第1話 契約
本編ぽくなってきて…ますよね
暗く、冷たい夜の森に轟音の断末魔が聞こえた。その声は野獣の野太い叫び声であり、この森に住まう神獣のものであった。
攻撃によるもので、鱗はばらばらに深く神々しい輝きを持つ身体は、赤い血に染まり、か細い息を吐く弱弱しいものにと姿を変えていた。
その傍には剣を下向きにだらりと持つ夜の森に目立つ銀色をした髪にも光を放つ精霊虫が、青年の周りを飛び回っている。
青年は自分の手によって少々痛めつけた神獣だったものに目を戻した。
もはや、竜にも龍にもなににも種別されないような惨めな姿だったが、神獣だったものはうすらと重い瞼を開けた。
『この森を…どうする、つもりだ…』
切れ切れながらも言葉を発する。青年は薄い笑みでそれを見た。
「人間の王様はこの森の全てを手に入れたいんだとさ。この森の泉も、小さな小さな精霊虫も、
全てを…我が物にね」
その言葉を聞いた途端重い瞼をさらに細くする。
『なんと愚かな…』
『その全てはそんな王の手にはなににも触れられぬというのに…』
ヒュッと息がなる。
その音に青年は思いついたようにこう言った。
「そうだな、汚れた王の手に渡ったらこの森も息ができないくらいに野獣の生臭い空気に変わっちまうさ。」
にやりと青年は鱗がバラバラの身体に触れる
「…そこでだ、あんた俺の話に乗らないか?」
『なんだ、契約か?…悪いが契約をしても、我の身体は完全には治らんぞ』
「契約か…いんや、まぁいいか。それで交渉成立かな?」
胡散臭いモノを見たという目で、肯定する。
「安心しろ。この森もあんたと一緒に契約してやるよ」
その言葉に驚かされ何かを言おうとした瞬間、身体に触れていた手がほのかに光り出す。
「さぁ、仲間もできたところだし、これからが面白いな!」
驚くほど楽しそうに、そして冷静に青年は光を強くした。
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