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第18話 夜明け

 「お、よーやく戻ってきたか。」

 洞窟の入口からゆっくりと現れた、漆黒のローブを見て李晨は呟く。

 それを聞いた環は、黒いローブのフードを捲る。

 「あれ、もうみんな終わってたんだ。」

 環は洞窟の前で環の帰りを待っていた皆に向けて言う。

 「ああ!とっくの前に終わったぞ!」

 腕を組み、満足気な様子でギルヴェルが言う。

 「貴方も最後から二番目だから人のこと言えないでしょう。まったく、貴方は大抵戦闘を引き伸ばしちゃうんですから。困ったものですよ。」

 そんな様子のギルヴェルをやや引き目で見ながら、ルベリアは呟く。

 ルベリアに突かれたギルヴェルは、なんだか照れた様子で頭を搔く。

 満更でも無さそうなギルヴェルを見て、ルベリアは「はぁ」と大きなため息をつく。

 そして、視線を環へとうつす。

 「体、大丈夫ですか?」

 ルベリアは心配そうに環に問いかける。

 「うん。今日は安定してるよ。本気も出さなくて済んだしね。」

 環は普通そうにして、ルベリアに返す。

 ルベリアは、何事もなさそうな環を見て、少し安心そうになる。

 「…どうでしたか?お相手さんとの戦い。」

 ルベリアはまた違う質問を環に投げかける。

 「…『ありがとう』…だってさ。」

 環はルベリアの顔の少し下辺りを見て返す。

 「…そうですか。それは良かったですね。」

 それを聞いたルベリアは少し微笑んで、環に言う。

 環はどこか呆けた様子で頷く。

 「…どうかしたんですか?」

 そんな様子の環に、ルベリアは心配そうに聞く。

 「…いや。なんか、久しぶりに言われたような気がしてね。」

 環はどこか懐かしむように言う。

 そんな様子の環を見ながら、ルベリアは少し悲しそうに環を見る。

 「他の使い魔達の戦闘も終わったのですか?」

 ルベリアはギルヴェルから視線を移し、環へと問いかける。

 「…ああ、うん。2体とも終わって、もう僕の中に帰したよ。」

 環はなんでもないかのように微笑みながら言う。

 「そうですか。それじゃあ、晴れて『七罪セプテム・ペッカータ』撃破完了ですね!いぇーい!」

 それを聞いたルベリアは、無邪気な子供のように両手でピースサインをつくり、上へと掲げる。

 「おい!絶対そんなテンションじゃねーだろ!華月さんを見ろよ!」

 あまりにもテンションが高いルベリアを見て、李晨が華月を指さしながら叫ぶ。

 そんな李晨の指の先には、未だしゃがみこみながら俯く華月の姿があった。

 一同に背を向ける華月には、うっすらとどんよりとした影がかかっているようにさえ見える。

 「んもー!華月さん!いつまでそんな調子なんですか!」

 そんな華月に向けて、ルベリアは大きな声で華月に呼びかける。

 張り上げたルベリアの声を聞いた華月は、疲れた顔でルベリアの方を見る。

 「いや…こっち割ときつかったんだぞ…?なんて言うか…もっとこう…労る気持ちとか…」

 「何言ってるんですか!そんないつまでも引きずっちゃって!あなたやっぱり神官向いてないですよ!」

 ぼそぼそと喋る華月に対して、ルベリアは聞く耳を持たない。

 それを見た李晨は、もはや何も言わず、ドン引きした顔でルベリアを見つめる。

 それでも尚、華月の調子は変わらない。

 その様子を見たルベリアは、静かになって華月を見つめる。

 「…そんななんでも背負しょいこんだら、立てなくなるのも当然です。忘れるのも、また一つの手ですよ。」

 さっきまでの様子と一変して、ルベリアは優しい声で、寄り添うように華月に声をかける。

 それを聞いた華月は、ただ黙って、真顔で地面を見つめる。

 ひとしきり終えたルベリアはふーっと大きく息を吐く。

 「…さて!気を取り直して!私たちのBOINEグループに送る写真でも撮りますか!」

 そしてまた元の調子に戻ってルベリアがはしゃぎ出す。

 「いや!だから!なんでおめーはそんな浸らねーんだよ!」

 テンションの上がり下がりが激しいルベリアに向けて李晨が突っ込む。

 李晨の言葉を受けたルベリアは、李晨の方を向く。

 「えー?別に良くないですか?これもまたひとつの思い出ですよ!私たちのね。」

 そういいながらルベリアは李晨を気にもとめずにスマホでパシャパシャと写真を撮る。

 何も聞かないルベリアに、李晨は口を噤んでしまった。

 「いやー、BOINEに活気が溢れてきましたね!」

 どこがだよ。と李晨が心の中で思いながらルベリアをじっとりと見る。

 「欲をいえば、全員揃って欲しいですけどね。」

 ルベリアはスマホを弄りながらつぶやく。

 「…それは無理だろ。残ってるのは、シャスナハの婆さんだろ?俺たちの誰もあった事ねーし、会う方が無理だろ。てか、そもそも生きてんのか?」

 ルベリアを見ながら、李晨が真面目になって答える。

 「いや、生きてはいるでしょう。今でもちょくちょく何人か()()()ますしね。…でもまぁ、多分会えないでしょうけどね。」

 ルベリアも最初からわかっていたかのように返す。

 「シャスナハか!一度は戦ってみたいものだ!」

 少し離れていたところで、土を掘ってミミズを捕まえては食べていたギルヴェルが、こちらの話を聞き、話に割り込んでくる。

 ずんずんと近づいてくるギルヴェルに、露骨に2人は嫌そうな顔をする。

 「いや無理だって。だって見えねーんだもん。」

 ギルヴェルと距離を取りつつ、李晨が返答する。

 それを聞いたギルヴェルはつまらなさそうにしてまた離れて土を掘り出す。

 「…あのさ、そろそろ学校始まるから帰ってもいいかな?」

 静かに話を聞いていた環が口を開く。

 「あれ、もうそんな時間ですか?」

 環の言葉を聞いたルベリアは、時計を確認しながら言う。

 「おー、じゃあそろそろ解散にすっか。」

 李晨も環に乗っかる形で帰ろうとする。

 「えー、私はまだこうやって話しててもいいんですけどね。」

 解散の雰囲気を感じたルベリアはもの惜しそうに言う。

 「ここでだべってても、なんにもならねーだろ。ほら、さっさと帰るぞ。」

 そんな様子のルベリアに李晨は無理やりにでも帰らせようとする。

 その裏で、さっさと転移の魔法陣を展開して、環は一人帰ろうとする。

 「それじゃーな、環。」

 帰ろうとする環に向けて、李晨は笑って挨拶をする。

 それを見た環は微笑みを浮かべながら、魔法陣の中へと消えていった。


 カーテンも締まり、電気も付いていない暗い部屋の中、午前7時、魔法陣を通して環が帰る。

 汗や血の匂いが少し染み付いた環は、シャワーを浴びようと風呂場に向かおうとする。

 しかし、部屋の中が暗いのが妙に気になり、環は先に、カーテンを一息に全開にする。

 そこには、東から昇った太陽が、白い光を部屋の中へと零す。

 光に照らされて、部屋の中は明るさを取り戻す。

 『…ありがとう。』

 環の頭の中で、暖かな断末魔が木霊する。

 環はしばらく間、窓の向こうの明るい街を眺め続けた。

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