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まふらーといっしょ  作者: KEITA
本編
2/21

1*家出しました

※ヒロインがとても口が悪くて突飛な感じです、苦手な方はすいません。


 ことのはじまりは親父とのケンカ。なんの変哲も無いケンカだ。


「門限は九時と言ったはずだ」

 玄関の石畳の上、仁王立ちになってそう言う親父。ご丁寧にも居間の時計を外して胸に抱え、短針を見せ付けるように指差している。腕時計じゃなくて掛け時計指差すって、あんた。

「バイトは遅くなっても十時まで。以降にかかるようならすぐに連絡をいれるよう取り決めた、そのことを忘れたのか」

「………」

「絵里」

「………」

 色々ツッコミたいことはあるが、親父のいかつい顔はあくまでこちらの弁解を求めている。ちなみに短針が差し示しているのは真ん中辺り、「12」の数字……のちょっと手前。

「絵里、何も言わないようならお父さんは約束を破ったとみなすぞ」

 眉間に徐々に皺が寄っていく親父。とにかく、あたしは応えた。

「ギリギリ朝帰りじゃないだけマシと思え」

 結果、大ゲンカ。ありきたりすぎて笑えてくる。




「クソ親父くそおやじクソ親父くそおやじッ」

 暗い夜道をずんずんと歩く。そう、夜道だ。しかも今は真冬。土と藁が混在してる刈られたあとの田んぼ、轍が出来て随分経つ古い舗装道路。ところどころ立ってる侘しい外灯に白い息が照らされる。

「ちっくしょう」

 そんな中、口内で悪態つきながらずんずん歩く女子高生って何。

「こっちだって色々あんだよ。従業員が二人しかいないってなるとかたっぽ欠勤すればかたっぽが埋め合わせしなきゃならんの。当たり前だろうが」

 脳内がカッカして、取り敢えず何にでも当たりたい心地だ。当たって然るべき対象が今はいないことも、苛々感の増量要素。

「くそッ田中のヤツ! よりにもよって親父が夜勤無いときに事故起こしやがって、タイミング悪ィんだよ」

 底冷えの空気の中、悪態と白い息だけが吐き出される。

「退院したらあのハンパ眉全剃りしてやるッ」

 がるる、と歯をむき出して宣言しても、周囲はひと気の無い田舎道なのではしたなくはない。時々宙を蹴り上げたって構わない。

「覚えてやがれ、田中の(ピー)野郎ぉ」

 放送禁止用語だって言ってやる。だって見てるひとも聴いてるひともいないし、気分は最悪の心地なんだから。乙女がイラついた時は、暴れて発散するに限るのだ。自論だけど。

 そんなわけで今現在、あたしは早足大股で歩いてる。だって田舎のアスファルト道って早朝と夜中は凍ってるし、走ったら危険だし。冬の夜道をおらおらおらと猛スピードで歩行中の女子。我ながら結構アレだと思うけどそんなこと知ったことか。

 田園風景にて、ひとり歩く女子高生。夜でなく周囲が明るい昼間で、且つ季節が季節なら絵になる光景なんだろうけど、要素的にそうでない。

「イライラ退散しやがれぇええええッ」

 それに、さすがに今のあたしの状況は繊細に描写されたくない。乙女のイライラ発散は正直、美しいものでないからだ。はい、ちゃんと自覚済みです。



 まあ、そんなわけで家を飛び出してしっちゃかめっちゃか歩き続け、いい加減頭も冷えた。イライラも退散した。しかし、現実問題として拭えないものがひとつだけ。

 カッカしてた頭は冷えたが、身体も冷えた(ことにやっと気づいた)のだ。

「めっちゃ寒ィ……」

 そういや朝の天気予報で、今晩は特に冷え込むでしょうとかなんとか言ってたっけ。でもさっき帰宅した直後にどたばたしたせいで、マフラー玄関に忘れてきちゃった。今のあたしは防寒に欠損がある。首が寒い。冷気がそこから入ってくる。くそ、田舎の女子高生としてこれは赦されぬ事態だ。制服の生脚的な意味で足元には耐性があるが、頭部の寒気には耐えられない。あのマフラー結構あったかいんだよ。

「あーさむい、くそさむい、めっちゃさぶいぼ(※鳥肌の意)たってる」

 雪が積もってないだけましと言えばマシなんだろうけど、今のあたしにはそんなこと関係無い。冬の夜道は冷える。冷えるったら冷える。

(やっぱり田中が全部悪いッ眉全剃りにケツバットも込みにしてやる)

 今度は単なる八つ当たりとしてバイト先の同僚を脳内フルボッコしながら、踵を返した。しゃくに障るけどそろそろ家に戻ろう。あったまりたい。親父もきっと頭が冷えてる頃合いだし、冷静に考えてみて、実の娘をこの寒空にほっぽりだしはしないだろう。仲直りと謝罪の証として豪華めの夜食作ってやれば万事OK。親父もあたし同様引きずらないタチだし。

