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林檎の木の下で  作者: 瑠樺
二章
22/208

番外編 Hansel et Gretel ~side Reverie~

Pomme de Discorde 【2】直後の話になります。

 暮れ沈む街を宛もなく彷徨う。

 無闇に走った所為で息が切れる。気付けば見知らぬ裏路地に迷い込んでいた。

 光と影の輪郭が刻まれた石造りの壁に寄り掛かり、ハアと息を吐く。

 吐き出す息は白く、肌を突き刺す風は痛い。そこで漸く寒さを感じたレヴェリーは凍えた指先に息を吹き掛けたが、気休めにしかならなかった。

 じめじめとした冬の空気にじぐりと古傷が痛んだ。

 ここに留まっていては陰鬱な空気に肺腑の奥までも染め上げられそうで、レヴェリーはよろよろと歩き出した。

 【ロートレック】は七の区画に分かれていて最も賑わっているのは第七区だ。ディヤマン通りを中心とした新市街地(カルティエ・モデルヌ)大通り(ブルヴァール)には様々なレストランやカフェがあり、流行(モード)を世界に発信する劇場などが幾つもある。しかし、旧市街地(ヴィユ・カルティエ)へ一歩踏み込めば、賑やかさは殆ど感じられなくなる。

 迷宮のように入り組んだ暗い路地は湿った泥の匂いがする。地面は粘着いていて歩き辛い。


(あそこと似てるな……)


 カビと汚泥と排泄物の饐えた匂い。陽光の届かない下層部下部【バルニエ】に、ここは似ていた。






 生まれたばかりの頃に施設のポストに預けられたレヴェリーは、自分の生まれも親も知らない。

 だが、育つ過程で寂しいと思ったことは殆どなかった。

 レヴェリーには同じ年の弟がいた。いや、どちらが兄か弟か実際は分からない。気付けば気の強い自分が兄で、気の弱いあちらが弟ということになっていた。性格も趣味もまるで正反対だったが、レヴェリーにとって弟は紛れもない半身だった。

 物心付いて暫くした頃、レヴェリーたち兄弟を引き取りたいという夫婦が現れた。

 クラインシュミット夫妻は上層部【レミュザ】に邸宅(メゾン)を構える、国の管理者に属する人間だ。拒む理由は何もないと施設の先生に勧められて、レヴェリーは弟と共にクラインシュミット家の養子になった。

 兄弟でも引き裂かれて貰われて行くことがざらにある中で、離れ離れにならなかったのは奇跡だった。

 レヴェリーと弟はクラインシュミット夫妻にあたたかく見守られて健やかに育っていった。

 そんな平和な日常が十年前のあの日、全て壊された。

 クラインシュミット家に賊が押し入り、使用人も含め邸宅にいた者を皆殺しにしたのだ。

 レヴェリーは脇腹を刺されたものの、命を取り留めた。弟も運良く出掛けていて事件に巻き込まれずに済んだ。生き残った兄弟は当然のように事件の究明と報復を望んだ。しかし、上層部の者たちは事件を揉み消した。

 生き証人であるレヴェリーは犠牲者の一人とされ、発言力を失った。そして弟を人質に取られ、この件に関して生涯口を閉ざすことを誓わせられた。

 レヴェリーは【死者】となった後、ある男の元で暮らすことになった。

 遣る気があるのかないのか分からない不真面目な男だった。感情の波が激しい男でもあった。上から命じられて共に暮らすことになったとはいっても、男はレヴェリーを人間として扱わなかった。

 食事は三日に一度有り付ければ上々。ベッドなんて当然与えられるはずもなく、狭く汚い部屋の中で蹲るようにして眠った。仕事から帰ってくると男は大概荒れていて、レヴェリーは撲たれ、蹴られ、口汚く罵られた。サンドバッグのようにされていた。

