村のハンター
ようやっと木陰から姿を現したのはトレスという男とその部下達2名。
ドラゴンがいたはずの場所に、姫とロロベルトという若者2人がちょこんといるのでトレス達は一瞬状況が飲み込めなかった。
だが、トレス達は確かにこの場所で巨大な竜が現れた音を耳にし、そしてその姿を目にしていた。
「君達、ここら辺で大きな竜を見なかったか?」
トレスは状況関係なく仕事を全うした質問を姫達に向ける。
「いやー見てな、、」
ロロベルトが「見てない!!」と言いそうになったので、慌てて姫は声を張ってロロベルトの声をかき消す。
この場所にいてあの壮大な音をたてた竜を見ていないは流石に無理がある。
「あぁ見たぞ、だから姫達はここに来たんだが、どこかに消えたみたいだな。」
「そうか、、」
トレスは背後にいる部下2人の方へ向き、なにやらコソコソと話している。
ここで素直に帰ってくれるとありがたいのだが、
「それにしても若いの2人とも、、
物騒な世の中になってしまったよな、
こちらの世界にモンスターがウジウジと湧いてくる。」
「そうだな、」
ここで、それは姫のせいでもあると言ったら何をされるか分からなかったのでとりあえず話を流す。
「モンスターってのは人間が想像しないような能力を使ったり、もしくは見た目をしている。
人間に化けれるモンスターだっている。
スライムとかな。」
トレス達の雰囲気が変わった。部下2名はこちらに不敵な笑みを浮かべている。
トレスの声も次第に低く重い声質になっていく。
「だから、人間に化けれるドラゴンがいてもおかしくない。」
「何が言いたい?」
「君たちがモンスターでないという証明を見せてくれんか?」
「どうやってですか?」
ロロベルトがすかさず聞き返すが、トレス達は姫の方を一点集中で見ている。
「にいちゃんは何もしなくていい。
そこのお嬢ちゃんに検査体になってもらう。」
トレスは姫に指を指す。
姫は嫌な寒気がしたので、自然と利き足を後ろに下げ防御態勢に入った。
「そう構えるな、検査体ってのはちょっと悪い言い方をした。
ただ俺たちは仕事上モンスターを討伐しなければいけない。モンスターかどうかを判断するには、対象の体をじっくり、ゆっくり、綿密に調べないといけないんだよ。」
嫌な予感は当たっていた。
姫達がドラゴンではないことを知ってて、あえてセクハラ目的で言ってきたのだ。
トレス達は一応村が雇うハンターらしいが、やってることは盗賊のそれに等しい。
でも、残念だったなトレスよ。
姫がか弱い女の子に見えたのは髪型や服装などの見た目上仕方ないが、甘く見られては困る。
「お前が何を企んでるかは分かった。
ただ、姫的にお前は全く好みではない。
おっさんだし、不潔だし、弱そうだし。
だから、断る。」
姫はトレスに対してキッパリと断りを入れる。
トレスは一度自分の容姿を確認する。
部下2名は、唐突に悪口を言われたトレスに対して笑いが我慢できず、口角が上がっていたが、トレスが睨みをきかすと、部下達は笑うのをやめて、真顔に戻った。
なるほど、今の雰囲気でこいつの権威は分かった。実力が全くないというわけではなさそうだが、、うーん、どうだろうな?
「ふん、弱そうか、、
一応これでもギルド長なんだがな、
まぁいい、確認を断るなら、力ずくで確かめてやる。
行け!!」
トレスは気合の入った声で合図を出すと、部下達は太刀を構え、こちらに向かってくる。
「ロロベルト、対応できるか?」
「それがさっきからSkillを使おうとしてるんだけど、一向に出せる気配がないんだよ。」
ロロベルトの攻撃Skillは全て地廻竜が関わっている。
その地廻竜ことチカが外に出てるせいで、ロロベルトはSkillを使うことができない模様だ。
「チカに頼んでみる!!」
「いや、ダメだ、あいつらは姫達が竜でないと確信している。
でもここでチカを出してしまうと、姫達がモンスターの仲間と間違えられてもおかしくない。
そうなると、かなり面倒なことになる。」
「確かにそうだよね、」
「それに他国のハンターと違って、同国のギルド長であるこいつらを殺したら、国内指名手配されてもおかしくない。それだけはごめんだ。」
チカは、親が知らない人と話している時にその親の背後に隠れている子供のように、ロロベルトの背中を掴んで、様子を確認している。
「Skillが使えないならいい、後ろ下がっとけ!」
「OKー!!」
ロロベルトも幾度のクエストを通じて戦いというものに慣れたのか、この状況をあまり危機として捉えてない様子の軽い返事だ。