 ……のはずだったのだが。


 いざ戻ってみて、あたしが目にしたのは、消灯されているばかりか玄関も裏口も鍵がかかっている状態の我が家であった。


(田中の馬鹿クソ親父の薄情もの田中の馬鹿クソ親父の薄情もの田中のバカぁああああッ)

 ご愁傷様でしたー。残念だったな絵里。そんな同僚のアホ面と親父の見下し顔が脳裏に交互に浮かぶ。自業自得とはいえ、ダメージがでかい。

 ちなみに携帯電話は家の中だ。そう、同僚が事故を起こした埋め合わせをするためバイト先に急いで向かった際、あまりに慌てていたので部屋に置き忘れてしまったのだ。そのせいで深夜勤務になっても親父に連絡が出来なかったとも言う。

 それでも、なんとか連絡のしようはあっただろう。頭なごしにそう詰められ、思わずカッとなって言い返し、日ごろの鬱憤を立て水に板とばかりにぶつけ、勢いのまま家を飛び出してしまったのだ。マフラー無しで。防寒に欠損があるまま。更に言うなら財布と鍵の入ったバッグも置いてきてしまった。

(あたしって、バカか。いや、間違いなくバカだよな)

 なんとか家に入れないかと周囲をうろうろするも、どうにもならない。近所の家もとっくに電気が消えてる。大声を出したら近所迷惑だ、そして周囲に勘付かれるわけにいかない。だってお隣は都会から越してきた過敏なおばさまが住んでる。聞くに村のお偉いひとの親戚か何かで、噂話が大好きで、凄くウザ……姦しいひとなんで、一度目をつけられたらヤバい。父子家庭ってただでさえ世間の目がキビシイのに。田舎って都会より人がいない分、情報伝達は早いのだ。

 ダウンのポケットを探るとタオルハンカチと定期券だけが入ってた。この場で役立たないことこの上ないグッズである。

(恭子か美恵子んちに避難……は無理だ、もう電車無い)

 頼りになりそうな友人は思い当たらなくもなかったが、夜中だし、バイト帰りに乗ってきたのが終電だったし色々無理だろう。そう、あたしんちは山間の小さな村。線路と車道、高速道路が一本ずつ通ってるだけの辺境区だからだ。田舎暮らしってこういうところ辛い。

 しょうがない、ちょっと歩くけど村でひとつだけの二十四時間営業の店、つまりコンビニまで行って、そこで電話を貸してもらおう。そう思って寒空をまた歩き出した。当初はずんずんと勢いのままに歩いてたのに、今はとぼとぼと情けない。バイトの疲れもどっと襲ってきた。

「ううぅ……寒いよこんちくしょう」

 悪態も段々小さくなっていく。真冬の寒さと自分のバカさ加減が身に染みる。勢いって怖い。今度から家出するときはたっぷり着込んでから家出しよう。いや、そういう問題でもないか。

「襟巻き無いとやっぱりさぶいよ」

 ぐすん、と鼻をすすった。あのマフラー、母さんの形見なんだよな。


◆◆◆


『ひとのことに一々口出して、ウザいんだよ』

『親に向かってその口のきき方は無い。改めなさい』

『うるせえよ』

『絵里ッいい加減にしろ』

『……、あたしに門限守れとか男との付き合いはまだ早いとか言っときながらさ、自分は芽衣子さんが来るたんびにでれでれしちゃってさ。最低だな男って。母さんのこと、簡単に忘れちゃうんだ』

『絵里、』

『薄情な親父なんか、だいっきらいだッ』


◆◆◆


 自転車でかっ飛ばして五分、徒歩だと十五分以上。それがあたしの家から一番近いコンビニエンスストアまでの距離である。動いてると身体的な寒さは紛れるが、如何せんひと気の無い田舎道がずっと続いているので精神的な寒さがひどい。つまり、むなしい。

 ぐすん、と鼻をまたすする。

「あたしのバカあたしのバカあたしの大バカ」

 ひとり後悔……もとい、独り言が多くなるのも環境的に仕方ない。

「なんで部屋に携帯忘れたんだ。なんで店長に『電話借ります』の一言が言えなかったんだ。なんで親父に弁解しなかったんだ。なんで、」

(関係無い芽衣子さんを引き合いに出した。最低、最悪。どうして、)

 どこまでもバカで自分勝手なあたしは、今のいまになっても、親父の再婚を喜んであげられない。



 さて、家を再出発して今度は懺悔と反省に塗れながらとぼとぼ歩くこと十分以上。いや、携帯無いから時間はわかんないんだけど、さっきからずっと歩いてるし、そろそろ着いてもいい頃合いだろう。

 なのに。

「あ、れ……?」

 行けどもいけども、コンビニの明かりが見えてこない。

 そればかりか。


「ここ、どこ」

 どうしてあたし、山の中に来ちゃってるの。



※よいこのおなごは深夜中、周囲を構わないイライラ発散やおらおら一人歩きはしないようにね!

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