事実
「おい、もう終わりか?」
ウラディンvsベロアはジャックのアナウンスが終わってもなお続いていた。
スピードではウラディンが勝っているのだが、ベロアの〈霊化〉状態の〈風流感知〉が厄介だ。
間合を詰めても攻撃の先を読まれ、また上空へと距離を取られる。
だが、流石のベロアでも4本の鎌の斬り筋を全部完璧に読めるわけもなく、羽の羽毛量も最初に比べて激減している。
「さっきのアナウンス聞こえてなかったのか?
とりあえず宮殿行くぞ。」
「なんで異物のてめーらの言う事聞かなきゃいけねんだよ。」
こいつは話ができない。
でもお互い霊化によって体力はだいぶ削られている。
霊化を解いた後を想像すると慄然する。
ベロアは背中の羽を羽ばたかせ、風エネルギーを生み出す。
その風エネルギーを封器である羽に取り込ませ、ウラディンに向けてフルスイングする。
【翮羽】
ブォォォォォォォォン
霊化したウラディンでさえ、軽く数キロ程飛ばされてしまう。
風が当たった肌から血が滲み出す。
一方同時刻では、デラマルス対巨大ハサミを使うキジスの戦いが繰り広げられていた。
デラマルスの短剣はキジスに通用せず、常時劣勢の状態が続いた。
が、革命ギルドのメージスとクルードがデラマルスに加勢しにいった。
4人の戦いは激化し〈紫将の団〉の拠点からだいぶ離れた、ウラディンのすぐ近くで交戦していた。
3対1の構図になったが、それでも劣勢は続いた。
デラマルスは通らない刃に苛立ちながら、心身ともに疲弊していく。
「紫息」
【紫息】
デラマルスは、体内で毒を生成し、矢状に変形させて、キジスに吹きかける。
クルードはギルド長のメージスの命令の元、ひたすら太刀で襲いかかるも、これらの攻撃はハサミで応戦される。
メージスは武器を持っておらず、一向に動かない。
♦︎オルデンナイト王国宮殿にて
「ショーとはなんだ?早く見せてもらおう。」
いち早くついた宮殿に着いたグリフィエンは、ジャックとその部下達、アイルソン、そしてその隣いるエイム国王に催促する。
「まだギャラリーが集まってないだろ。」
「ギャラリーなど必要ない。
私がいれば充分だ。
それに他の連中が素直にくることはまず無い。」
「そうか、、」
グリフィエンの言い分を受け入れたジャックは、部下にある命令をする。
命を受けた部下は嘯いた顔をしているエイム国王の首を太刀でスパッと斬る。
グリフィエンは怒号をあげようとしたが、その必要はなかった。
何故ならエイム国王の首の断面から噴き出たのは血ではなく、青いドロドロとした液体。
「エイム国王、、」
グリフィエンは唖然としている。
目の前の光景が受け入れられてない。
「この通り、こいつはエイム国王に化けたスライムだ。
本物の国王は知らんけど、お前達に命令をしていたのはこいつ。
意図は分からないが、俺達に戦争させるように仕向けやがった。」
ジャックは、先日拉致について聞く為トリビアに行ったハヴレイン国王から、ある事を任されていた。
ハヴレイン国王とエイム国王は長年の付き合いで、犬猿の仲とはいえ、相手国を侵害するような行為だけはしなかったが、対面してみていつもと違う雰囲気であることを悟ったハヴレインは、もしトリビアの連中が侵攻してくるようなことがあれば、その隙をついてトリビアに行き、優秀な鑑定士を連れてエイム国王を確かめてくれとジャックに伝えた。
アイルソンの鑑定は、相手の髄まで詳細に確かめる。
よって一目で分かった。
ようやく状況を飲め込めたグリフィエンは、その場で土下座をした。
「すまなかった、意味もなく兵を傷つけてしまった。
何でも罰は受ける。」
「罰なんかいい、それよりこの状況を他の連中に伝えてくれ。
お前の言った通り、本当に誰も来なさそうだしな。
俺たちも同行する。」
ラナプリン達は宮殿へ向かう際、デラマルスとウラディンに遭遇した。
まだ戦いは白熱している。
ここ宮殿より数キロ離れた場所にて、オルデンナイトとトリビアの手練れが一堂に会した。
そこにジャックとグリフィエン達が割って入る。
「いつからオルデンナイト側に付いたんだ?
