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第20話 車内での出来事

記念館に向かう車内。

 中は各々のグループで賑わいを見せている。

 「なぁー、いつになったら着くんだ?これ。」

 瑞里が不満げにつぶやく。

 「あんた…まだ5分も経ってないわよ。ちょっとは大人しく待ってなさいよ。」

 それを見た輝は呆れた顔で瑞里を見る。

 「ふっふっふっ…。」

 そんな2人のやり取りを見た祈が何やら怪しげに笑い出す。

 「え?どうしたの、祈。まさか、このバカに当てられちゃったの?」

 不敵な笑みを浮かべる祈を、輝が不安そうに見つめる。

 「違うよ。こんなこともあろうかと、俺、トランプ持ってきちゃったんだよね…。」

 祈はニヤリと笑いながら、自分のズボンのポケットからトランプの箱をおもむろに取り出す。

 それを見た輝は口を半開きにして見つめる。

 「…いや、こんな横一列で、なんのゲームをやるつもりなの?」

 輝が自慢げな祈に向かって正論をぶつける。

 それを聞いた祈に、電撃が走る。

 致命的な弱点に気づいた祈が、ガックリと項垂れる。

 「…2人でする?祈。」

 隣に座る環が祈を慰めるように代案を出す。

 「…いや、いいよ。環…。」

 しょんぼりとしながら祈が答える。

 恥ずかしさもあるのか、俯いたまま祈は顔を上げない。

 「えーちょっと、そんなに落ち込まないでよ!えーっと…そうだ!折角だしなんか魔王について話さない!?予習とか色々した方がいいでしょ!」

 元気をなくした祈と、冷めつつある空気を無理やりにでもあげようと輝は全力で考える。

 「おめー、そんなのぜってーおもんねーだろ。」

 輝の隣に座る瑞里が、冷たい目をしながら輝に吐き捨てる。

 「うっさいわね!あんたもちょっとは空気読みなさいよ!」

 そんな瑞里に向けて輝が焦りながらイライラする。

 「もうちょっとで着くだろうし…いいよ。みんなで話そ。」

 覇気のない声で祈がつぶやく。

 「あーちょっと!大丈夫だから!ねぇ!」

 輝が1層増して焦り出す。

 「うーんと…あ!そうだ!陰謀論とかに近いけど、『阿国あくに市民しみん集団しゅうだん失踪しっそう事件じけん』とかは?」

 輝が頭を捻って、ようやく思いついたかのように話す。

 すると、瑞里が信じられないような顔で輝の方を見る。

 目を見開いて、口も開いて、ただまっすぐ輝の方を見る。

 「…え?ちょっと、どうしたのあんた、あんたがいちばんこういうの好きそ…」

 「鹿お前…!」

 意外な瑞里の反応に、困惑しながら話す輝。

 そんな輝を焦りながら瑞里が止めに入る。


 「阿国市民集団失踪事件」

 2023年3月8日。

 突如として阿国市民全員が姿を消した事件である。

 帰還者はおらず、未だ詳しいことは何も発表されていない。

 そのため、巷では神官が絡んだ事件だとか、魔王が復活しただとか、噂が尾を引いている。

 現在、市全体は巨大な結界魔法によって封鎖されている。


 「…いいよ。今はもう別に気にしてねーよ、瑞里。」

 焦る瑞里に向けて、祈が少し笑いながら言う。

 すると瑞里は心配そうにしながら、祈を見つめ、口を噤む。

 未だ状況が掴めず、輝は困惑しながら、瑞里と祈を交互に見る。

 環はただ、祈を真顔で見つめる。

 そんな輝を見て、祈がゆっくりと話し始める。

 「…その事件が起きた日は、俺のお姉ちゃんが死んだ次の日なんだ。」

 淡々と説明を始める祈。

 その説明を聞いた途端、何かを察したように、輝の顔が曇る。

 「俺のお姉ちゃんの葬式が終わった次の日にさ、学校に行ったらその話題で持ち切りでさ、みんな、俺の不幸なんか全然眼中に無いって感じでさ。」

 祈は話しながら、だんだん口角と目線が下がる。

 「みんな俺を見ても、『残念だったね。』って一応は言ってくれるんだけど、それで終わりだった。悲劇のヒロインぶりたい訳じゃなかったんだけどさ、流石にちょっとキツかったな。」

 輝が申し訳なさそうな顔をして俯く。

 「…でも、そんな中で俺のことを本気で心配してくれた数少ない1人が瑞里なんだ。…あん時はありがとな。」

 急に感謝された瑞里は、不意打ちにむず痒い気持ちで、顔を赤くして「はうあっ!」と短く叫ぶ。

 それから、場を沈黙が支配した。

 (やべー、どうしようこの雰囲気。)

 輝の次は、祈がこの空気にしてしまった一因として、この場の雰囲気を如何にして盛り上げようかと悩み始めた。

 (うわー、なんかねーかな、うーん…)

 頭を抱えながらフル回転させた祈は、急にはっとしたように上を向く。

 「…そういえばさ、俺、魔王に会ったことあるんだよね。」

 …は?

 と言わんばかりに3人は目を点にして祈を見つめる。

 「ぶっははは!祈っ、祈が壊れたー!」

 「えぇ…ごめん、ごめんね…私が古傷を抉っちゃったから…。」

 突拍子もない祈の発言に、笑う瑞里と、本気で心配し謝罪する輝。

 「祈、どういうこと?」

 いつもは冷静な環も、頭にはてなマークを浮かべるような顔をして祈に問いかける。

 「いやっ、本当なんだって!」

 自分の発言を俯瞰して、相当変なことを言ってしまったと自覚した祈は、必死に弁明しようとする。

 「俺が中2の時に…てかあん時、『華』はもっとち…」

 3人が注目する中、発言の途中で、祈の口が急に止まる。

 焦って必死になっていた顔から、だんだんと力が抜け、真顔になる。

 空いていた口も、それに合わせて閉じていく。

 「…祈?」

 急変した祈の様子に、環が心配する。

 瑞里と輝も、不思議そうに祈を見つめる。

 祈の顔は真っ直ぐを向き、目はどこか遠くの方を見つめる。

 エンジン音と、遠くで他の人達の話し声が聞こえる。

 そして、祈はゆっくりと口を開く。

 「…シャスナハ?」

 また訳の分からないことを言ったと思った瑞里と輝は、さらに困惑しながら祈を見つめる。

 ―ただ一人、久町 環にのみ戦慄が走る。

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