痴女(偽)が誘惑をしかけてきた! ――5
「ねえねえ、ノリくん」
「ん? どうした?」
放課後、帰り支度を整えていると、てててー、と望愛がやってきた。
「ノリくんが住んでるのって、むかしと同じとこ?」
「ああ。引っ越しとかしてないしな」
「じゃあ、一緒に帰ろうよ? いまあたしが住んでるとこ、ノリくんのお家と同じ方向にあるんだ」
離れている時間が長かったからこそ、望愛とはできるだけ一緒に過ごしたい。望愛の誘いは願ったり叶ったりだ。
「もちろん、構わないぞ」
「やった♪」
快く頷くと、望愛は飛び跳ねんばかりに喜んだ。
学校をあとにして、帰路につく。
隣を歩く望愛は、楽しそうに鼻歌を奏でていた。
「なんだかご機嫌だな」
「そりゃあ、そうだよー!」
「うおっ!?」
指摘する俺に、望愛が飛びつくように抱きついてくる。熱烈なスキンシップには慣れられそうにない。顔がかぁっと熱くなり、心臓がバクバク暴れていた。
「だ、抱きつくなっつぅの! 何度も言ってるだろ!?」
「しかたないじゃん。ノリくんと一緒にいられて嬉しいんだもん♪」
ピッタリくっついたまま、望愛が俺の胸に頬ずりしてきた。
いまの発言は、先ほどの質問への答えでもあるのだろう。俺が隣にいるから、望愛はご機嫌なのだ。
まったく。そんなふうに喜ばれたら、注意できなくなっちゃうだろ。
苦笑を漏らし、望愛の頭をぽんぽんと撫でる。
「俺も嬉しいよ。二度と会えないと思っていた望愛と、こうやってまた一緒に過ごせているんだから」
「そっか……ノリくんも同じ気持ちなんだ」
呟いて、望愛がスマホを取り出した。
「じゃあさ? LIME、交換しようよ」
「LIMEを?」
聞き返すと、望愛がコクコクと頷く。
「LIMEなら、いつでもどこでもお話できるでしょ? ノリくんと話せなくなるのは、もう嫌だよ」
切なげに言った望愛が、期待と不安が入り交じった目で俺を見つめてきた。
「ダメ、かな?」
「そんなわけないだろ。俺だって、望愛と話せなくなるのは嫌だしな」
同じくスマホを取り出して、ニッ、と笑ってみせる。
「交換しよう、LIME」
「うん!」
ヒマワリみたいに明るい笑顔を、望愛が咲かせた。
QRコードを表示させて、望愛とLIMEを交換する。
交換を終えた望愛は、宝物を扱うように、両手でスマホを包み込む。その顔には、『感極まった』という表現が似つかわしい笑みが湛えられていた。
まさかここまで喜んでくれるとはなぁ、可愛いやつめ。
望愛の喜び様を微笑ましく感じると同時に、はしゃぎっぷりを弄りたい衝動に駆られる。
イタズラ心に抗えず、ニヤニヤ笑いでからかった。
「なんだ、望愛? 俺とLIMEを交換できたこと、そんなに嬉しいのか?」
「はわっ!」
指摘された望愛が、ワタワタと慌てだす。はしゃぎすぎた自覚があるようだ。
恥ずかしそうに頬を赤らめて、右へ左へと視線を泳がせる望愛。
笑いを堪えながら可愛らしい反応を眺めていると、反撃とばかりに望愛が口を開く。
「そ、そりゃあ、嬉しいよ! これからは、ノリくんにエッチな自撮りを送れるし!」
「それはマジでやめろよ!?」
今度はこっちが慌てる番だった。
十中八九照れ隠しだろうけど、痴女化している望愛ならば万一があり得る。本当にエロ自撮りを送ってこないよう、必死で釘を刺す。
ゴロ……
騒々しいやり取りを繰り広げるなか、不意に上空から鈍い音が聞こえた。
見上げると、青かった空はいつの間にか分厚い雲に覆われ、鈍色になっている。
「うわぁ……」と、望愛が眉根を寄せた。
「多分、これ、激しく降るやつだよね?」
「ああ。急いで雨宿りしないとマズいな。もうちょっとで俺の家なんだが、走れるか?」
「うん!」
望愛が頷き、俺たちは走り出した。




