第24話 あの男
―同刻、魔導局本部。
敷地面積約20000平方メートルに、15階建ての大型建築。
その最上階にて、会議が開かれる。
「全く…なんだと言うのだ急に…。」
「まあまあ、そう言いなさるな。それにしても、これほどの面々、何か相当宜しくないことが起こったようですな。」
「はぁ…胃が痛むわ。この時期になると魔王が出ただのなんだのと…ただでさえ馬鹿げた者たちの対処で忙しいというのに…。」
「蒸し暑いのぉ、空調設備はどうなっておる?」
重役達が机を囲み、皆口々に話し合う。
そこに、ドアを開け1人の男が入ってくる。
「皆さん、このような忙しい時期にも関わらず、お集まりいただきありがとうございます。」
空いていた椅子に座り、その男は話し出す。
「ああ、そうだな。忙しいな。忙しいので早くしてくださると助かるのだが?」
1人の男が、話し始めた男に食いつく。
「…そうですね。では早速、本題に入りましょうか。」
厚縁の眼鏡を少し上げ、その男は続ける。
「本日、皆様に集まっていただいたのは、他でもありません。…シャスナハの件です。」
場の空気から、一気に熱が冷めていく。
会議が、加速する。
「…はぁ?シャスナハ?まさか、誰かが消えただけ、というのではあるまいな?それだけでこの面子を集め、会議を開いたのか?」
「勿論、それだけではございませんよ。シャスナハとの接触者が出たのはそうなんですが、今までと違うのは、接触者が消えていないということです。」
一気に部屋の中の雰囲気が騒ぐ。
「…な、なんだと!?誰だそやつは!」
「そんな議題、一国家のみで話し合う議題ではないぞ!」
「とにかく、その者は一体どこにいる!早急に保護だ!保護!」
「ではどうやってその者が接触したと判明したのだ!」
「まあまあ、みなさん落ち着いてください。順を追って説明しますね。まず判明したきっかけは、ひとつの通報です。内容を要約すると、『話していた友人の様子が急変し、呼びかけたところ、シャスナハ。と呟いた。それ以外に変な様子はみられなかったが、心配なので通報した。』というものらしいのです。」
「なるほどな、その通報した者は誰だ?どこからの通報だ?そして、その接触者も今どこで何をしているのだ?」
「通報者の素性は不明です。そして接触者なのですが…これがまた厄介でして…。」
「なんだ?勿体ぶってないで、早く言え。」
「…接触者は、『傍部 祈』だと言うのです。」
再び、部屋が重い空気にとらわれる。
「…はぁ。またそやつか。何かと問題を起こす…!」
「まあまあ、本人に罪はないでしょう。問題なのは、周りの人達でしょう。」
「…死神か。あやつがそばにいる限り、下手に手出できん…。あの平民上がりが…!」
「保護も無理だろうな。しかしまあ、死神のそばに居るのが何よりも安全であるか…。」
「では死神に対処してもらうように要請したらどうなのだ?」
「いや、死神は先の七罪の殲滅によって消耗しておるだろう。ただでさえ命が短いのに、これ以上縮められては他国との交渉が一気に不利になるぞ。」
「はっは…。誰でも長生きして欲しいのは人として当然の願いですな。」
「それだけではない。『ナイトメア』の平定や迷い込んだ者の保護などは、ほとんど死神が受け持っている。録に引き継ぎもしないままくたばってしまうと、一気に瓦解するぞ。」
「まったく…全てを抱え込みおって…。命が短いなら、いっそ全て手放してくれた方がありがたいわい。」
「いやそもそも、死神は傍部 祈とシャスナハが接触したことを知っておるのか?それか…通報した者が死神ではないのか?」
「いや、それはないでしょう。アレが人を頼るとは到底思えない。」
「ではどうするというのだ!150年間に渡る事件の解決の糸口を、みすみす見逃すというのか!?」
