第6話 お誕生日
「来んのかな、環。」
翌日、祈たちは学校で環の登校を待っていた。
「来るんじゃねぇ?あいつ、ちょくちょく学校休むけど、大抵長引かねぇじゃん。」
祈の言葉に、瑞里は祈の目の前の座席に、背もたれにしがみつくようにして跨り、気楽そうに答える。
「…てかさぁ、ニュースのあれやばくねぇ?あの『七罪』ってやつ。」
瑞里が不意にそう言う。
「ああ、あれね。主犯者はヴィクティア国民だっけ?」
祈の席から見て窓側に立つ輝は、瑞里に向けて言う。
「そーそー。いやー、戦争が終わったってのに、今度は自分たちから始めちまうなんて、なんでなんだろーなー?」
瑞里が疑問を浮かべるようにして言う。
「…多分、仕返しだろ。失ったものを取り返せないから、みんなから奪おうとしてんだよ。」
瑞里の疑問に答える祈の脳裏には、ひとりの女性と、あの日守れなかった自分が思い浮かんでいた。
「そうねぇ…あっ。」
祈と瑞里の会話に相槌をうつ輝。
そしてなにかに気づいたように教室の入口の方を向く。
「おはよう、みんな。」
祈たちに近づいてくる環はいつものように真顔で言う。
「おお!来た来た!!」
瑞里はガタッと音を立てて立ち上がる。
祈たちの顔が明るくなる。
―環!誕生日おめでとう!!
祈たちが環の誕生日を祝う。
「はいはーい!今年で何歳になったんですかぁー?」
瑞里がおちゃらけた様子で握りこぶしをつくり、マイクのようにして環の口元に近づける。
「…17歳だよ。みんなと同じだからわかるでしょ。」
環は若干迷惑そうに笑いながら、そう答える。
「ほほう!じゃあ次!16歳の時頑張ってきたことは?しんどかったことは?17歳の抱負は?」
「しっつこいわねー!そんな一気に聞かないであげてよ!環困ってるじゃない!!」
怒涛の勢いで質問しまくる瑞里に、輝はお母さんのように怒る。
「いいじゃん別に!これが誕生日の醍醐味だろー!?」
「あんたんちの醍醐味なんて知る訳ないでしょーが!」
「お前んちなんか、どーせかしこまって静かでおもんねー誕生日やってんだろ!かわいそーに!」
「私の家を馬鹿にしたわね!もう許さない!!」
延々と騒ぐ瑞里と輝を見て、環は、「はは…」と静かに笑う。
「…体調は大丈夫か?」
祈は心配そうに環のことを見る。
「大丈夫だよ。ありがとう、祈。差し入れもありがとう。」
そう言って、環は目を細める。
「あーっ!そうだよ!俺も行きたかったのにー!」
こちらの方を見ながら叫ぶ瑞里。
「仕方ないでしょ!?私と祈は部活あってあんたと帰る時間違ったんだから!」
そう言ってまたぎゃーぎゃーと言い争う瑞里と輝。
―昼休み。祈と環は後者の影に隠れてキャッチボールをしていた。
ポスッ。
ポスッ。
ポスッ。
ポスッ。
ボールがグローブに収まる音が一定の周期で響き渡る。
少しして、祈は手を止めて口を開く。
「…一昨日、死神と会った。」
祈は静かに呟く。
「…そう。なんか話したの?」
環は何も知らないかのように返す。
「…いや何も。会ったって言っても、一瞬見えただけだったからな。」
ポスッ。
ポスッ。
ポスッ。
ポスッ。
再びキャッチボールが再開される。
ポスッ。
ポスッ。
ポスッ。
ポスッ。
「…ごめんな、環。こんな暗い話して。…これは、お前にしか言えねーからな。」
再び祈の番で止まり、祈は申し訳なさそうな顔をする。
祈は、自分の姉が実は死神に殺されたというのは、環にのみ伝えている。
環はそれを初めて聞いた時、驚きはしたものの、何も聞かず静かに受け入れた。
「…いいよ、別に。…倒せるといいね。死神。」
環は微笑んで返す。
「…ああ、ありがとう。」
そう言って、祈は環へと球を投げる。
それを環はキャッチする。
その球はいつもの球より少し重く感じた。
六限目のチャイムがなり、その日の全ての授業が終わる。
鞄に道具を詰めたり、部活へと向かったり、友達と喋ったり、各々が次の時間に向けての準備をしていた。
「よっしゃ!明日から休みだ!」
そう言って瑞里はガッツポーズをしながらはしゃぐ。
「ああ、お前らは休みか。」
祈は瑞里のことを見て言う。
「あーそっか、祈たちは大会あんのか。応援しに行くわ!」
瑞里は祈を見て、思い出したように言う。
祈と輝が所属している部活は、「魔闘部」。
10対10のチーム戦であり、どちらかのチームが全滅すればゲーム終了。
選手は自身の魔法や魔道具を駆使して戦闘する。
「僕も応援行こうかな。ルールあんまりわかんないけど。」
環も行く意を示す。
「あーそっか、環は魔力ねーもんな。安心しろ、俺が全部解説してやるよ。」
瑞里は得意げに言う。
魔力がないと言う単語に、祈の眉がピクリと動く。
「あんたはいっつも一言多いのよ。」
そう言って、輝は瑞里の頭をペチンとひと叩きする。
「いいよ、気にしてないから。」
環は貼り付けた笑顔で笑う。
「じゃあ私部活行くからー、また大会で。」
そう言って輝は教室をあとにする。
「あー!ちょっと待てよ輝!じゃーな。環、瑞里。」
そう言って祈も輝の後を追いかける。
そうして、瑞里と環も各々の家へと帰って行った。




