生きる理由
天羽の目はまっすぐ一点を見つめていた。
それは、この廃れた町の景色の先にあるこの国の象徴、城だ。
城とは言っても名ばかりで、実際にそれを見た人間はそれを城とは思わない。
赤茶色の煉瓦造りの外壁の中には教会のような建物があるだけの建物。
それがこの国の城だ。
それをただ見つめる天羽の姿に蓮花は彼の強い意志を感じた。
「そんなに大きなものを背負ってあなたはこれからどうするつもりなんですか。この国を憎んで、苦しんだってなにも良いことなんかないんですよ」
蓮花を包み込むマントが小刻みに揺れた。
「この国を滅ぼす、それが俺の生きる理由だ」
自分に向けられた強い視線に、蓮花は思わず視線をそらした。
地面の砂利がこすれる音が響き、天羽に隠れていた太陽の光が差した。
天羽が背を向けようとしたことに気づいた少女は、必死に言葉を繋いごうとする。
瞬間、道路に映る2つの影が交差した。
「・・・っ、復讐をやめて生きることはできないんですか」
天羽は動きを止め、すっと息を吸った。
「俺がいままで何人の人間を殺したと思う」
蓮花が戸惑うのも気にせず天羽は明確な数字を答えた。
「52人。苦しむ以外に生きる方法があると思うか」
天羽の後ろからちらりと姿を見せた太陽は、再びその光を失った。
そんなのあるに決まってます、そう言いかけて蓮花は言葉を捨てた。
その少年の影を見て、姿をみて、今更ながらに自分が何を言っても無駄だということに気がついたから。
そして天羽も納得したように少女に背中を向け、太陽の光を浴びながらまっすぐに歩き始めた。
ありがとうございました。