神獣と桜の季節の思い出
短編小説3作目です。
書き終わってから、この時期に桜の季節の物語を書いて季節を冬にすれば良かったかな。とか思ってしまいました。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
僕はこの神社の神獣。
今日も、境内にある満開の桜を見ながら過ごしている。
昔はお参りに来る人も多かった。
今となっては殆ど誰も来ない。
ある日、主様にこの神社の事を任されてから、一人で神社を見守っていた。
主様はいつお戻りになられるのだろうか……。
幾月立ったか分からない今年の春。珍しく人がやってきた。
その少年は熱心にお祈りし、桜の木の下で読書を始めた。
それを僕は神社の屋根の上から眺めていた。
参拝客は久々に見た。
その日から少年は、毎日のようにここに訪れては桜の木の下で、日が暮れるまで過ごすようになっていた。
幾月も一人だった僕はその少年に話しかけてみたくなった。
少年の年ぐらいの人の姿に化け、少年に近づく。
「何をしているの?」
「桜の木を眺めてたんだ。もう葉っぱが目立つようになってきたけど」
そう言いながら少年は桜の木を見上げた。
僕もその視線を追い桜の木を見上げる。
「そうだね。だいぶ桜が散ってしまったね。桜は好き?」
「好きだよ。特にここの桜は心が癒される気がする」
「そうなんだ。僕も桜好きだよ。毎年楽しみにしているんだ」
話をしながら、僕は少年の隣に座ってみた。
「俺以外にもここに居たんだな。」
「ここはあまり人が来ないからね。君はいつも一人だけど寂しくないの?」
「……?」
少し驚いたように少年は僕を見た。
「ごめんね。実は陰からずっと見てたんだ」
「そっか。お前は俺の事怖くないの?」
「怖い?なぜ?」
「俺の顔見て怖くない?」
「顔?」
確かに少年の顔には大きな痣があった。
「別に怖くないよ。どうして?」
「みんな、怖がったりきもちがったりするんだ……生まれつきなんだけどね」
「そうなの?僕は全然気にしないよ。」
僕の言葉を聞いて、少年は目を伏せた。
「この痣のせいで、友達もできないし怖がられるから一人で居るようにしてたんだ」
悲しそうに少年は語ってくれた。
生まれつきある痣のせいで、この少年は苦労していた。
人間とは不思議なものだ。
自分とは違う。周りの人には無いものがあるだけでそんなに怯えたりするものなのか。
少年の話を聞いて僕は提案してみた。
「それなら、僕と友達になってよ」
少年は目を丸くして驚く。
「俺でいいの?」
「もちろん!僕も一人で寂しかったんだ」
「お前も一人だったんだ。仲間だな」
「君の名前は?」
「俺?隆志っていうんだ。お前は?」
僕はハッとした。主様にはハクと呼ばれていたが、人の名前にしては違う気がする。
どうしよう……。
その時ふと桜の花びらが降ってきた。
「……僕は、ヨシノだよ。」
「ふーん。ヨシノか。よろしくな!」
「うん!よろしく!」
その日から僕たちは一緒に遊ぶことが増えた。
僕は毎日、隆志が来るのを待っていた。楽しみにしていた。
鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、日差しが強い日は軒の下で話をしたり。
隆志は気さくでよく笑う少年だった。
こんな少年が外では一人ぼっちなんて考えれなかった。
夏が過ぎたある日、隆志は神社に来なくなった。
待てども、待てども、隆志が来ることはなかった。
また、僕は一人で神社の景色を見ていることしかできなかった。
移り変わる景色の中、僕は前よりも寂しく思えた。
どのくらいの年月が経っただろう。
一人の少女がお参りに来た。
それは隆志と出会った時期と同じ桜が満開の季節だった。
僕は桜の木の枝に座り、少女を眺めた。
お参りを終えた少女が桜の木に近づいてくる。
「あなたは、ここの神様?」
少女に声をかけられ僕は驚いた。
なぜなら、今僕は化けてないから。
「僕が見えるの?」
「見えるよ」
「僕はここの神様じゃないよ。神獣……ってやつかな」
「そっか。おじいちゃんから、50年ぐらい前にこの神社のヨシノと言う神様と遊んでいたって聞いたの。それはあなた?」
「おじいちゃん……?」
「うん!そうだよ!隆志の孫だよ!私も会いたくなってここに来たんだぁ」
そうか……。隆志には孫ができたんだ。
隆志を受け入れてくれる人と出会えたんだ。
もう、隆志は一人ぼっちじゃないんだな。
「僕に会いに来た?どうして?」
「ここの神社は桜がとても綺麗で、白い耳と尻尾の綺麗な神様が居るって小さい頃からよく聞いてて、ずっと気になっていたんだ!」
耳……尻尾……?
なんと言うことだ。僕はあの時、化けきれていなかったのか。
でも隆志は何も言わず僕と遊んでくれてたんだ。
僕を受け入れてくれてたんだ。
「おじいちゃんの事、覚えてる?」
「覚えているとも。隆志は僕にとって、たった一人の友だったから。隆志が来なくなって50年も経っていたんだね」
「おじいちゃん。顔の痣の事でこの町から遠く離れた親戚の家に行ったの。あなたにさよならって言うのが寂しくて、何も言わずに町から出て行ってしまった事を後悔していたわ」
「そうか。そう言うことだったのか。隆志は元気にしてる?」
「元気にしてるよ!今もここから遠い町に居て会いには来れないんだけど」
「君はそんな遠くからここに来たの?」
「うんん。お父さんがこっちに転勤になってこの町に来たの。だから、おじいちゃんの言ってたこの神社に来たくて」
「そうか。」
「おじいちゃんは、もう年をとってしまったけれど、あなたは青年みたいでとても綺麗だわ。流石、神獣様ね」
「あの時は、隆志と話しやすくなるかと思って、隆志と同じ年ぐらいに化けてたんだ。化けきれてなかったみたいだけどね。」
「ふふふっ。」
笑った少女の顔には隆志の面影があった。
「また来るね!」
そう言って彼女は僕に手を振りながら帰って行った。
隆志が幸せになれて良かった。
僕は心からそう思った。
これからは少女が会いに来てくれるのを楽しみに思えて、僕の寂しさが薄れていた。
「次はいつ会えるだろうか。」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
少年が幸せなおじいちゃんになれて良かったです。
皆さんはどの季節が好きですか?
これからも、ゆっくりと活動していきたいと思いますので、よろしくお願い致します。




