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誘惑したい彼女 vs. 更生させたい彼――6

 とんでもないことを口走った望愛が、スカートの裾をつまみ、ゆっくりとたくし上げていく。


 い、いくらなんでもやりすぎだろ! うろたえてる場合じゃないぞ、俺! 望愛を止めないとマズい!


 危機感を覚えた俺は、自分を叱咤(しった)して制止の声を張り上げる。


「いい加減にしろ、望愛!」

「ダメだよ、ノリくん。図書室では静かにしないと」

「そういう問題じゃ……!」

「けどさ? 図書委員のみんなもいるんだよ? 気づかれてもいいの?」

「っ!?」


 だが、望愛は一枚上手だった。俺に注意されることを先読みしていたかのごとく、釘を刺してきたのだ。


 いや、先読みしたのではない。


 一緒に仕事をしたいと誘ってきたのは望愛だし、図書委員を選んだのも望愛だ。だとしたら、誘惑を止められないこの状況は、望愛が狙って作ったものと考えられる。


 こんな悪知恵、いつの()に身につけたんだよ!? 随分と悪い子になったもんだな!


 今更気づいても後の祭り。言葉に詰まる俺を、望愛が追い詰めにかかった。


「ほ、ほら、どうしてほしい? どうしたい? ノリくんのしたいこと、なんでもさせてあげるよ?」


 はぁはぁ、と荒い息遣いをしながら、望愛がますますスカートをたくし上げる。もはや、いつパンツが見えてもおかしくない。


 もし、ここで俺が屈したら、望愛は調子づくだろう。男を誘惑することに味を占めるかもしれない。そうなると、望愛が悪人の毒牙にかかる危険性が高まる。


 それだけは阻止しないといけない! ちょっと強引なやり方になるけれど、灸を据えさせてもらうぞ!


 使命感に駆られた俺は、望愛を懲らしめるべく反撃に打って出た。


「自分がどれだけ危ういことを口走っているか、わかってるのか?」


 ドンッ


「ふぇっ!?」


 声を低くして、背後の本棚に手をつき、望愛に迫る。


 やり返されるとは夢にも思っていなかったのか、俺の壁ドンに望愛が目を白黒させた。


 勢いは削げた。いまこそ好機。


 勝負所と判断し、俺はたたみかける。


 ドンッ


「ぴゃあっ!?」


 望愛の逃げ道を塞ぐように、もう片方の手でも壁ドン。


 先ほどまでの威勢はどこへやら。望愛はオロオロするばかりだ。


「え、あ、ぅ? ノ、ノリくん?」

「いいか、望愛。男は怖い生き物なんだ。本気にさせてしまったら、お前に為す術はない」


 大人しくなった望愛に、俺は諭す。


「相手が俺だったからいいものの、ほかのやつだったら乱暴されていてもおかしくなかった。こういうことを続けてたら、いつか望愛はひどい目に遭う。だから、男を誘惑するなんて真似、もうやめるんだ」


 真剣な眼差しで訴えると、顔の赤らみをさらに濃くして、望愛が静かにうつむく。


「なら、問題ないね」

「問題ないって……どうしてだよ?」


 不可解な発言に眉をひそめると、うつむけていた顔を上げて、望愛が熱っぽい目で見つめてきた。


「だって、こういうこと、ノリくんにしかしないし」

「え?」


 望愛の告白に、(いきどお)りも使命感も忘れてポカンとしてしまう。


 俺が言葉を失うなか、望愛が恥ずかしそうに目を逸らした。


 どこかむず痒い沈黙。


「お、お花摘んできてもいいかな!?」

「お、おう、わかった」


 居心地の悪さに耐えかねたのか、真っ赤な顔で望愛が頼んできた。


 壁ドンを解くと、望愛は逃げるように走り去っていく。


 ひとり残された俺は、ボソリと呟いた。


「俺にしかしない……か」


 安堵感に胸を撫で下ろし、滲んでくる喜びに頬を緩める。


 息をつくように笑みを漏らして――


「いや、俺だけにとはいえ、誘惑するのはやっぱりダメだろ!」


 肝心な問題が解決していないことに気づき、セルフツッコミを入れた。

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