第11話 ダフネス・ガブリエラ
数分前、李晨とは別の小路。
薄暗い小路をルベリアは悠々と歩く。
ルベリアの左腰には、大きな剣を携えている。
すると、前方に修道女の格好をした女が立っていたので、ルベリアは歩みを止めた。
「…チッ。私が神官相手か。ツイてねェな。」
その女―ダフネス・ガブリエラはルベリアを見るなり舌打ちをした。
だがその顔はどこか初めからわかっていたような顔だった。
「貴方、私を知ってるんですか。」
ルベリアは何食わぬ顔でダフネスに問う。
「そりゃあな。魔王様のご子孫様だからな。知らねー方が無理あるよ。」
ダフネスはそんな問いに少し苦笑いして答える。
「正確には『魔王の配下』の子孫ですけどね。」
ダフネスの間違いを聞き逃さず、ルベリアはすかさず訂正する。
「そうか。そりゃ悪かったな。」
訂正されたダフネスは、感情を込めずに返す。
「…その格好、キリスト教徒ですか。神に祈る時間くらいはあげますよ。」
少ししてからルベリアはまたダフネスに向けて皮肉めいた質問をする。
「ああ。ありがとう。…ただ、悪いんだが、私は神様が嫌いなんだ。」
ルベリアの質問に真顔でダフネスが答える。
「…へえ。ではなんでそんな格好をしてるんですか?」
神様が嫌いというダフネスは、しかし修道女の格好をしていたのでルベリアは不思議がる。
「ああ、これはな、なんか着てると落ち着くんだ。皮肉だよな。」
ルベリアの疑問に、ダフネスは自嘲して答える。
「そうなんですね。…ところであなた、さっき自分のこと、ツイてないって言ってましたよね?でも実はツイてるんですよ。」
ルベリアは少し考えてから続ける。
「ここに来た神官は私だけではありません。5人です。」
それは、ダフネス達『七罪』にとってはあまりにも絶望的な宣告だった。
「…へえ。だが、それがなんで『ツイてる』ことに繋がるんだ?」
ダフネスは以外にも、その宣告を非常に冷静に受け止めた。
「簡単なことですよ。私は優しいので、苦しいのは一瞬で終わるということですよ。」
ダフネスの質問を、ルベリアは意地の悪い回答でもてなす。
「…そうかい。じゃあせめて、醜く足掻いてみようとするかな!!」
ダフネスはそう言うと、腕を捲り、拳を握り、手に魔力を込め出す。
「手のひらを太陽に!!」
唱えながら魔力のこもった両のげんこつを合わせると、ダフネスの両の腕に激しく火が灯る。
「詠唱は終わってんのかァ!?」
ダフネスは固有魔法発動の詠唱をしないルベリアに聞く。
「必要ありますか?」
ルベリアは当然のように返す。
「…貴方にはこれで十分ですよ。」
そう言うルベリアは右手で剣を柄から抜く。
引き抜いた剣は、魔力が金色の刃となって顕われる。
鞘の大きさにしてはかなり小ぶりな刃である。
しかし、剣を引き抜くと同時に、鞘は不揃いに分解され、やがて形は鋭く尖った16本の刃となってルベリアの周囲を漂い出す。
―フィロソフィア家に代々伝わる、国宝級の魔道具「エクスカリバー」。
魔王の側近である「創天」が打った至高の一品。
剣の形状をした武具であり、剣を引き抜くと同時に、使用者の意志に応じて鞘が様々な形に変形する。
変形した鞘も使用者とリンクしており、魔力が常時保管されてゆく。
変形した鞘自体も攻撃、補助、防御と様々な形として運用可能。
「舐めてんじゃねェよ!!」
魔法を使わずして勝とうとするルベリアに、ダフネスは激昂し、突進する。
しかし彼女も、それを言えてしまうほどの力の差があることを理解している。
ルベリアは突進するダフネスに向けて、切っ先を向ける。
すると周りに浮遊する刃たちがダフネスに向かって飛来する。
ダフネスはそれを予測していたかの如く、全て紙一重で躱す。
ルベリアがダフネスの間合いに入る。
―捉えた。
ダフネスがそう思った瞬間、背後が金色に輝き出す。
ダフネスはその光に驚き、振り返る。
その光の正体は、先程避けた刃たちの先端から放たれる閃光、それの装填中の光であった。
だがしかし。
(この射線は…こいつ、自分ごとやる気か!?)
その光の方向には、ルベリアもいるのである。
コンマ数秒、ダフネスは困惑しながらも閃光が放たれる寸前に避ける。
そして、異変に気づく。
ルベリアが、どこにもいない。
そして、全て避けたはずのダフネスの腹に、大きな穴が空いていたのである。
ダフネスは、理解が追いつかないまま、ズシャリと地面に倒れる。
ダフネスは力を振り絞り、仰向けに寝転ぶ。
そこには、姿を消したはずのルベリアがいた。
「…な…んで…。」
ダフネスはルベリアをぼんやりと眺めながらヒントを探しに過去を遡る。
「―詠唱は終わってんのかぁ!?」
「―必要ありますか?」
―嘘。
ルベリアはここに来る前既に詠唱を終えていた。
ルベリアの魔法は「時間」。
遡行、停止、進行。
時間に関するありとあらゆる事象を操る。
そしてそのうちの一つ「亜空を視る」。
ルベリアの魔法範囲内の時を停止する魔法。
今回はそれを利用し、ダフネスの腹にエクスカリバーを突き立てた。
「…な…んだ…お前…。…そん…なこと…しない…でも…勝…てた…だろうに…。」
ダフネスは朦朧としながらルベリアに問う。
「念には念を、ですよ。こう見えて私、用心深いのでね。」
ルベリアはダフネスを見ながら静かに言う。
「…そ…うかい…。」
まあ自分には相応しい最後だと、ダフネスは諦めたように笑う。
静かに目を閉じたダフネス。
その脳内では何人も殺した今までが、走馬灯になりめぐっていた。
その走馬灯はやがて、より深く潜行し、そしていつかの思い出へと遡行する。
それは、自分が変わる前の懐かしい日々。
そして、唯一の悔い。
それは―
「ア…イリス…」
ダフネスが呟いたその言葉は、洞窟内に木霊する。
今、ダフネスの脳内に或るのは―
最近忙しいので、隔日に、下手したらもっと離れる連載になるかもしれないです。すみません。




