男の依頼
結局、天羽は男の依頼を二つ返事で受けることになった。
この街より、西に行ったところには少し古びた教会がある。
神父も、牧師もいないその教会にはたったひとり、毎日欠かすことなく神に祈りを捧げる者がいるという。
それは、何人もの人を殺してきた殺人鬼。
同時に、少年が受けた依頼の対象でもあった。
その殺人鬼にはちょっとした伝説があった。
何人もの人の怒りを買い、何人もの人間が殺しにかかったにもかかわらず、その殺人鬼は小型の銃ひとつで自分の命を守り、さらに殺しを続けている、というものだ。
西の街の人は、そんなうわさ話を聞いては広め。恐れおののき、
ついに西の街には人が住まわなくなった。
そして噂は、人を超え、街を越え、山を越え、とうとう、この男たちの耳にも届いた。さらに、殺人鬼は支配する側に恨みを持つ人間だという噂も流れた。
殺すしかない。
それが男たちの結論だ。
そして、その為に、男は少年の前に現れた。
依頼はとても単純なものだ。
「西の教会に住む殺人鬼を殺す」
ただ、それだけ。
しかし、少年がそう自分の中で解釈するほど手に込める力は強まった。
「報酬は・・・」
男がその言葉を口にすると、天羽は刀を抜いた。
その刃が地面に向けられると、太陽の光に照らされた刃先が光を放った。
「報酬はいらない。そのかわり、その男をきちんと葬ってほしい」
少年が先刻、自分の手で殺めた人間を振り返り見ることは無かったが、少年が示す「男」というのがその存在であることは一目瞭然だ。
だから、少年の前に向かい合って立つ男はまっすぐに少年の後ろに横たわる男に目をやった。そして、笑う。
「いまさら正義を気取るつもりかい」
おかしな子だな、君も。と付け加えてさらに男は笑った。
「正義?俺の中に正義なんてあるわけがないだろう」
天羽も、わざと真似するように笑った。
「俺が背負ってるものは、悪だけだ」
少年は黙って刀を一振りしてから、それを鞘に収めた。
男が笑いを止め静まりかえった空間に、その刀の鍔が鞘の口に当たる音がよく響いた。
ありがとうございました!