誘惑したい彼女 vs. 更生させたい彼――4
委員会の説明を受けたあと、俺たちは校庭に移動して昼食をとることにした。
「まったく。恥ずかしくて堪らなかったぞ」
「うう……ごめんなさい」
針のむしろだった先ほどの出来事を振り返り、俺はぼやく。
並んでベンチに腰掛けている望愛が、素直に謝った。流石に罪悪感を覚えているようだ。
「ああいう悪ふざけ、もうしないでくれよ?」
「うん。周りに気づかれないようにするね」
「そうじゃない。気づかれるかどうかの問題じゃない」
「でも、気づかれなければ恥ずかしい思いはしないでしょ?」
「さては、反省してないな、望愛?」
頬をピクピクさせる俺を不思議がるように、望愛が小首を傾げる。天然なのか、しらばっくれているのか、一目では判断できない。
しっかりと釘を刺しておきたいところだが、それでは昼食をとる時間がなくなってしまう。諦めて、俺は溜息をついた。
「まあ、ひとまず飯にするか」
「そうしよっか」
ふたりそれぞれ昼食を取り出す。俺は自分で作った弁当。望愛は、ここに来る前に購買で調達した、ミックスサンドとレモンティーだ。
「いただきまーす」
手を合わせて、望愛がミックスサンドをかじる。リスみたいにもきゅもきゅ頬張る姿を眺めながら、俺は懸念を抱いていた。
あれだけで足りるのか?
ミックスサンドは、ハムチーズ、タマゴ、ポテトサラダの計三個。俺では腹五分にも満たないだろうボリュームだ。望愛は女子なので俺よりも小食の可能性が高いが、それでも充分とは思えない。
成長期の栄養不足はよくないし、俺のおかずをお裾分けしたほうがいいか。
そう考えて、望愛に訊く。
「なあ、望愛? 俺のおかず、分けようか?」
「え? いいの?」
「ああ。俺の手作りで構わなければなんだが」
「ノリくんの手作り!?」
補足した途端、望愛がズイッと身を乗り出してきた。想像以上の食いつきように、俺は面食らってしまう。
「食べたい食べたい食べたい!」
「そ、そうか」
「交換レートとかある!? いくら払えばいいかな!?」
「あるわけねぇだろ、レートなんて。こんなんで代金せびったら、情けなさすぎて自己嫌悪に陥るわ」
突拍子もない発言に呆れつつ、弁当箱を望愛に見せる。
「ほら、どれが食べたい?」
今日のおかずは、ちくわの磯辺炒め、鶏手羽元の梅煮、玉子焼き、野菜のピクルス、茹でブロッコリー、プチトマトだ。
フンスフンスと鼻息を荒らげながら弁当箱をのぞき込み、真剣な眼差しで望愛が選りすぐる。
「うーん……玉子焼きがいいな」
「OK」
望愛の希望に従って、玉子焼きを箸でつまむ。
「ほい」
「ふぇっ!?」
そのまま差し出すと、なぜか望愛が目を丸くした。
「どうした?」
「え? や、その、だって……これ、か、間接……」
望愛の視線が、玉子焼きと俺の顔とを行ったり来たりする。その顔は、茹だったみたいに赤くなっていた。
唐突な挙動不審に、疑問を抱かずにいられない。
眉をひそめ、望愛に尋ねる。
「なんだかうろたえてるみたいだけど……もしかして、余計なお節介だったか? 本当はいらないとか?」
「そんなわけないじゃん!! 絶対にもらうよ!? なかったことになんてさせないよ!? 言質はとってるんだからね!!」
「必死かよ」
挙動不審を通り超して、もはや情緒不安定だ。鬼気迫る目つきに怯みつつ、改めて玉子焼きを差し出す。
「なら、ほれ。あーん」
「う、うん……あーん」
どこか緊張した様子で唾をのみ、意を決したように望愛が口を開いた。
ギュッと目をつむった望愛の口元へと玉子焼きを運び――
「あ、悪い。このままじゃ、間接キスになっちゃうよな」
「え?」
その途中で、配慮に欠けていたことに気づいて箸を下ろす。
親しい仲とはいえ、望愛は女の子だ。男が口を付けた箸を使うのは、やめたほうがいい。
望愛がうろたえていたのは、間接キスになってしまうからだったのかもしれないな。気づけてよかった。今度からはもっと注意しないと。
反省しながら爪楊枝を取り出し、手を付けていない玉子焼きに刺す。
「ほい、望愛。改めて」
「…………」
弁当箱の蓋に載せて玉子焼きを差し出すと、どういうわけか、望愛がジトッとした目をこちらに向けてきた。
露骨なまでに不機嫌な態度に、俺はたじろいでしまう。
「な、なんだか機嫌が悪そうだけど、どうした?」
「別に?」
「もしかして、俺、気に障ることでもしちゃったか?」
「全然? そんなこと? ないけど?」
「そ、そうか」
望愛の声つきは刺々しく、目つきは恨みがましい。否定してはいるけれど、不機嫌なのは一目瞭然だ。
だが、言及すると薮蛇になる気がする。『触らぬ神に祟りなし』のことわざに従い、俺はただ頷きを返した。
多分、俺の言動が望愛を不機嫌にしてしまったんだろうけど……どこがいけなかったんだろう?
俺が頭を悩ませる一方、望愛は八つ当たりするみたいに玉子焼きにかじりついていた。




