第26話 再会
夕日に照らされ輝く街を、環は一望する。
「…これからどうするの?」
そして振り返り、ハルバードに問う。
「…一旦、睡眠を取る。これでも、普段の今頃は寝支度をしている時間なのでな。」
ハルバードは森の影で環を眺める。
「どうせ、貴様も何か対策をしておるのだろう?」
ハルバードは環に問い返す。
「…まあね。」
環はそう言って、再び町を見つめる。
「…そうか。では。」
ハルバードは環の背にそう言い残して、転移魔法を使いどこかへと消えた。
「あっ!イノリお兄ちゃん!」
祈は気がつくと、硬い石畳の上で仰向けになっていた。
その祈の顔を、間近でシャスナハが覗き込む。
「うわぁっ!!」
突然の出来事に、咄嗟に祈は大声を上げ驚く。
そして、仕掛けたシャスナハもまた驚く。
祈が上体を起こし、辺りを見回すと、そこは今日訪れたあの町であった。
噴水に腰を掛け、シャスナハはニコニコと笑う。
「あーびっくりした!まったく、そんな大きなこえをださないでよー。」
シャスナハは祈に意地悪な顔をする。
「はぁ、シャスナハだったのか。君が俺を連れてきたのか?」
祈は落ち着きを取り戻し、シャスナハに問う。
「んー?ううん。ちがうよ。ペトラだよ。わたしはねー、ここからそとにでられないの。」
シャスナハは祈の疑問に笑って答える。
「え?そうなのか?」
祈は未だ混乱して、再びシャスナハに問う。
「そうだよー。でもね、ペトラたちがいるからさみしくないよ!あっ、イノリお兄ちゃんもね!」
シャスナハはただ元気に答える。
「あ、ああ。ありがとう。」
何も問題が解決しないまま、話が完結してしまった。
「でもねー、さいきんゆめをみるの。」
シャスナハは急に不思議そうな顔をして、また別の話を話し始める。
「へぇー、急だな。どんな夢なんだ?」
祈も、次は負けないと話に食いつく。
「うーんとね、そとの町にいくゆめ。」
シャスナハは思い出しながら話す。
「…え?」
何が言いたげな祈を横目に、シャスナハは続ける。
「そとの町にでて、みんなのくらしのなかに私とペトラもいるの。わたしが、ペトラの手をひいて、ふたりで町をはしってるの。」
シャスナハは噴水から飛び降りて、祈の傍に寄る。
「きょうは、イノリお兄ちゃんも出てきたよ!」
そして、座っている祈に抱きつく。
「イノリお兄ちゃんも、わたしもペトラも、みんなとってもたのしそうでね、すっごくうれしいきもちになるんだよ!」
シャスナハは跳ねるように笑う。
「でもね、そのゆめはとってもさみしいの。そのゆめがおわってからじゃなくて、見てるときがさみしいの。」
噴水の、音が大きくなった気がした。
「なんでなのかなー?」
シャスナハは、ただ不思議がる。
「…さあな。」
祈は立ち上がり、シャスナハの頭を撫でる。
シャスナハは目を閉じて、ふふっと笑う
「俺からも1つ質問していいか?」
祈は撫でるのを止め、シャスナハに聞く。
シャスナハは目を開けて、頷く。
「『ハタベイノリ』呼びはやめたのか?」
それを聞いたシャスナハは、なにかに気づいたように目を見開く。
「あーっ!そうだよ!なんでわたしが『ハタベイノリ』ってまちがえてたのに言ってくれなかったのー!」
シャスナハは祈から離れ、代わりに指で祈を指す。
「はは、ごめんごめん。…でも、ペトラのことはお姉ちゃんってつけないんだな。」
祈は素っ気なくシャスナハに聞く。
「えーっ?つけないよ?わたしよりあとに町にきたし、すぐおこるんだから!」
シャスナハは当然のように笑いながら答える。
「はは…そっか。なぁ、俺もペトラに会ってみたいな。」
祈は少し歩いてシャスナハの傍に寄る。
「うん!わかった!聞いてみるね!」
シャスナハは笑顔で承諾する。
しかし、
「…え?だめ?なんで…?」
シャスナハは急に真顔になる。
「『まだ、今じゃない』…?」
頬に汗を垂らし、少し顔が歪む。
「…どうした、大丈夫か?」
祈は変なシャスナハの様子に、心配をかける。
「…うん、だいじょうぶ。でも、ペトラはまだイノリお兄ちゃんにあいたくないって。」
シャスナハは申し訳なさそうに、祈を見上げる。
「…はは、嫌われちゃったかな。」
祈は気にするなと言うように笑う。
「ちがう!そんなことない!だって…イノリお兄ちゃん、こんなにやさしいのに…。」
祈の言葉を、シャスナハは焦って否定する
「おいおい、落ち着けって。大丈夫、大丈夫だから。」
少し涙ぐみ、ワンピースを握りしめるシャスナハを、祈は宥める。
「うう…ごめんね、イノリお兄ちゃん…。でも、ペトラのこと、きらいにならないでほしいの。」
少し、落ち着きを取り戻したシャスナハは、俯いて話す。
「嫌いになんて、なるもんか。大丈夫。…ありがとう、シャスナハ。わざわざ聞いてくれて。」
祈はまだ気分が低いシャスナハを慰める。
「…うん。わたしも、ありがとう。」
笑顔を取り戻したシャスナハは、祈を見る。
夕日に照らされ、その笑顔は輝いて見えていた。
―ピピピ。ピピピ。
電子音を繰り返す時計が、朝を告げる。
祈は眠い体を起こして、時計のアラームを止めた。