グリフィエンよぉー」
「俺達とやるってのか?」
ベロアとキジスはグリフィエンに向かって怒号を浴びせる。
グリフィエンは熱が冷めないベロアとキジスに対して事情を説明した。
断面がスライム状になっているエイム国王の半身を掲げて。
2人は一瞬瞳孔を開き、驚愕を隠せていなかったが、それでもなお熱った気が下がることはなかった。
「無駄な戦争はしないぞ。
落ち着いてくれるとありがたいんだけどな」
ジャックがそう言うと、後ろに並んでいた部下達が構えの姿勢をとる。
いつでも戦える準備だ。
すると突然オルデンナイト王国に強い揺れが生じた。
ガタガタガタと建物と地面が大きく揺れる。
姫がこの世界に転生してから、2度目の地震。
1度目は攫われて救助された後に行われたオルデンナイトの会議室にてだ。
違いはそれよりも遥かに大きい揺れだということ。
「きっと神が怒ってんだろうよ、この戦争を終わらすなってなぁー!」
ベロアが揺れ動くオルデンナイトにて気を上げながら大声で叫ぶ。
「待て、この地震はただの地震ではない。
なにか今以上に不吉なことが起こるぞ。」
嫌な予感を感じとったウラディンが周りを収めるように喋る。
とりあえず終戦ムードになっていた空気が気に入らなかったキジスはその空気をを壊すかのように、ロロベルトの近くにいたジークとフリードに迫っていく。
そして、
「この状況がまだ理解出来てねぇみたいだな。
国王がどうであれ、トリビアとお前らは敵対関係なんだよ。」
と、超速で奪い取ったジークとフリードの首元にハサミの刃先を立てながら、脅しをかける。
ジークとフリードの首から血がスゥーと流れ出る。
キジスの目はいかれていた。
子供だろうと確実に殺すサイコ的な目。
すると、次の瞬間、この場にいた誰もが気づかなかった。
目で追うことすら、脳で知覚することすら、出来なかった。
キジスが次の言葉を喋ろうとした時、キジスの顔にジャックの手が翳された。
そして、ジャックは鷲掴みにしたキジスの顔ごと、地面に叩きつける。
その衝撃が地震に同調して、より衝撃音を増した。
キジスはその一撃で白目を剥き気絶している。
「このガキ2人には私用がある。殺されては困る。
停戦を提案しといて悪いが、異議があるなら喰ってかかってこい。
どうだ、羽女?」
ジャックはキジスの顔を足で踏み、ジークとフリードの頭をポンポンしながら、ベロアにまだ戦うかを問う。
私用とはなんなのか、
多分内緒にしていた存在がはなからバレていたんだと姫は思った。
地震は少し収まった。
「キジスをワンパンか、面白れぇ男だな。
やってやろうじゃねーか。」
ベロアはジャックに対して羽を構える。
それは対してジャックは素手のままだ。
葉巻を加え、片手でベロアを挑発する。
すると突然、ビリビリビリと、王国内に禍々しい色をしたゲートが数箇所に現れた。
その光景を見た皆が何事か?とあたふためいてる。
臨戦態勢をとっていたジャックとベロアはひとまず全身に入った力を抜いた。
姫達は辺りに首を向けると、ゲートから次々と巨体なモンスターが現れているのを目の当たりにした。
オーガ、オーク、トロールにドラゴンなど、多種多様な群れ。
この世界において何万年も起こり得なかったこと。
それが今起きてしまった。
ペングラム村のブラックオーク事件とは比にならない重大さ。
国の威厳なんか言ってられない。
魔族であるモンスターが、人間界に侵入できるゲートを作れてしまう何かしらのトリガーを押してしまったようだ。
一般民達の悲鳴がこだまする疾風怒濤の状況が王都内に作り出された。