 レヴェリーの言葉が粗暴なのは、スラム街【ベルニエ】でその男と暮らした二ヶ月の影響だ。施設育ちをしたにも関わらず、奇跡的に歪まず育った少年の心を捻じ曲げるのに充分過ぎることがその二ヶ月間にあった。

 神の名に縋ることすら虚しくなるような人生。

 いや、もう死んでいるのだから【人生】と称すこともできないのかもしれない。そんな絶望の穴蔵から連れ出してくれたのが、エルフェだった。

 彼は、ろくでなし男を上の命令で捕らえにきたらしかった。

 エルフェはこの優男の何処にそんな力が秘められているのだと驚くような手並みで男をぼこぼこにし、縛り上げた。床に伸びた男を見てスカッとしたのをレヴェリーは今でも覚えている。


「口が利けない訳ではないだろう。お前の意思を聞かねば、俺は動けない」


 エルフェは栄養失調による衰弱で動けないレヴェリーを自分の店に連れ帰り、従業員として働くなら寝食を提供してやると言った。

 今以上の底辺はないと理解しているレヴェリーは、どうにでもなれという思いで頷いた。

 施設のあった【ベルティエ】ではなく、夫妻と暮らした【レミュザ】でもなく、汚泥に塗れた【バルニエ】でもない街でレヴェリーの新たな生活は始まった。

 エルフェのやっている店にはもう二人、厄介者がいた。

 二十歳ほどの姿をした金髪の悪魔と、十代後半といった金髪の眠り姫。

 レヴェリーからすると周りの皆が自分よりも年上の存在で、何かと気を遣うことが多かった。特に金髪の悪魔の性格は気難しく、事ある毎に当たられた。ただ、あのろくでなし男のように暴力は振るってこなかったので、成長する過程で生意気さと図太さを備えたレヴェリーは徐々に反論できるようになっていった。


「なあ、ヴィンセント。この女の人っていつから眠っているんだ?」

「君がくる前からだから二年前からかな。あ、眠っているからって胸とか触っちゃ駄目だからね」

「さ……触んねえよ!」

「思春期の少年は色々危ないからなあ。勝手にこの部屋に入っちゃ駄目だよ」


 昏々と眠り続ける娘をヴィンセントは【眠り姫】(プランサス・ロンス)と揶揄めいた呼び方をしていたけれど、レヴェリーからすると彼女は茨の森で眠る姫君というよりは天使のように思えた。

 目を閉じているので容姿の美醜は分からなかったけれど、黄金の髪が見事だった。

 週に一度、眠る娘の往診に医者とその付き添いの女性が家を出入りしていた。

 医者が言うには、昏睡状態の者を目覚めさせるには刺激が必要だという。毎日一言だけでも良いから声を掛けてやれと言われ、夕食前のちょっとした時間に話し掛けるのがレヴェリーの日課となった。


「なあ、クロエ。歪な形で生かされてるってどんな感じだ?」


 問うても返事が返ってこないのは知っている。

 このような状態で話し掛けろと言われても戸惑うものだが、この数年でレヴェリーもすっかり慣れていた。

 医者曰わく、話の内容は問わないらしい。話題がないならヴィンセントの悪口でも聞かせてやれ――その医者はヴィンセントが嫌いだ――と言われていたので、気分的には楽だった。


「オレはさ……、生きているけど死んでるみたいな気分だよ」


 レヴェリーは今の生活が嫌な訳ではなかった。

 エルフェは堅物だが作る菓子は美味しいし、ヴィンセントはあの通りろくでなしだが話していて飽きはこない。レヴェリーはそこそこ自由にやらせて貰っている。毎日それなりに充実している。

