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トレイラー異世界を行く  〜ゲート事故でライトコーンの外側に飛ばされた件〜  作者: 山ノ内右京
第一章 森の居留地

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3/10

真理と金属

道が現れた。

エルフは現れた道を振り向かずに歩き出した。

道は数メートル先で森に吸い込まれていた。

しかし、エルフが進むと道はその分出現した。


私は一瞬だけ躊躇したが、ここで立ち尽くしても何も変わらない。


しばらくエルフに付いて歩くとやがて道の両側に

二本の松が現れた。

松の向こうは少し開けている。


若いエルフが2人道の両側、松の前にいる。

二人の若いエルフが声を揃えた。

「お帰りなさいませ、***長老様」

「ただいま。よく務めてくれた。」


相変わらず意味だけが伝わってくる。

名前は聞き取れなかった。


森の匂いは深く、湿っている。

焚き火の煙のようなものが、どこかに混じっていた。


私はフレキシブルpadを握り直した。

次の瞬間、インテリジェンスwatchの警告が視界に投影される。


《ネットワーク接続:不能》

《座標参照:失敗》

《因果タグ:不明》


相変わらずだ。


「……帰り道どころか、現在地すら分からない」


呟いた声は森に吸われた。


彼は淡々と進む。

枝を避ける動きが、まるで森と会話しているようだった。


やがて木々の間に、光が見えた。


集落だった。


森の中にあるのに、森を壊していない。


木の上に組まれた小さな住居。

地面には踏み固められた道。

焚き火の輪に静かな人影。


誰も騒がない。

私の存在に驚きもしない。

まるで、落ちてくる者を何度も見てきたかのように。


「ここが……居留地なのか」


長老は頷いて言った。

「森が残った場所だ」


私は周囲を見回した。

文明というより、調和。

だがその調和が、逆に不気味だった。

あまりに整いすぎている。


私は思わずpadを掲げる。

「トレイルスキャナー、周辺構造解析」

画面に走る解析線。


《木材:地球種に近似》

《土壌:地球標準》

《微量元素:異常なし》


……普通だ。

普通すぎる。


そのとき、スキャナーが一瞬だけ奇妙なノイズを吐いた。


《金属反応:検出》


私は眉をひそめた。

「金属……?」


焚き火のそばにある石は、ただの石に見える。

だがスキャナーは確かに反応していた。


私は近づき、指で触れた。

冷たい。

石のはずなのに、冷たさが違う。


指先が継ぎ目を拾う。

直線だ。自然にはありえない。


「……これは」


彼が私を見た。

その目は静かだった。

「気づいたか」


私は答えられなかった。


石じゃない。

触れた感触が違う。

言葉が、ようやく喉を抜けた。

「……合金だ」


自分の世界で見たことがある。

加工された素材の冷たさだった。


彼は焚き火の煙を見つめるように言った。

「遺物だ。昔、空より落ちた者たちが持ってきた」


漂着者。恒星系から来た者たち。

胸の奥が、乾く。

「君たちは……科学を知らないわけじゃないんだな」


彼は小さく頷いた。

「論理は知っている。我々は星の海を航海して来た者たちの末裔だ」

焚き火が、ぱちりと鳴った。

「だが、論理だけでは救えぬものもある」


私は思わず言い返す。

「救えぬもの?」


彼は焚き火に手をかざした。

「帰れぬ者たちだ」


その言葉が胸に刺さった。


私はここにいる。

帰れぬ者になるかもしれない。


沈黙が落ちた。


森が息をしている。


そのとき。


遠くで梟が――いや、梟ではない。


もっと低い。

金属を擦るような硬い音。


インテリジェンスwatchが震えた。

《因果タグ:一致》

表示が走り、消える。


私は息を止める。

「今のは……」


彼の表情が変わった。ほんの僅かに。

「影が近い」


影。


私はその名を、まだ口にしなかった。

だが森の境界で、何かがこちらを見ている気がした。


長老は静かに言った。

「今夜は火を絶やすな、レン」


挿絵(By みてみん)


若いエルフに向けられた言葉のはずなのに、私は思わずこぼしてしまった。

「なぜ?」


だが、彼は答えずに、ただ森を見つめていた。


真理は論理を超える。

だが金属は、論理の残骸だ。


私は焚き火の光の中で、自分の手が震えているのを感じた。



(つづく)

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