日本刀を持つ少年
荒廃して至る所にひびの入った高いビルの間の、人気のない狭くて暗い道路に、その声は響き渡った。
「や、やめてくれぇ・・・」
一人の男は腰を抜かしたまま、アスファルトの地に手をつき、必死に足手まといとなった下半身を引きずる。
一方男に日本刀を向け、手に持った刀とは不釣り合いな黒い細身のジーンズに真っ黒なパーカーのフードを深く被った少年はその刃を彼の心臓のあたりに当て凜とすました様子だ。
声にならないような弱々しい声を上げ、命乞いを求める滑稽なその男の姿に、
少年は言葉もなくただ嘲笑う。
男の姿をさげすむように、哀れむように、そして何かを憎むように。
その笑いもまた、静かに空に広がった。
やがて、少年はその刀を握る手にいっそう力を込め、躊躇うことなく手を伸ばし刀を奥に押し込むようにして男の心臓を一撃―――。
音もなく血飛沫が舞い、少年の刀も体は一瞬にして赤に染まり、面を広がり続ける、まだ温もりのあるその血は少年の足下にまで到達した。
しかし、そんなことに構う様子もなく少年は刀を鞘に戻し、ふっと息を漏らす。
その吐息は、血のにおいと共に空気中に紛れ込んだ。
少年は声を上げることもない男の前に立ち、屈むようにして姿勢を低くしてから男の目にそっと手を当て、ゆっくりなでるようにして恐怖を残した瞳を閉じる。
それから、男の衣服をあさり金を手に入れ、溜め息を漏らしてから姿勢を元に戻し、振り向こうとした。
その瞬間、
気配を感じた少年は素早く振り返り、同時に刀を抜きながら、その気配の正体を断ち切った。
後に続くように遅れて銃声が鳴り響き、真っ二つに割れた銃弾がコロンという音を立てて地面に落ちて転る。わずか数ミリの銃弾を刀で断ち切ったのだ。
同時に少年の被っていたフードは頭から抜けるように落ち、少年の素顔がわずかに差し込む太陽の光に照らされた。そんなわずかな光も鬱陶しいかのように少年は目を細め、転がり落ちた銃弾を見つめた。
パチ、パチ、パチ・・・
気の無い拍手は少年の耳まで届き、少年は刀を収めることもせず顔を上げる。
「なんと美しい」
その先には、すらりとして身なりの整った男とその半歩後ろに筋肉がつきがっしりとした体型の男が立っていた。体つきのいい男の方はライフルのような銃を構えたままで、その銃口からは未だに煙が上がっていた。
「さすが現代に生きる“サムライボーイ"」
少年は彼らの姿を見て大抵の予想を付けることが出来た。
彼らは権利を有する人間だ、と。
そして、それは少年がもっとも疎ましく思う存在だった。
ありがとうございました!