 それでも何かがぽっかりと抜け落ちている。物足りないと感じてしまう。

 半身を失ってしまったからだろうか。生まれからずっと全てを分かち合ってきた存在がない中で感じる安らぎは、酷く薄っぺらなものに感じられた。


「こんなんじゃ駄目だな」


 互いの幸せを思って別れたのだからこれではいけない。

 そうして気持ちを切り替えようとすると必ず弟のことが胸を()ぎる。その度にレヴェリーの胸は痛んだ。怒りや悲しみや後悔、自分で説明のしようがないほどに様々な感情が込み上げてきて、心の中で綯い交ぜになってどうしようもなくなるのだ。


『将来の夢は?』

『お菓子の家を造ること、かな』

『いいなあ、それ。死ぬほどお菓子を食べてみたい』

『兄さんは単純だね』

『え、なんで? お菓子の家っていったら食べるものじゃん?』

『食べるのは惜しいから見て楽しむんだ』


 施設では滅多に菓子なんて高級なものに有り付けなくて、無邪気な夢を見た。

 二人して貧乏性だったから死ぬほど菓子を食べたいと言ってみたり、勿体無いから目で楽しむと言ってみたり。クラインシュミット夫妻に引き取られてからもそんな貧乏性は抜けず、一つのクッキーを半分にして食べていた。夫妻は困ったように笑っていたけれど、その目はとても優しかったのを覚えている。


傍にいてよレステ・ア・コテ・ドゥ

さよならだ(アデュー)


 胸がひりひりと痛む。

 この悲しみは一体何に例えるべきなのだろう。心を引き裂かれたような激しい痛みに眠りを邪魔され、悪夢に飛び起きることすらある。

 最良だったはずだ。

 病弱な弟は誰かの庇護がなくては生きられなかったのだから、間違えていない。それなのに心が痛んで仕様がない。



*☆*――*☆*――*☆*――*☆*――*☆*



 散々外をほっつき歩いて【クレベル】に戻ったのは夜の帳がすっかり降り、月の位置も高くなってからだった。

 普段なら門限破りは説教を食らうところなのに、エルフェは何も言わなかった。

 何となくばつが悪くて部屋に引っ込むと、ヴィンセントが食事を乗せたトレイを持ってやってきた。

 今日の夕食はキャセロールだったようだ。スパイシーなチーズスープの中にはパスタや肉、野菜がとろりと浮かんでいる。好き嫌い過多なレヴェリーが食べ易いように細かく切られた野菜に心遣いが感じられた。

 クロエが家事をするようになってから、レヴェリーは食事をあまり残さないようにしている。

 ろくでなし男との生活で味覚が破壊されてしまったレヴェリーは食事を美味しいと感じることがあまりない。

 エルフェは菓子専門で普通の料理は大味だし、ヴィンセントに至っては有害物質を生み出しているとしか思えないものを作る。そんな中では、ないに等しい食欲が益々落ちる一方だった。レヴェリーがクロエの作ったものをきちんと食べるのは、男二人の料理よりも断然に上手いというのもあるが、それ以上に懐かしい味がするからだ。

 クロエの手料理は、施設で先生や兄姉たちが作ってくれたものと同じ味がする。

 一つ掬って一つ口に運ぶ。

 胸に沁みる味に、ささくれ立った心が段々と落ち着いていくのを感じた。

 味わうようにゆっくりと咀嚼し、食後にストロベリーアイスクリームを掬っていると、黙ってこちらを観察するばかりだったヴィンセントが漸く口を開いた。


「今日、ルイスくんに会ったよ」


 ヴィンセントのことだからまた何か攻撃してくるだろうことは予想していたので、動揺はしなかった。

 レヴェリーは黙々と動かしていた手を止めると、窓辺の席で悠々と寛いだヴィンセントに目をやった。

 薄明かりの中でピーコックアイは漆黒の色を湛えている。整った顔には初めて会った時からまるで変わらない、人を誑かす悪魔の笑みがある。

 ヴィンセントの笑みは大きく分けて五種類ある。人を誑かす為の猫被りの微笑と、人を嘲笑う冷笑と、人を威圧し牽制する酷薄な笑みと、人を哀れむ慈愛のような氷のような曖昧な笑み。そして、仮面としての笑み。

