第5章
灼熱の太陽が容赦なく乾燥した大地を熱する中、少女は噴き出す汗も気にせず、日本のNGOが、このダラエヌール渓谷で始めた試験農場を目指して、石ころの多い山道を登っていた。布に包んだひと切れのパンを抱えて……
試験農場の建物の裏に、目立たない石造りの小さな物置小屋があった。少女は人目を気にしながら、素早く物置小屋に入ると、小さな窓から溢れる光のほかは薄暗い部屋に、片目を失った青年が石壁に背中をもたれて眠ったように座っていた。
──お兄ちゃん、パンだよ!
少女が大切に抱えていたパンを渡すと、片目の青年は、神に感謝いたします、と小さく頷いて受け取った。すぐに少女をじっと見つめたまま頬張り始め、少女もしばらく黙ったまま、傷だらけの兄の顔や身体を見つめた。やがて少女が口を開いた。
──お兄ちゃん、この農場にとてもきれいな菜の花畑があるのよ。今朝、用水路が爆破されて農場の人もみんなそっちに行ったようだから、これから行ってみよう。とってもきれいよ!
片目の青年は、すべてを受け入れたかのようにわずかに微笑むと、小さく頷いた。
アフガニスタンの烈しい光を浴びた黄色い菜の花は、荒涼とした山岳地の唯一の希望のように鮮やかに咲き誇っていた。片目の青年は、少女の小さな手を取り抱きしめた。
──俺は神学校でジハードを学んだ。ジハードのためにタリバン兵となり闘った。多くのアメリカ兵を地獄に送った。しかしたくさんの仲間も死んでいった。片目も失った。アメリカは絶対に許せない。ヤツらは悪の根源だ!
俺もジハード戦士として死んでいく。びっくりしたよ。こんなにきれいな花もあるんだな。天国にしかこんなきれいな花はないと思っていた。
その時、黄色い菜の花畑に大きな黒い鳥のような影がさーと流れ、激しい轟音とともにアメリカの軍事用アパッチヘリコプターが薄青い空を飛んで行った。片目の青年は、黒光りする機体が見えなくなるまで見上げていた。
少女は、兄の汚れて綻んでいる上着の裾を引っ張った。
──お兄ちゃん、神様がいるのなら、なぜあんな黒いものが飛んで来るの? あれは神様が呼んだものなの? ワタシには穢らわしいものにしか見えないわ!




