第15話 フラン・ポノトシア
「あ?もう終わってんのか?」
洞窟から出てきた李晨は、洞窟の入口で座ってたむろしているルベリアと華月を見る。
2人は、深夜暗い中、焚き火を囲んでいる。
「はい。とっくのとうですよ。李晨さんこそ、今頃終わったんですか?」
ルベリアも李晨の方を見上げる。
「いやなんか、話が長かったんだよな。」
李晨は先の文也のことを思い出し、頭を掻きながら答える。
「えー、また馬鹿真面目に話聞いてあげたんですか?やっぱりマフィアとか向いてないですよ貴方。」
そんな李晨をルベリアは半ば信じられないような反応をする。
「ほっとけ。それは俺が1番思ってんだよ。…まぁ、ほぼ強引にさせられてるようなもんだしな。」
李晨はルベリアからの反応を軽く受け流す。
「華月さんもなんか落ち込んじゃってますし、真面目すぎるんですよ。貴方も華月さんも…環さんも。」
ルベリアは少し俯いて何も無いところを一点に見つめて、言う。
華月はルベリアの隣で俯き、見るからに落ち込んでいる。
「そうか?俺は普通だと思うけどな。相手は罪人である前に一人の人だ。尊重するべきところはあると思うけどな。」
ルベリアの答えに李晨は静かに真っ向から反対する。
「そうですか。でも今日の相手方は前々から訳ありだってわかってたでしょう?どうせ殺すこともわかっているなら、聞いてもこっちが辛くなるだけじゃないんですか?」
ルベリアは李晨の思想に疑問を抱く。
「…まあな。それでも、聞いてやりたいと思うんだよな。」
李晨はそれでもなお、自分を曲げずに答える。
それを聞いたルベリアは肩を下ろしながらふーっとため息を着く。
「…そういえば、環たちはまだ帰ってきてないんだな。」
李晨はふと思い出したように聞く。
「ああ、そうですね。でも環さんは私たちみたいに魔法が理不尽というか、基礎が化け物って感じですからね。時間はかかってもしょうがないです。まぁ、相手が手強いのかもしれませんね。」
ルベリアは元の調子に切り替えて喋る。
「まあな。…ギルヴェルはいつもどうりか。かわいそーだな。ギルヴェルと当たったヤツ。あいつなるべく長く楽しめるようにじわじわ嬲るからな。」
李晨は頭の中で様子を思い浮かべたのか、若干顔をひきつらせ、脂汗をかきながら言う。
その時。
洞窟の奥から爆発的な魔力が入口にまで溢れ出す。
3人はその魔力を感知する。
「…!これ、まさか…『覚醒』か…!?環って、確か使えなかったよな?」
李晨が洞窟の入口を見ながら言う。
「…ええ。この戦いで目覚めたのか、それとも…お相手さんですかね。どちらにせよ、苦戦しているらしいですね。」
ルベリアも声のトーンが少し下がる。
「加勢するか?」
李晨がルベリアの方を見て問いかける。
「…んー、いや、いいでしょう。因縁ありっぽいですからね。環さんもその覚悟でしょう。」
ルベリアは李晨の問いに答える。
「頑張ってくださいよ。環さん。」
ルベリアは洞窟をじっと見ながら、1人呟く。
時は少し遡り、洞窟最奥。
そこは四方が溶岩のようになっており、中の温度は蒸し焼きになりかねない程熱い。
そこで、2人の人影が絡まりあっている。
(…くそっ。なんなんだこいつは!)
フランは目の前の死神からの攻撃を必死に避けながら思案する。
フランも四方の溶岩を環に向けて飛ばすが、環はそれを黒いローブを靡かせながら躱す。
(こいつ、速すぎて全然攻撃が当たらないし、当たったとしても、硬すぎて全然攻撃が通らない!しかも、絶対少しはダメージは入っているが…おそらく、回復している!)
環はフランの懐に潜り込み、右手でフランの顔を目掛けて突き出す。
フランは間一髪で避けるが、頬を掠り、血が垂れる。
(攻撃も鋭すぎる!遠中近、全ての攻撃が全て超上澄み!更に、ただでさえ早いのに、魔力を全く感知できない!この黒いローブの魔道具の所為か!?)
フランはそのまま少し下がり、手に持つ三又槍を環に向けて突き刺す。
が、そこには既に環はいない。
フランが視線を上にあげると、環が空中で牙突の構えをしている。
フランはそれを見て、辛うじて槍の持ち手で防ぐが、体制を崩し、壁際まで吹き飛ばされる。
それを見た環はすかさず左手で環の方を指差す。
「鎌鼬。」
そう唱えると、フランの腹部が切り刻まれる。
環の使用している魔法は、「風」。
能力は単純だが、それだけにかなりの応用が効く。
「鎌鼬」はその応用した技のうちの一つで、風の発生範囲を狭く疾く鋭くして、飛空する斬撃に昇華させる。
更に環は能力「超再生」を所持している。
これにより環は、心臓と脳以外の部位をどれだけ傷つけられても、3秒後には全快する。
フランはそのまま膝をつき項垂れる。
辛うじて顔だけは上をむくが、目の前には死神が立っている。
「…中々強かったよ。僕と近接戦が成立したのは久しぶりだ。」
環はそんなフランに向けて言葉を向ける。
そして、右腕に魔力を通わせ、風を纏わせる。
やがて、それは鋭い刃となる。
その右腕を、フランの顔に向ける。
「何か言い残すことはあるかい?」
フランは再び地面を見る。
「…まだだ…!」
フランは辛うじて口を開く。
「…まだ…俺は終わっていない…。いや…始まってすらない…!」
フランは再び顔を上げ、死神を睨む。
「お前を…死神を…英雄を殺して…世界は初めて俺たちを…見る…!恐怖を…俺たちの…怒りを…思い出させて…やる…!」
フランは口から血を溢れさせながら、言葉を紡ぐ。
「…待っていてくれ…。父さん…母さん…ミハイル…!」
フランは少し、口角を上げる。
「俺が…必ず…祖国の無念を晴らす!!!」
フランは死にかけていたのが嘘のように立ち上がり死神に向けて歩み出す。
が、死神は無慈悲にもフランの腹に風の刃を突き立てる。
チェンソーのように風を循環させているので、その流れに沿ってフランの臓物や血が飛び散る。
しかし、フランは右手で死神の腕を掴む。
「…俺はぁ゛…わずれ゛な゛い゛…!怒りぃ゛を…!忘れ゛て…たま゛る゛ものがぁぁぁ!!!」
その瞬間、フランから莫大な魔力が溢れ出し、溶岩がフランを覆い、球体へと姿を変える。
環は後ろへ飛び、間一髪逃れる。
外の溶岩がひび割れた岩となり、少しして砕け散る。
その溶岩の中から、傷が完治し、先程とは明らかに別次元の存在と化したフランがゆっくりと歩く。
フランは何も言わず、ただ目の前の死神を睨みあげる。
「…行くぞ。」
フランはそれだけ言い、槍を環に向けて構える。
それに応じて、環も居合のような構えをする。
刹那の静寂。
そして、2人の攻撃は交差する。




