ふたつの背中
西の教会に住む殺人鬼を殺すこと。
天羽が受けた依頼は簡単に言えばそれだけだったが条件がついた。
依頼成功の証明として相手がしているはずの首飾りを持って帰ること。
その条件を男が嫌に強調しているのが、天羽にも伝わった。
しかし、天羽がそのことについて深く追求する様子はない。
それどころか、全く説明を受けない殺人鬼の正体についても、気にかける素振りはない。
一連の話をしただけで彼は「わかった」とだけ言い残し男たちの横を通り過ぎて暗闇の中に消えていった。
「生意気だが、都合の良い餓鬼だな」
男は今までの笑みを消し、見えない彼の後ろ姿を嘲笑った。
「良いんですか、あんな子供に・・・。もし、失敗したら・・・」
少し引き気味に立っていたごつごつとした銃を持った男は、言葉を濁しながらも男の機嫌を損ねないよう訪ねた。
男は機嫌を損ねるどころかいっそううれしそうに笑って答えた。
「確かに彼は子供だが、そこが良いんじゃないか。聞いたかい?自分は悪だと言い張る姿を。滑稽だったろう?おかしすぎて笑いも冷めてしまったよ」
それを聞いていた後ろの男が溜め息混じりに「はあ」と相づちを入れると彼は「わかってる、わかってる」と話を続けた。
「彼が殺人鬼なんて噂されているアレの正体を知った時の話だろう。僕がそんなことも考えていないと思っているのかい?もちろん、計画の範囲内だよ。大丈夫さ」
どうして、という言葉が返ってくるが聞こえたにもかかわらず男は話をやめない。
続けて男の言い放った独り言のような台詞は嫌に耳に残るものだった。
「だって彼は、アレを殺すために生きているんだから」
一気に冷静さを取り戻したように笑みを消す彼の合図で男は前方に横たわる死体まで足を運び、それを銃とは反対側の肩に丁寧に担ぎ上げた。
一息おいて、ふたりの男はその場を後にした。
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