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トレイラー異世界を行く  〜ゲート事故でライトコーンの外側に飛ばされた件〜  作者: 山ノ内右京
第二章:岩の民

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8/10

記録庫まで

岩の門をくぐると、空気が変わった。


森の湿り気は薄れ、かわりに乾いた冷たさが肌に残る。

土ではなく石の匂い。

葉擦れではなく、どこかで硬いものが擦れる音。


私は足元を見た。


踏み固められた道は砂利へ変わり、砂利はやがて岩肌そのものになっていく。

森の道は抱くように続いていたが、ここから先は削られた道だった。


背後で、森の気配が遠ざかる。


私はフレキシブルpadを握り直した。

表示は変わらない。


《ネットワーク接続:不能》

《座標参照:失敗》

《因果タグ:不明》


それでも森の中で感じた途方とは違う。

ここには意図がある。

偶然ではなく、設計が残っている。


やがて視界が開けた。


谷のような窪地に居留地があった。

木ではなく岩を削った住居が連なり、通路は坑道のように奥へ続く。

火は祈りではなく炉として燃え、金属音が乾いた規則で響いていた。


森の火が闇を追うなら、岩の火は素材を変える。


私は息を吐いた。


「……岩の民」


長老は小さく頷いた。


「森だけでは答えは削れぬ。岩へも来い――前にも言ったな」


言葉は繰り返しではなく確認だった。

森で聞いたときは寓話に思えた。

だが今は現実の重さを伴っている。


通路の奥に扉があった。

石で作られているのに閉じ方が違う。

封印ではなく管理であり、表面には溝と刻みが走っていた。

私は読めないが、読ませるための形だと分かる。


長老が立ち止まる。


扉の奥から声が響いた。


《照合開始》

《外来者登録プロトコルを実行する》

《記録媒体を提示せよ》


音声出力は感情を含まない。抑揚は排除され、意味は圧縮されている。

これは問いではなく手続きであり、歓迎ではなく確認であり、会話ではなく処理だった。


私はpadを掲げる。


薄い樹脂板は岩の扉の前では異物に見える。

しかし異物であることが情報となる。

森では伝達が成立すれば十分だったが、岩では記録されなければ存在しない。


扉表面の溝が淡く発光した。


《媒体確認》

《未知形式》

《翻訳処理を開始する》

《外来者ID付与準備》


光は照明ではない。測定だ。

ここでは私は旅人ではなく対象であり、物語ではなくデータであり、帰還の願いではなく外来事象として登録される。


長老は沈黙している。


岩の民の答えは口から出ない。

削り出され、刻まれ、保存される。


扉の奥で機構が動く音がした。


記録庫は開こうとしている。



(つづく)


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