされて、また目が少しだけ隠される。そうしてほっとした途端、疲れがやってきてレヴェリーは背を丸めた。
「少し休みなさい。父さんが傍にいるから」
促されるままに父親の膝の上に頭を預けると、彼は自分の上着を掛けてくれた。
上着からはココアのような仄甘い香りがした。大人の男らしい柔らかな香水の香りとあたたかなぬくもり。
もし自分に本当の父親がいたらこんな感じなのだろうか。
傍にいるだけで悲しみが溶けていくような安心できる存在が他にいるのだろうか。
【弟の為】に里子になることを承諾したレヴェリーは、父のぬくもりに触れながら考える。その考えを見透かしたように、アデルバートはある提案をした。
「帰りにもう一つクローバーを探そうか、レヴィ」
「……え……?」
「私はこう見えて運は良いんだよ」
一万分の一の確率なんて、キミたちが出会えたことに比べれば何ということもない。
出会えた奇跡が今の幸せに繋がっている。
家族四人で暮らしていることが己の幸せだというような父の言葉を聞いている内に、レヴェリーの胸の中にあった蟠りも氷解していった。
「うん……。じゃあ、ルイととーさんとかーさんの分もさがす!」
自分の幸せを押し付けては駄目というなら、四人分の幸せを探そうと思った。
それから初夏の長い陽が沈む頃まで――天に伸びる塔の向こうへ太陽が消えるまで、草むらを掻き分けた。
四つ葉のクローバーを見付けることができれば幸せになれる、という子供騙しの話に父は最後まで付き合ってくれた。
だが結局見付からなくて、レヴェリーは自分の分の四つ葉を川に流した。
「それでキミは良いのか?」
「うん。独り占めはしたくないし、みんなでいっしょに幸せになりたいから!」
幸せを与えるのがいけないことというなら、二人で一緒に幸せを見付ければ良い。
弟が幸せを見付けられるように信じて、困った時に少しだけ助けてやれるようになろうと思った。
けれども。
両親が殺された時、レヴェリーは選択を迫られた。
レヴェリーは再び【弟の為】に生きることを選んだのだ。