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第25話 揺らぎ

 環とハルバードは、場所を移すべく歩く。

 他愛のない世間話、「七罪セプテム・ペッカータ」についての話などを話しながら歩く。

 陽のあたる道。

 しばらく歩くと、右手側に有る森の中に、参道である階段が現れる。

 簡素な階段を登った先には、小さな神社がひっそりと佇んでいる。

 「なんだここは。」

 鳥居をくぐり、やしろを見たハルバードが環に尋ねる。

「僕のお気に入りの場所だよ。ここなら人もほとんど来ないから、安心して話せるよ。」 

 環はやしろの賽銭箱にもたれかかりながら、ハルバードに言う。

 「別に認識阻害の魔導具を使っているから、そこまでしなくてもいいのだがな。」

 ハルバードは腐葉土と落ち葉を踏みしめ、境内を歩きながら環に言う。

 「まあね…それで、話を戻そう。なんでお前がここにいる?」

 環は一転して、声のトーンを落として言う。

 「知らない。俺はただ、日本でシャスナハとの接触者が現れ、接触者が消えていない。あわよくばシャスナハ討伐までしてくれはしないか。…かいつまんで話せば、こんな要請が日本の魔導局から俺の元に届いた。」

 ハルバードは足を止め、環を見て答える。

 「接触者が、『傍部 祈』だということも聞いている。」

 ハルバードの虹彩異色オッドアイの瞳が、環をつんざくように見る。

 「…くそ!なんで僕じゃないんだ!なんでわざわざ…!」

 環は悔しそうな声を絞り出す。

 「貴様は『七罪セプテム・ペッカータ』を殲滅したばかりではないか。ただでさえ病に侵された貴様が、このまま衰弱して死ねば、国が傾くぞ。…我々は秩序であり兵器だ。その本懐を忘れるな。」

