第2話 祭りのあと
魔獣出現から翌日、学校に着き俺は自分の席に座る。
生徒たちは昨日の魔獣出現について噂していた。
魔獣出現の日の晩、眠りについた俺は見慣れた白い空間にいた。
「ようやく死神と会えたな。」
目の前に立つミカはそう言う。
「…ああ、やっぱり見間違いじゃなかったんだな。なんつーか、まだあんまし実感湧いてないけどな…。」
「なんだ?急に腑抜けて。まさか、怖気付いたのか?」
ミカが眉間に皺を寄せる。
「安心しろよ、ミカ。ど」
「そうか…では頼むぞ。祈。」
そんな昨日の出来事を思い出していると、廊下の方からドタドタと誰かが走る音がする。
その音は俺の教室の前で止まり、勢いよく扉を開ける音が響き渡る。
そのまままたドタドタと音を立てながら、その男は近づいてくる。
教室の生徒は、その男が騒がしいのは通常運転なので、別に気にもとめない。
「なあなあ!昨日の魔獣出現したところって、お前の家の方向だよな!お前なんか見たか!?」
この男の名前は頼畑 瑞里。
中学からの俺の友達でいつもエネルギッシュだ。
特に、大きな出来事が起きると、いつもより余計に暑苦しくなる。
「…別に、なんも見てねーよ。」
「またまたぁー?なんか今日テンション低いな?俺に、聞・か・せ・て・み・ろ・よ♡」
俺の耳元でカマーンだのプリーズヒアーだの気色の悪い鳴き声をあげる瑞里の頭に鉄槌が下る。
「朝から気持ち悪い声出さないでよね。」
床で悶絶している瑞里に鉄槌を下した女はそう吐き捨てる。
この女の名前は御星 輝。
500年以上前から星の紙を祀る、御星家のお嬢様だ。
「いやー、朝からこんなのに絡まれて、災難だったね、祈。そういえば、今日は環は休み?」
輝は微笑みながら言う。
「…うん。風邪かなんからしい。動けない訳じゃないから来なくて大丈夫って言ってるけど、一人暮らしだからなんかあったら心配だ。」
「じゃあ帰り、なんか差し入れ行く?…ってでも祈、家反対だったよね。どうする?」
「いや、俺も着いてくよ。」
「あー!お前テンション低いと思ったら環が休んでるからかよ!ゾッコンじゃねーか!」
俺と輝の話に、瑞里は俺の机に手をかけて勢いよく立ち上がりながら割り込んできた。
そんな瑞里を輝は睨む。
「次は魔力込めて殴るわよ。」
拳を構える輝に、瑞里は急に大人しくなる。
「それにしてもよぉ、やっぱり昨日の魔獣出現、やっぱなんかおかしくねーか?やけにアラートも短かったし。」
瑞里はやはり昨日の事件が気になるらしい。
「ニュースでもまともに報道されないものね。」
「俺は神官絡みじゃないかと思ってるぜ。」
「はぁ、あんたほんと馬鹿ね。なんでこんな小さい町に神官様が来るのよ。」
「でもやっぱ報道全然されてねーじゃん!こんな情報でてないのってやっぱ可能性あんじゃねーの!?」
「無いわよ。」
2人の言い争いを、俺はただ黙って聞く。
この世界の人間は、魔力量や知識量、技術力などを総合的に見て、位分けされる。
位は下から「魔法使い」「魔術士」「魔道士」と大きくわけて3つに分けられる。
その中でも、下から「3級」「2級」「1級」「大」と細かく分けられる。
頼畑 瑞里は2級魔術士、傍部 祈は大魔術士、御星 輝は3級魔道士。
平均的に成人は魔術士位で収まる。
魔道士位にもなれば国の魔法防衛隊に入隊することができる。
しかし世界にはその上を行く化け物たちが存在する。
「神官」。
この世に10人のみ存在するとだけ言われており、それ以外は一切不明。
個人で国家レベルの戦力を持っている、真実に近づいた者は消されるなどの噂が独り歩きしている。
魔王や賢者の子孫や、世界的な英雄など、神官ではないかと噂される者はいるものの、真相は不明である。
「ロマンを求めて何が悪いんだよ!俺はぜってー信じるぞ!」
「ロマンも何も、絶対ありえないって言ってんのよ!」
「なあ!祈は本当になんも見てなかったのか!?」
「いや本当になんも見てねーよ。その時間はもう家いたし。」
瑞里からのキラーパスを無難に躱す。
「なんだよぉ…くそぉ…」
へなへなと力無く床に瑞里がへたり込む。
ガラガラと教室の前から先生が入ってきて、ホームルームが始まった。
学校からの帰り道、俺と輝はコンビニで適当に食べ物を買い、環の住む部屋の前に立つ。
「環ー?大丈夫かー?」
その言葉に、返事はない。
チャイムを押しても、反応がない。
「留守かしらね…?まさか学校サボった?」
「いや環に限ってありえねーよ。どうせ寝てるだけだろ。」
俺はそう言って、環の住む部屋のドアノブにレジ袋をかける。
中にはさっき買った食べ物と、体調大丈夫か?明日は学校来いよ!と書いた手紙を入れた。
「明日は来れるかな。」
「そうねー、来れるといいわね。なんて言っても明日は環の誕生日だからね。」
「そうだな。」
俺と輝は雑談を交わしながら、環の部屋を後にする。
夕日に照らされる帰り路。
金色に染まる街。
今日のこの時間は、何故か少し寂しくなかった。