「華月様はどうなのでしょうか?」
「いや、華月様は神官第五席であらせられる。それに対してシャスナハは第三席…いや、あまりにも未知すぎる。下手したら賢者や死神よりも上の可能性も…。」
「まぁ、それにだ、もし華月様がシャスナハとの戦いによって亡くなられてしまったのならば、それこそこの国は終わるぞ。華月様が亡くなって、その内死神も亡くなった後、この国に未来などはないぞ。」
「…そんなことわかっておるわ!だがしかし、この国の神官2人に任せられないと言うならば、他に誰に任せるというのだ!」
「気を荒らげなさんな。これは立派な神官案件だ。他国に協力なんざ、いくらでも頼めるに決まっているだろう。死神は魔力汚染。華月様は階位が下なことを言い訳に、他の国の神官様に協力要請を出せばいい。」
「…はっはっは!いいなそれは!それで良く行けばシャスナハと相打ちになり、今度は逆にこちらが他国に強く出れると言ったものだ!」
「では、その線で話を進めましょう。まぁ、華月様が階位不利、という言い訳で行きますと、必然的に協力を要請できる相手が1人だけになってしまいますね。」
「…うーむ、その方も立場が立場だからなぁ…。引き出せるのは五分五分と言ったところかの。」
白熱した会議の中、最後に部屋に入ってきたものが、手を叩く。
「事態は一刻を争います。これにて会議を終了し、すぐさま交渉に移りましょう。」
「お、環帰ってきたか!」
展示物をまじまじと見ていた瑞里が急に振り返り、大声を出す。
「…うん、ただいま。」
そう言って、瑞里を含めた3人と合流する環。
その顔は、かなりやつれており、蒼白。
「って!お前めっちゃげっそりしてんじゃねーか!大丈夫なのか!?」
瑞里が環を見て驚く。
「いやぁ、昨日の晩御飯が当たっちゃったぽい…。」
環は恥ずかしそうに頭を搔く。
「最近暑っついし、ジメジメしてるものね。まったく、気をつけなさいよ?」
輝がお節介に環を心配する。
「はは、そうだね。」
環は力なく笑う。
それを、祈が真顔で見る。
「…やっぱり、病院とかに行った方がいいんじゃないのか?」
祈が心配そうに、環を見つめる。
祈と目が合った環は、微笑み返す。
「大丈夫だって。心配しすぎ。」
そう言って、環ははぐらかす。
祈は、何か言いたそうな顔をしながら黙る。
「なーなー!これ見ろよ!なんか魔王の近くの街で星みてーな形の石が大量に見つかったってよ!なんだこれ!気持ちわりー!」
そこに、まったく空気を読めないのか、読まないのか、瑞里がはしゃぎ出す。
場の空気を壊された2人は、瑞里をぼーっと見つめる。
「…はぁ…。とにかくだ、これでまた学校休んだら知らねーぞ?無理やりにでもお前ん家入るからな。」
祈は大きなため息をつき、気を取り直して環に忠告する。
「はは。わかったよ。」
環はまた笑って答える。
そして、特に何も無いまま一行は記念館を後にする。
祈と輝は部活動に行き、環は1人、帰路に着く。
(だいぶ回復してきた…。後2、3日に経てば、十分戦闘できる。)
人気のない道で、環は考える。
(使い魔との交代は最終手段だし、…また休むしかないな。祈の約束、破るしかないか。)
とぼとぼと、俯きながら歩く環。
そこに。
「おい。」
環は背後から急に声をかけられる。
振り返り、声をかけたものを見る。
そして、目を見開き、驚く。
「…なんで…お前がここに…?」
驚愕しながら、環はその者に尋ねる。
「なぜ?お前が要請したのだろう?まったく、煩わしいやり方をしおって…。」
その者は、面倒くさそうに吐き捨てる。
「ここではなんだ、場所を移そう…久町 環。」
7月14日 午後4時43分。
日本からの緊急要請により、
神官第二席 賢者の末裔
ハルバード・アルステリオ、来日。