 ハルバードが環から目を逸らさずに言う。

 環は黙ってハルバードを見つめ返す。

 「…それにしても、本当に貴様が通報したのではないのか?まどろっこしいやり方をするなと一言言ってやろうかと思ったのだが。」

 ハルバードは話を戻し、疑問を口にする。

 「…通報するくらいなら、僕が動くに決まっているだろう?そんな面倒くさいやり方、言われてもやらないね。」

 環は緊張を崩さないまま言う。

 「そうか…。だとすれば、他の友人か?」

 ハルバードは再び疑問を投げかける。

 「…いや。そんな気にかけてた様子はない。祈は…もっと有り得ない。祈が1番気にしていなかった。」

 足元に落ちていた、蝉の死骸に群がる蟻たち。

 環はそれを見つめながら思考する。

 「…祈は、死神ぼくかなえを殺したということを知っていた。今回も、誰が通報したのか、思い当たる人物がいない…。」

 巡る思考。

 それは、核心に触れる。

 「…祈の裏に…何者かが…いる?」


 夕暮れの町。

 その町の中心にある、大きな噴水の縁に腰をかけながら、渦中の少女は鼻歌を歌う。

 「ふふーん。ふんふふーん。」

 すると突然、少女は何かに気がついたかのように、鼻歌を止める。

 「はははっ。なんだ、シャスナハ。どこでそんな歌覚えたんだ?」

 シャスナハの目に映ったのは、そっくりそのまま鏡写しにでもしたかのような少女だった。

 「あっ…ペトラ。ふふふっ。これはねー…えとえと、なんだっけ?」

 シャスナハはペトラの方を見て、朗らかに笑う。

 「…まったく。相変わらず、シャスナハは忘れっぽいな。…それにしても、今日はご機嫌だな。」

 ペトラはシャスナハの様子を見て不思議がる。

 「えへへ、そりゃあだって、初めてペトラたち以外の人と話せたんだもの!」

 シャスナハは祈と話したことがどうにも嬉しかったらしい。

 「あー!そういえば、ペトラったら、ハタベイノリのこと傷つけようとしたでしょ!」

 シャスナハは祈がこの町に来た時に、ペトラが広場で威圧をしたことを怒る。

 「…ごめん、シャスナハのことが心配で…。」

 ペトラは申し訳なさそうに謝る。

 「そんなの、ハタベイノリにしつれいよ!」

 ペトラの言い訳に、シャスナハはより怒る。

 「ごめんごめん…。そうだ、そういえばそれを見て思ったんだが…あの男の名は『ハタベイノリ』ではない。『祈』だ。」

 ペトラは怒られながら、話題を変えるためにシャスナハに話す。

 「ええー!?そうだったの!?じゃ、じゃあ、『ハタベ』は!?『ハタベ』はなんだったの!?わたし、ハタベイノリに騙されたの!?」

 衝撃的な事実に、驚きを隠せないシャスナハ。

 「あれは姓だ。簡潔に言えば、一種のカテゴリーのようなものだ。」

 シャスナハとは対照的に、ペトラは冷静に話す。

 「う、うーん?むずかしい…。」

 ペトラの説明に、さらにこんがらがるシャスナハ。

 「はは。まあ、気にしなくてもいい。とにかく、彼の名前はイノリだ。それと、彼を呼ぶ時は『お兄ちゃん』と名前の最後につけた方がいいな。」

 ペトラは更にシャスナハに注文をする。

 「オ、オニイチャン…?」

 世間知らずの少女は、聞きなれないペトラの単語の軍勢に、既にパンク寸前だった。

 「そうだな…『この人、すごい!』とか、『この人、大人っぽい!』とかって思った時にこれをつけて呼ぶと、相手がもっとシャスナハのことを好きになるぞ。」

 シャスナハにも分かりやすく砕いてペトラは説明をする。

 「…!じゃあ、つける!」

 単純なシャスナハは「好かれる」という部分だけを鵜呑みにし、即断する。

 「…ちなみに私にもつけていいぞ。私の場合は『お姉ちゃん』だな。」

 ペトラはシャスナハに向けて、冗談交じりに言う。

 「ええー?なんで?ペトラはわたしよりあとにこの町に来たでしょう?ペトラこそ、わたしにつけた方がいいんじゃないのー?」

 シャスナハは気に食わなかったのか、ペトラに反抗する。

 「はは…まあいいか。」

 そんなシャスナハに、ペトラは大人な対応で対処する。

 すると、シャスナハは急に不思議な顔をする。

 「そういえば、リュウノとエラハウは?」

 シャスナハは姿の見えない2人を探す。

 それを聞いたペトラは、少し黙ってシャスナハを見つめる。

 そして、口角をさっきよりも上げ、目も凛々しくする。

 「…何言ってるんだ?シャスナハ、私はずっとここにいるではないか!」

 男勝りな声を作り、シャスナハに向けて言う。

 「あー!リュウノ!ごめんごめん、見えなかったよ!」

 シャスナハはそんなペトラを見て、明るくなる。

 次に、ペトラは優しく笑って、手で口を隠し、上品な態度になる。

 「ふふふ、シャスナハったら、本当に可愛らしいわねぇ。」

 優しく、丁寧な口調で、シャスナハに語りかける。

 「あー!エラハウもいる!なんだ!みんないたんだね!」

 シャスナハの声が、さらに明るくなる。

 そして、ペトラは再び元の雰囲気にもどる。

 「私たちはどこにも行かない。なぜなら、私たちは固く運命に結ばれているからな。」

 ペトらはしたたかな声でシャスナハに言う。

 「ふふっ。そうだね!」

 シャスナハは全員揃ったのを見て、また無邪気に笑う。

 満面の笑みを浮かべたシャスナハ。

 段々と表情は落ち着き、優しい微笑みと変わる。

 「ねえ、ペトラ…わたしね、今とってもしあわせ。」

 シャスナハは柔らかい瞳で、ペトラを見つめる。

 「だって、夢が叶ったの。ペトラたち以外と、話したいって夢がね。」

 包み込むような優しい声で、シャスナハは話す。

 「ペトラ。あなたはいつも私の傍にいてくれるよね。」

 シャスナハはペトラに語りかける。

 「その、おれいがしたいの。…ねえ、ペトラ。あなたの願いって、なに?」

 シャスナハはペトラに問う。

 真っ直ぐな瞳が、ペトラを射抜く。

 ペトラは真顔になって考える。

 「シャスナハは優しいな。『願い』…か。そうだな…また、考えておくよ。」

 ペトラははぐらかし気味に、シャスナハの疑問に答えた。

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