 基本的に彼の笑みは無表情に等しいので、レヴェリーは彼の表情から判断できるものを信用していない。


「あいつ、何か言ってたか?」

「ろくでなしの莫迦野郎とか言われたよ。あとくたばれとか、ムカつくとか」

「え…………」


 ヴィンセントの口から出た言葉にレヴェリーはぽかんとする。

 誇張して言っているのではと思わず疑いたくなるほどに、下品な言葉が混じっていた。


「性格悪いよねえ。流行を齎す【ロートレック】の貴族なら、皮肉の応酬を楽しむ余裕くらい持たないと」

「はあぁ!? あいつを怒鳴らせられんのってヴィンスくらいだろ」


 大体ヴィンセントのそれは皮肉ではなく、ただの苛めだ。

 大企業の御曹司ともあろう存在に何を言ってきたのだ。レヴェリーは頭にずきずきとした痛みを感じた。


「あいつは暴言なんて吐く奴じゃねーんだよ。吐いたとしたら百パーお前の所為だ」


 レヴェリーの知るルイスは年の割に落ち着いている物静かな子供だ。感情の波が穏やかで、滅多に怒らない。そんなルイスを怒らせるとはヴィンセントは何をやってきたのか、レヴェリーは呆れる以上に心配に思う。

 自分のことより他人のことばかりを考えて、目立たないようにと俯いていて、自尊心が低くくて根っからの不幸気質。損な生き方ばかりをするものだから、レヴェリーはいつもルイスが心配だった。


(ルイ、大丈夫かよ……)


 ルイスが罵倒の一つや二つ吐けるようになったことは寧ろ目出度いことだ。

 だが、その相手がヴィンセントというのが複雑でレヴェリーは喜べない。

 ヴィンセントは人を怒らせることに掛けては天才的な才能を持っている。あの温厚なクロエも一度啖呵を切っているのだからよっぽどだ。


「そう? まあ、吠えるのが可愛いから弄ったってのは認めるけど」

「可愛いって……」

「あと数年したらどれほどの値が付くか楽しみだなあ」

「……って、売ること考えてんじゃねえよ! あいつはヴァレンタイン家の大事な跡取りなんだぞ!?」


 クロエにも物騒なことを言っているが、ヴィンセントは目が本気だ。レヴェリーは売る価値もないと思われているのか始めからそんな脅しは受けなかったものの、その代わりやたらと莫迦にされている。

 ルイスもクロエもヴィンセントに目を付けられて災難だ。

 レヴェリーが目を据わらせて睨んでいると、ヴィンセントはその眼差しの先でにこりと意味深な笑みを浮かべた。

 彼は徐に一輪の花を差し出した。


「何だよ、これ」


 ヴィンセントに花を贈られる覚えがないレヴェリーは気味悪く思いながらも訊ねる。


「墓前のカーネーション。メイフィールドさんに見付からずに回収するの大変だったよ」

「な、何つーもん持ってきてんだよ」


 そうだ、この悪魔が男に花を贈るなど有り得ない。曰わく付きのものかと警戒すればやはりそうだ。

 墓場からくすねてきた花など要らないとレヴェリーは子供のように首を振る。


「悪趣味なのは知ってっけど、どういうつもりだよ……」

「運が悪ければ君の墓に供えられていたものだよ。今の命を有り難く噛み締める為にも自分の立場は理解しておいた方が良いかと思って持ってきたんだ」

「お前って本当に良い性格してるよな……」


 レヴェリーは殆ど唇を動かさずに低く言い放ち、じっと目を眇める。

 ヴィンセントは人の悪い微笑を浮かべた。


「だって、僕たちは仲良しごっこをしている訳じゃないんだから」

「………………」


 九年も共に暮らしているというのにヴィンセントはこうだ。高が三ヶ月――実際は十年だが――ここにいるだけのクロエはもっと悲惨だろう。

 ヴィンセントはクロエをあからさまに虐げはしていないが、目が冷めきっている。にこやかな笑みの下で腹黒いことばかり考えて人間を見下している。ヴィンセントは他人に対して情など持っていない。


