痴女(偽)が誘惑をしかけてきた! ――6
結局、間に合わなかった。
あと少しで俺の家というところで、ついに雨が降りだし、あっという間に土砂降りになってしまったのだ。
家に着く頃には、俺も望愛もずぶ濡れになっていた。
「大変な目に遭ったな……」
「うう……服が貼り付いて気持ち悪い」
乱れた息を整えながら、俺と望愛は玄関先で愚痴る。
「うわぁ、ブレザーのなかまでビチョビチョだよ」
「大丈夫か、望愛?」
望愛を気遣おうと振り向いた直後、俺は言葉を失った。
原因は、ブレザーを脱いだ望愛の胸元。シャツが濡れてしまったせいで、ブラが透けていたからだ。
しかも、そのブラはやたらと大人っぽいデザインで、色も黒と大胆なもの。
暴力的なまでに扇情的な光景に、俺の思考も肉体も完全に停止してしまう。
「ノリくん? どうしたの?」
ショートしたロボットみたいに硬直する俺の様子に、望愛が小首を傾げる。
それでも身動きを取れないでいると、望愛が俺の視線を追って――ブラが透けていることに気づき、顔を真っ赤にした。
「ひゃあっ!?」
「わ、悪い!」
慌てて胸元を隠す望愛。その悲鳴でようやく我に返った俺は、急いで顔を背ける。
き、気まずい! このままここにいるのは、あまりにも気まずい!
「ぬ、濡れたままじゃ、風邪引いちゃうよな! タオルとってくる!」
いたたまれなくなった俺は、理由を付けて玄関を離れようとする。
が、それは叶わなかった。俺が着ているブレザーを、望愛がつまんできたからだ。
「の、望愛?」
恐る恐る振り返ると、俺を見上げる琥珀色の瞳と目が合った。
どこか切なげな表情をした望愛は、小刻みに体を震わせながら、迷うように視線を下ろし、しかし、意を決したようにもう一度こちらを見つめて――胸元を隠していた腕をどけた。
「――――っ!?」
予想外の行動と、再び覗いたブラ。そしてなにより、物欲しげな望愛の眼差しに、心臓をわしづかみにされたような錯覚に陥る。まるで釘付けにされてしまったかのように、望愛から視線を外せない。
恥じらってはいるが、望愛は胸元を隠そうとしなかった。むしろ、背筋を伸ばして胸を張ってくる。さながら、こちらに差し出すように。
限界だった。
ここまで我慢してきた。なんとかなだめすかしてきた。だが、俺にはもはや、この衝動を抑えられそうにない。
「望愛」
「っ!」
望愛の両肩をつかむ。
ビクリと肩を跳ねさせながらも、望愛は逃げも拒みもせず、静かにまぶたを伏せた。
ひとつ息を吸い、俺は告げる。
「いい加減、はしたないことはやめなさい!!」
「ふぇっ!?」
伏せていたまぶたを上げて、望愛が目を白黒させた。
ここまで我慢してきた。なんとかなだめすかしてきた。
露出の多い格好も、思わせぶりな言動も、過激なスキンシップも、望愛が自分で選んだことだと。望愛の自由は尊重すべきだと。
だが、やはり無理だ。
「もう我慢の限界だ! お前がふしだらな真似をするなんて耐えられん! 俺が更生させてみせる!」
「な、な、な……っ?」
俺の宣言に口をパクパクさせていたが、望愛はすぐに立ち直り、不服とばかりに頬を膨らませて抗議してくる。
「なんでそんなこと言うの!?」
「望愛のことが大切だからだよ!」
「ほわぁっ!?」
しかし、その勢いは一瞬でくじかれた。
俺が力強く言い放つと、赤かった顔をさらに赤くさせて、望愛が黙り込む。もはや文句も言えないようで、硬直したまま立ち尽くしていた。
望愛は可愛いし、体つきも肉感的だ。そのうえ無防備にスキンシップをとってくるのだから、勘違いする男が現れる可能性は高い。
このまま男を誘惑し続けたら、いつか望愛はひどい目に遭う! その前に、なんとしてでもまっとうな道に戻さなければ!
使命感に燃え、拳を固める。
俺が決意する一方、望愛は赤面したままで目を回していた。




