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トレイラー異世界を行く  〜ゲート事故でライトコーンの外側に飛ばされた件〜  作者: 山ノ内右京
第一章 森の居留地

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5/10

火を守る者・森の掟

翌朝。


森の光は、地球の朝よりも静かだった。

眩しいのに、騒がしくない。


鳥の声がする。

だがそれも、遠慮しているように聞こえる。


焚き火の跡から、細い煙がまだ立っていた。


昨夜、長老は言った。

「今夜は火を絶やすな」


理由は聞けなかった。

答えは森の奥に沈んだままだ。


私はフレキシブルpadを握り直し、視界に浮かぶ表示を見た。


インテリジェンスwatchは沈黙している。

《ネットワーク接続:不能》

《座標参照:失敗》

《因果タグ:不明》

相変わらずだ。


「……帰り道どころか、現在地すら分からない」

呟いた声は森に吸われた。



居留地は、思ったよりも“生活”していた。


木の上の住居から降りてくる者。

焚き火の周りに集まる者。

水を運び、木を組み、黙々と動く。


誰も急がない。

誰も騒がない。


私の存在に驚きもしない。

落ちてきた者は、珍しくないのだろう。


その中で、昨夜レンと呼ばれていた若いエルフが近づいてきた。

長老ほど古くはない。

だが目は同じように静かだった。


「目が覚めたか」

レンは小さく合掌した。

「静寂のうちにあれ」


「……ああ」


私は周囲を見回す。

「ここでは、火を絶やしちゃいけないのか?」


レンは焚き火を見た。

「火は守る」


「守る?」


「森の掟だ」


掟。

その言葉が妙に重かった。


私は思わず笑いそうになる。

「掟って……文明社会じゃないんだぞ」


レンは首を傾げる。

「文明とは、何だ」


まただ。

問いが返ってくる。


私は息を吐いた。

「火を絶やしたらどうなる」


レンは少し黙ってから、淡々と言った。

「帰れぬ者が増える」


帰れぬ者。

それは嘆きではなく、居留地の常識のように語られた。


私は思わず口元を引きつらせた。

「……なんだよ、それ」


だが笑えなかった。

焚き火の向こうで森が暗く沈んでいる。

火は温かいのに、森は冷たい。


私は小さく呟く。

「帰れぬ者、か」


その言葉が、煙みたいに喉に残った。



昼。

居留地の端で、金属の遺物が静かに埋もれていた。


レンはそれを見ても驚かない。

「昔のものだ」


私は喉が乾くのを感じた。

「君たちは……忘れたわけじゃないんだな」


レンは頷いた。

「忘れない。だが、救えないものもある」


「帰れぬ者たちか」


レンは焚き火を見た。

「そうだ」



夕暮れ。

森が一段深くなる。

火の周りに人影が集まり、誰もが静かに薪を足していた。


レンが小さくよぶ

「リュネ、少し薪を」


私はその輪の外に立っていた。

この火は、ただの火ではない。


道標なのか。

境界なのか。

それとも――


長老が近づいてきた。

「森だけでは抱えきれぬ答えがある」


岩。


ドワーフ。


論理と技術の民。


私は息を吸った。

「……森では答えが出ないのか」


長老は微かに笑う。

「森は抱く。岩は刻む」


火が揺れる。

その揺れの向こうで、私はまだ帰り道を見つけられないままだった。



(つづく)

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