誘惑したい彼女 vs. 更生させたい彼――1
翌朝、登校の支度を調えた俺は、いつものように、母さん用の作り置き料理をタッパーに詰める。
タッパーをトートバッグに入れたところで、スマホから通知音が聞こえた。
LIMEを交換したのがよほど嬉しかったのか、昨晩は望愛がひっきりなしにメッセージを送ってきた。おそらく、いまのもそれだろう。
スマホを取り出して確認すると、案の定、望愛からLIMEが来ていた。
『望愛:おはよー、ノリくん! 今日は一緒に学校に行こうよ!』
届いたメッセージには、ハートやキラキラの絵文字が添付されている。読んだだけで、望愛の人懐っこい笑みが目に浮かぶようだ。
頬を緩め、返信する。
「『もちろん、いいぞ』――と」
返信を終えた俺は、スマホをしまい、トートバッグを担いだ。
「さて。望愛が来る前に、母さんに料理を届けるか」
独りごち、リビングを出る。
インターホンが鳴ったのは、その直後だった。
「誰だ? こんな朝早くに」
訝しみながら、リビングに戻ってインターホンを確認する。映っていたのは、見知ったピンクの髪だ。
『来ちゃった♪』
「早くね!?」
舌をペロリと出す望愛の姿に、俺は愕然とする。
俺の驚き様がおかしかったのか、望愛がクスクスと笑った。
『実はね? LIMEを送ったときには、もうノリくん家の前にいたんだよ』
「アクティブすぎるだろ……」
半ば呆れながら、望愛を出迎えにいく。
玄関のドアを開けると、朝日にも負けないくらい明るい笑顔を、望愛が浮かべていた。
「おはよう、ノリくん!」
「ああ、おはよう。次からは、ちゃんと計画性を持って行動してくれよ? 俺が家を出たあとだったら、どうしてたんだ」
「しかたないじゃん。ノリくんに会いたくて、いてもたってもいられなかったんだもん」
「……ズルいな、望愛は」
「どうして?」
「そういうこと、恥ずかしげもなく口にできるからだよ」
コテンと小首を傾げる望愛から目を逸らす。そのままでいたら、顔が赤くなりそうだったから。
動揺を鎮めるために深呼吸。
仕切り直した俺は、望愛に尋ねる。
「学校に行く前に寄りたいところがあるんだけど、構わないか?」
「寄りたいところ?」
「俺の母さんが漫画家やってるの、覚えてるか?」
「うん。人気作家さんだよね?」
「ああ。忙しすぎて調理する余裕がないから、俺が毎朝、作り置きした食事を母さんに届けてるんだよ」
「なるほど、なるほど」
トートバッグのなかを見せながら説明すると、得心がいったように望愛が頷いた。
「わかった。大丈夫だよ」
「サンキュー。せっかくだし、望愛も母さんに挨拶していくか?」
「そうだね。ひさしぶりだし」
提案を受けた望愛が、先ほどの俺みたいに深呼吸する。
「ドキドキするなぁ」
「なんでだ? むかしは、母さんと会っても緊張なんてしなかっただろ?」
「そうだけど……親御さんへの挨拶って、やっぱり大事だと思うから」
「ちょっとなに言ってるかわからないんだが」
意味不明な望愛の回答に、俺は首を捻った。




