第13話 グラハム・アナトリス
狭く暗い洞窟の中、華月はただ洞窟の中を走る。
少しすると、何やら奥の方から蠢く影が見えた。
段々と近づいてくるそれは、大量の人形の群れだった。
1つ1つは然程大きくないものの、その数が以上であった。
人形は皆違う形をしており、それらは目がボタンでできている、いたって普通の見た目をしていた。
ただその口だけは、大きく牙を剥き、にたりとした笑みを浮かべていた。
それを見た華月は、焦るでもなく、恐れるでもなく、ただ走りながらたずさえた刀を抜き、構える。。
深く息を吸い、その眼差しは群れを捉える。
「深淵よ。万物統べし無冠の覇者よ。その力を持ってして、彼の者を無に帰せ。」
華月の魔法の詠唱が始まる。
唱え終わると、華月を中心に半球状に紫色の空間を展開する。
人形の群れと華月の空間が衝突する。
がしかし、何も起こらず人形はすり抜け、中心の華月に飛びかかる。
「無刃。」
華月はそういいながら、ただ1つの人形に向かって刀を振り下ろす。
その瞬間、空間内に斬撃の雨が発生し、空間内の人形全てを両断する。
宵月 華月の魔法は「空間」。
華月を中心に紫色の空間を展開し、空間内の物体を自由自在に操作する。
現在華月が使用した「無刃」は華月が放った斬撃を大量に複製することにより、空間内の敵を切り刻む技である。
全ての人形を倒した華月は、再び洞窟の奥へと歩みを始める。
その洞窟を少し進むと、Yシャツを着た男が仁王立ちをしているのが目に見えた。
華月もそれが視界に入った途端、スピードを緩め、止まる。
「あんたが俺の相手か。」
グラハムは華月を見て言う。
その目は、華月を睨んでいるようにも、どこか諦観しているようにも見える。
「左様。して貴方は?」
華月は冷静にただ答えと問いを投げかける。
「俺か?俺は暴食のグラハム・アナトリス。あんたは…テレビで見たことあんぜ。魔王のなんちゃらだろ。」
グラハムは華月を見て、飄々とした態度で答える。
「おお。知っているのだな。」
華月は少し愉快そうに笑う。
「まあな。孤児院じゃテレビ見るしかやること無かったしな。」
グラハムは少し寂しそうに笑う。
「そうか。…それで同情して貰えると思ったのか?」
グラハムの言葉と態度に華月は真顔になり、ただグラハムを一点に見つめる。
辺りに、緊張が走る。
ただ、それとは裏腹に、華月の胸中は少し軋む。
許してはならない目の前の存在を、華月はただ睨む。
「いーや。別に。そんなんじゃないさ。」
グラハムは両手を顔の高さまで上げて、ため息混じりに言う。
「今際の際だから振り返ってんのさ。後悔まみれの人生を。」
グラハムはまた寂しそうに笑い、目を細めて華月を見つめる。
華月はゆっくりと刀を構える。
「何を今更…。後悔が分かると言うのならば、今貴様らがしていることはなんなのだ?」
華月はグラハムに問いかける。
「…さぁな。…そうか…そうだな。…なんなんだろうな。」
グラハムは開き直ったような調子で答える。
「…ただ俺たちは、知って欲しかったんだ。誰にも気づいて貰えなかったから。誰にも知って貰えなかったから。だから…」
「そうか。よくわかった。お前たちは子供だ。構って貰えないから駄々を捏ねるだけの無力な者。」
グラハムの言葉を遮り、華月はグラハムたちを断ずる。
「…でも俺たちは知っている。お前たちがどんな奴等かくらい。解釈には都合の悪い俺たちを、お前らはそもそも見ない。だからもういいんだ。」
グラハムは華月をまっすぐ見る。
そして息を深く吸う。
「烏合の獣!!!」
グラハムが目を見開き、大きな声で叫ぶ。
すると、グラハムの背後から有象無象のぬいぐるみの波が押し寄せる。
(使い魔の類か。特殊な魔法を持っていた場合厄介だな。)
ぬいぐるみの群れを目にした華月は冷静に判断する。
華月は後ろに大きく下がり、先よりも大きな穴空間を展開する。
空間内にぬいぐるみが押し寄せるが、華月は瞬時にぬいぐるみの性質を分析する。
(特におかしなぬいぐるみはないか。)
華月は全てのぬいぐるみの分析を終え、無刃を発動しようとする。
「呪傀儡。」
その瞬間、グラハムが唱えると同時に、ぬいぐるみ達の魔力が大きく膨らみ、ぬいぐるみたちが融合する。
その光景に、華月は様子を見る。
下手に手を出しては逆に厄介な魔法にかかるかもしれないからだ。
やがてそのぬいぐるみたちは、ひとつの長い黒神の大きな女の人形と化す。
その人形は、真っ白なワンピースに、麦わら帽子を被り、目元は真っ黒で、口は裂けるほどに大きかった。
そのぬいぐるみは、ゆっくりと腕を上げ、華月の方に指を指す。
大きな口でニタりと笑い、ボキボキと音を鳴らしながら首が傾く。
その瞬間。
「灰畝。」
華月がそう唱えると、その人形とグラハムの身体が爆発し、吹き飛ぶ。
「かはっ…」
グラハムは呼吸もままならず、吹き飛んだ体躯は地面に打ち付けられる。
グラハムはもはや起き上がれずに、よろよろとのたうち回る。
手をじたばたと動かし、最期まで足掻こうとする。
そして、グラハムは何かに手がふれる。
グラハムはその感触に、どこか懐かしさを覚える。
それは―。
よくよくもう一度計算してみた結果、祈の姉、叶が死んだのはやはり2年前でした。すみません。




