第19話 魔王記念館
空は晴れ、朝8時前。
環はいつものように学校に登校する。
しかし、いつもの学校の様子とは少し違う。
校庭に、何台かバスが止まっている。
環は自分の教室に入る。
教室の中は、気持ちいつもよりも騒がしいように見える。
環は自分の鞄を置こうと席に向かう。
自分の席の周りには、いつもと同じ3人組が仲の良さそうに喋っている。
「おはよう、みんな。」
環は3人組に向けて声をかける。
すると、3人の視線が一斉にこっちを向く。
「お、おはよー環。最近来るの遅いな。」
環に気づいた祈が、挨拶を返す。
「また体調崩したわけじゃなさそーだな。一昨日、一緒に試合見に行ったから俺もやべーかもって一瞬焦ったぜ。」
祈に続いて、瑞里が環の方を向いて冗談交じりに、困ったように言う。
「ほんとよねー。環ちょくちょく学校休むんだから、心配するわよねー。でも瑞里。あんたは多分体壊すことないから安心しなさい。」
輝は相変わらず瑞里に対して毒を吐く。
「はぁ!?それどーゆう意味だよ!」
やはり、瑞里はチクチクと刺すような輝の言葉に反発する。
「そのまんまの意味よ。馬鹿は風邪を引か何とやらってね。」
「おい!そこまで言ったなら全部言えよ!」
延々と騒ぎ立てる瑞里と輝。
それを見た環と祈は苦笑する。
そして祈は少し笑みを柔らかくして、環の方を見る。
「…でも、実際心配だぜ。お前、一人暮らしだから助けとか呼べないんじゃないかって。」
祈は、笑ってはいるが内心真面目に心配しているのだろう。
「それは大丈夫だよ。いざとなったらちゃんと連絡するから。」
環もまた笑みを浮かべながら祈に言う。
「そうか?お前はなんか大事なこととか抱え込むとこあるから心配だよ。」
祈は若干眉を下げる。
「…そうかな。」
環は少し俯きながら答える。
間もなくして教室内に予鈴が響く。
それと同時に担任の先生が教室の前の扉から入ってくる。
「はーい、今日はホームルーム無しで、筆記用具持って、校庭に集合してくださーい。」
気怠そうに、適当な感じでそれだけ言うと、先生は教室から出ていく。
それを聞いた教室内の生徒たちも、教師の後を追うように出ていく。
「俺たちも出よーぜ。」
そう言って、祈りたち4人も教室から出ていった。
「…はい、全員集まりましたね。はいみなさーんこちらの方を向いてくださーい。」
教室から出て、バスが止まる校庭に学校にいる2年が集められる。
そして全員が集まると、集団の前に先生が立ち、大きな声で話し始める。
「えー、今から遡ること、約150年前の今日。この日は魔王である『宵月 明華』様が亡くなられた日であります。そしてこの市は魔王様が亡くなられ、また生前育ち、親しまれた地でもあります。それに敬意を持って、わが校の2年生は毎年魔王記念館に来訪する倣いとなっております。魔王様のことは授業で習ったと思いますが、記念館に行き、たくさんの学びを得て欲しいと思っております。えーまた、記念館では重要な展示物が多々あり、また本日の日柄と重なり、来館者も増えると予想されるため、呉々も騒ぐことのないようにしてください。」
長々と先生が喋り終えると、1組から順番にバスへと乗り込む。
そして順番が来ると、環たちもバスへと乗り込む。
「よっしゃ!俺ここの席ー!」
そう言って、瑞里は一番にバスの中に駆け込んで1番後ろまで走り込む。
そのあとを追って、輝がバスへと乗り込む。
「あ!ねえちょっと、私他の女子の子達とも話したいからもうちょっと前の方にしてよ!」
輝がバスの最後座席の中央でふんぞり返る瑞里を見て叫ぶ。
それを聞いた瑞里は初めは抵抗気味だったものの、時間が無いので結局しぶしぶと輝の方まで行った。
「はい私ここー!あんたは窓側に座ってよね!私みんなと話したいから中の方座る!」
「あ!ずりぃ!おめーこそ優雅に窓側で物憂げに黄昏てればいいだろ!」
「はぁ!?何よそれ!この時代に家柄のことでいじるのはハラスメントよ!有罪よ有罪!」
この2人はどこに行ってもこんな感じなのだろうか。
祈と環は遠い目で2人を見ながら、中央の道を挟んで2人の隣に座る。
その後に続いて、クラスの他のものたちがぞろぞろと車内に入ってくる。
「てかさ、なんでこんなテスト近ーのにこんな行事あんだよ。普通にテスト終わるんだけど。」
一悶着が終わり、瑞里が大人しくなって話す。
「仕方ないでしょ。魔王様が身罷られたのがこの日なんだから。まぁ、復活説とかもあるから、単純に亡くなったとは断定できないけどね。」
輝は瑞里を見ながら疑問に答える。
「知ってるわ!そんぐらい!俺は常にロマンを追求する男だからな!」
自慢げに話す輝に向かって瑞里が急に牙を剥く。
「はぁー…。そんな反応されたって、私にはもう叫ぶ体力なんてないわよ…。ちょっとパス…祈、環。」
輝が力なく喋り、祈たちにキラーパスをする。
「えぇ…そんなこと言われたって、俺たちが制御出来るわけねーじゃん…。」
面倒くさいのを回された祈が、面倒くさそうに答える。
そう答えた祈に、瑞里が食いつく。
「いやだなー、祈きゅん。俺とお前の仲だろ?ほらほらぁ、この俺を、飼い慣らしてみろよ?」
祈に向かって狂犬が嫌な目つきで見る。
「はいそこーうるさいぞー。」
そんな会話が聞こえたのか、先生が前の方から瑞里たちを注意する。
注意された狂犬は急にかしこまって、さっきまでが嘘だったかのように静かになる。
それを祈は唖然として見る。
「なあ、環。こいつどう思…」
祈が首を回転させて話しかけると、環は自分には関係ないかのように窓から外の景色をぼーっと眺めていた。
「…あぁ、どうしたの?祈。」
そう言ってすっとぼける環に、祈はガックリと肩を落とす。
騒がしい車内。
それを他所に、バスにはエンジンがかかり、記念館へと向けて出発した。