ロロベルトは背中を向けずに、トレス達の方を向いたまま川のそばに移動する。
さて、これで集中できる。
まず1人の部下の太刀が左方から姫の首元に向かって迫ってくる。
【硬質化】
カァンッッ
太刀が姫の硬質化した肌に弾かれ、刀身が折れる。
あまりの軽い攻撃にこの部下のハンターの力量の無さを疑ったが、こちらに向けられた刃は峰の方だった。
姫を傷つけずに、峰打ちで失神させてからほにゃららしようという魂胆だったのだろう。
続くもう1人の部下の太刀が右方から迫り来る。
1人目の部下の刃の折れ具合から、姫の力量を咄嗟に察した2人目の部下は、向けていた峰の方から刃先へと構え直し、袈裟斬りの太刀筋でまたもや首を狙うが、もちろん〈硬質化〉によって弾き返す。
カァンッッ
ここでガトリングを出したら殺しかねないので、グッと堪える。
〈白兵戦〉によって備わった近接戦闘を生かして、1人目の部下に左フックをかまし、2人目の部下には腹部に強烈なミドルキックを入れた後、頭部を押さえ顔面に膝蹴りを入れる。
2人目の部下は完全に姫を殺そうとしてきたので、少し強めにしといた。
2人の部下は無様に鼻血を垂らし、失神している。
「はっはっはー、次はお前だ!!」
2つの失神体を踏み、トレスの方へ指を指すと、さっきいたはずのトレスが消えていた。
「ラナプリンさん、、」
辺りを見渡してもいなかったが、背後にいて悶えるような声で姫を呼ぶロロベルトの方へ向くと、トレスはロロベルトの首を片手で締め、軽々持ち上げている。
いつの間に、、
「お前さんの力は分かった、見た目に反して強いんだな、、
それにこの男の感触、しっかりとした人間だ。」
トレスはロロベルトの首の温もり、感触から人間であることを確信した。
「じゃあいいだろ、そいつを離せ。」
「いや無理だね、目的が変わった。
動機がなんであれ、うちの大事な部下を傷つけられたらこっちも黙っとくわけにはいかない。」
「お前らから絡んできたんだろ?」
「そんなのどうでもいい、
こんな所にいるって事はどうせ君達はどこにも属してないハンターだろ?」
「まぁそうだが、」
「無所属のハンターは俺の権限で盗賊扱いできる。もちろん盗賊を捕らえれば村から報酬が出る。そっちの目的にシフトした。」
ロロベルトは苦しみだし、足をバタバタしている。首から筋が浮かび上がり、今にも泡を吹いて気絶してしまいそうになっている。
足元に落ちていた川石を拾い、トレスの顔面に向けて投げる。
だが、トレスはその石をもう片方の手で受け止める。鉄製の手の甲冑が、姫の投石に負けてヒビが入り、かけら状になって地面に落ちる。
「これはビビった、近接特化パワー型の戮式かと思ったんだが、こんなこともできるのか、、」
トレスは冷や汗をかいている。
「次は連続でぶちこむ、
どうだ?離す気になったか?」
「いや、それはやっぱり無理な話だな。」
そう言ってトレスはロロベルトをこちらに向け、盾がわりにする。
「次投げたら、この男に命中するぞ、さぁ、ここは大人しく引いてもらおうか。この男も、苦しがってるぞーーー」
ハンターらしく猟奇的な目で交渉をしてくる。
トレスは姫の投石に反応し、姫に気づかれることなくロロベルトを人質にとった。
スピードには相当長けている。
となると、恐らく姫の〈超速〉による間合い詰めは無意味。
ロロベルトをいち早く助け出す候補として上がってくるのは、Skill〈物質貫通〉または、〈追跡弾〉。
どちらもトレス単体を殴れるが、これは失神では済まない。
どうしたものか、、
刹那に思考を巡らせ悩んでいると、ふと異変に気づいた。
トレスはロロベルトの首を掴み、こちらに向けることで盾がわりにしているから、ロロベルトの背中部分が丸見えなのだが、チカの姿が見当たらない。
「さぁどうする?」
トレスは笑みを浮かべる。
チカはどこ行った?
ザザザザザサァァァァ
すると、辺りが少し暗くなっていき、風に揺らされた木の葉っぱ達が騒ぎ始める。
暗くなったというのは、日が暮れたのではない。何か巨大な影がここ一帯を覆っているのだ。
「ん?なんだぁ?」
トレスは突如現れた影を不審に思い、空を見上げると、上にいたのはロロベルトが最初に出したサイズをした巨大なチカだった。
「お、、おい、、嘘だろ?
ちょっと待て、、おーいー、」
パクッッッ
巨大化したチカはロロベルトに触れないよう細心の注意をはらい、トレスを丸呑みした。