「忘れているようだから言っておくけど、僕たちと君たちでは立場が違う」

「べ、別に忘れてなんか……」

「そうかなあ。エルフェさんはいつも君を甘やかすから、僕たちのことを【仲間】とか【家族】とか誤解していそうで怖いんだよね」

「人の弟、人質に取ってる奴等にんなこと思う訳ねえよ!!」

「あ、八つ当たりは止めてくれるかな。僕とエルフェさんはその件には関わっていないんだから」


 図星を突かれたレヴェリーは声を荒げたが、目の前の若者は余裕の態度を崩さなかった。

 この九年ずっとそうだ。レヴェリーはヴィンセントを言い負かした試しがない。


「ねえ、【兄】(アンゼル)くん。【弟】(グレテル)くんがいないからって、あの娘を身代わりにするのは止めなよ。流石にそれは不憫だ」

「な――――っ」


 レヴェリーは怒りで息を呑む。するとヴィンセントは唇だけを歪めて薄く笑った。鼠を嬲り殺しにする猫のような悪辣な笑みだ。冷めた眼差しに背筋がざわりと騒いだ。

 飴色に輝く明かりの中、ヴィンセントは嫣然と笑っている。


「弱いものを守ることで自分の存在価値を確かめている。自分の居場所を確固たるものにしようとしている。君は昔からそうして生きてきたから一人じゃ落ち着かない?」


 何か一言でも言い返したいと思うものの、唇が空回りするだけで何も言えない。


「弟くんはお菓子の家で幸せに暮らしてるんだろう? 君のしていることは彼を冒涜していることと同じだ」

ほっとけよ……っ(ス・ネ・パ・ア・モワ)


 間を置かない返事に、ヴィンセントは口の端を吊り上げる。


「吠える勇気があるなら弟くんに会いなよ」

黙れよ(タ・グル)! もう沢山だ(ジャン・ネ・アセ)!」

「そうやって逃げて思考を止めるところから本当の莫迦は生まれるんだよ」


 前言撤回だ、どちらも意気地なしじゃないか。

 悪意も冷ややかさも何もない声色でそう言い放ち、ヴィンセントは静かに部屋を出て行った。

 かあっと頭に血が上り、手近にあったグラスを叩き割ろうと手を上げたところで、レヴェリーはその溢れる寸前の感情をどうにか押し込める。

 物に当たるなんてあまりに子供染みている。これでは莫迦にされても文句は言えない。

 自己嫌悪に沈んだレヴェリーは覚束ない足取りで歩き、そのままベッドに腰を下ろした。


「……会える訳ねえじゃん……」


 別れた方が良い。互いに忘れてしまった方が良い。その方がきっと幸せでいられる。込み上げてくる涙を必死で堪えながら、レヴェリーは弟を突き放した。

 血を分けた兄弟――それも十月十日、同じ腹の中で育った双子の片割れだ。弟はもう一人の自分のようなものだ。会いたくない訳がない。だが、レヴェリーはそんな弟に会いたいと思うと同時に、再会を恐れている。

 あの日、自分を捨てただろう兄を、弟がどのような目で見てくるかが怖い。

 会いたいというそのたった一言さえも呟けないほどの思いが、レヴェリーの胸の内にある。

 でも、言わない。

 弟には弟の人生があるように自分には自分の人生がある。分かれた道が繋がることはあってはならない。

 それでも。

 もしも願いが叶ったのなら。

 もう一度、あの手を取ることができるのなら、その時は――――。


「……オレは被害者だジュ・スイ・ヴィクティム


 下らない感傷を掻き消すように、目を閉じたままレヴェリーは唸るように呟いた。

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