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トレイラー異世界を行く  〜ゲート事故でライトコーンの外側に飛ばされた件〜  作者: 山ノ内右京
第二章:岩の民

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記録庫・第一次落下事象

扉の奥は冷たかった。


森の湿り気も、火の匂いも届かない。

岩の空気だけが支配していた。


私は歩く。


足音が硬い通路に吸われていく。


背後で森の気配が遠ざかる。

まるで世界そのものが閉じていくようだった。


そして私は思う。


火は抱く。

揺らぎのまま、伝えながら消えていく。


だが――ここは違う。


刻版が刻む。

残すために、固定する。


岩の文明とはそういうものなのだ。



《記録庫接続:確立》

《外来者登録:継続中》

《参照権限:仮付与》

《第一次落下事象:記録断片を提示》


視界に文字列が走った。


上段には角ばった記号列。

下段には私の言語。


日本語。


いや――日本語に“置き換えられている”。



《第一次落下事象報告書》

《分類:母船級漂着事故》

《発生:ドワーフ暦二三四五年》

《外来者換算:紀元前二千年前後》

《発生地点:複数》

《母船数:三》

《種族識別:エルフ系/ドワーフ系/遮蔽艦(未確定)》

《脱出:ポッド散開》

《地表文明との接触:最小限》

《帰還計画:未完》



淡々とした記述だった。


そこには嘆きもない。

英雄譚もない。


ただ事象だけが刻まれている。


岩はそうやって世界を残す。



《補遺》

《第一次落下以降、帰還経路は観測されず》

《因果タグ:欠損》

《一部刻版:削除済》


削除――?


私は眉をひそめた。


岩は残すのではなかったのか。

刻むのではなかったのか。


なのに削る?



私は思わず長老を見る。


「……これは、誰が削った?」


ドワーフ長老はすぐには答えなかった。


硬い沈黙。


やがて低く言う。


「岩は忘れぬ」


そして続けた。


「だが――忘れぬために刻む者がいるなら、

忘れさせるために削る者もいる」


その言葉が、妙に重かった。


森の火は揺らいで消える。

岩の刻版は残るはずだった。


なのに――ここでは残らない。


残されない。



《外来者:記録対象》

《刻版提示:再要求》

《照合対象:欠損部位》

《関連性:高》


私は喉の奥が冷えた。


私はここにいる。


刻まれる側に立っている。


火に抱かれる者ではない。

刻版に刻まれる者だ。


そして岩の沈黙が、私を呑み込んでいく。


(つづく)


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