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カンゼ

題名「カンゼ」

2025年10月15日版


 広い宇宙の彼方、様々な生物が生息する、とある星の奇妙な怪物の世界です。そこに知能の発達したアイという生物が住んでおり、グフという多数の集団を作って暮らしていました。

そのうちのひとつオロングフには、ゴルという道具を使ってそこに住むアイ達がそれぞれ自分の仕事をしながら生活するよう上手く誘導することを天職と考えるグループがありました。ゴルの使い方なら天下無双、超一流を自認するこのグループの働きぶりを描いたお伽話です。


オロングフではゴルの製造、徴収、使用について明確な基準を定め、その量が無制限あるいは無秩序に増大したり減少して価値が低下し経済的な大混乱に陥ることのないよう、専門委員会を設置して監視していた。


<ゴルの基準>


第1条 公共事業(インフラ整備や格差是正等)のためにゴルを製造できる。


第2条 災害等の緊急事態へ対応するためにゴルを製造できる。


第3条 政策上必要な場合(特定物品、輸入品等)にゴルゼ(ゴル税のこと)を徴収できる。


第4条 公益に寄与するためシサゼ(資産税のこと)を徴収できる。


第5条 ゴルの製造、徴収、使用には公正と平等のモラルを厳守する。


ゴルの徴収


オロングフのリーダーはモトジという職名で、その地位には特別ゴル使いと呼ばれるグループに属するアイがついていた。ゴル使いのプロ中のプロを自認するモトジのスタッフのトップ職名はクバルという名称で、モトジはクバルを呼んで尋ねた。


「今朝の定例会議で、輸入車(他のグフ製の自動車)の販売が急に伸び始め、オロン車(オロングフ製の自動車)の売れ行きは激減して、このままだとゼロになる可能性があると聞いたが?

それからもう一つ、昨日、ゴル監視委員会から指摘された、最近のオロングフ会議(オロングフの統治組織)によるゴルの製造が過剰で、このままではゴルの価値が暴落する危険があるとか?なにか対応する必要はあるのかね?もっとも、ゴルをどんどん作って使うことがなぜ危険なのか意味がよくわからんが。ゴルの製造権と使用権を持つということは、ウチ出のコ槌とか魔法のランプを手に入れたと同じで、好きなときに無尽蔵にできる便利なものと聞いていたが?ゴルは天下の周りものともいうし、監視委員会の見当違いな意見は無視しておくとするかな。」


それを聴いたクバルは小さな眼をパチパチと開閉し、唇を余り動かさないモグモグ声で答えた。

「その点ですな、最近ゴルの製造は確かに多いかもしれませんが、その都度必要に応じての増産で、漫然と無駄な使い方をしている訳ではありません。ただし、このままでは危険であるという専門家の指摘はそれなりに重いともいえますな。実体経済を無視した過剰な増産は、何か確実な担保が無ければいつかは行き詰まるともいわれています。やはり、当面はゴルの増産を停止し、ゴルゼの徴収量を増やす方策を考える必要がありますかな。早速、特別タスクホースを立ち上げて検討しますか? それともなにか画期的でクリエーティブなアイデアがありますかね?

 それと、もう一件の輸入車の件ですが、先日発売された輸入新車の性能は抜群、見かけは斬新、内装は豪華で快適しかも値段は手頃と、コスパは最高で大変な人気です。実は私の愛車もその輸入車ですヨー。」と胸を張った。


 それを聴いたモトジは、不愉快そうに顔をしかめて、


「フームそうかい、人気があるとやらはともかく、わがオロン車が無くなるのは面白くないネー、なんとかその車を輸入しにくくできないものかね? カンゼ(=輸入品にかけるゴルゼのこと)をもっと引き上げるとゴルの徴収量は増加するだろう。そうすれば監視委員会の主張する、今は難しいというゴルの増産をせずに必要な分を手に入れる事ができる。  

 ただし、カンゼ増加分を販売価格に転嫁することは認めない方がいい、値上げは住民に評判が悪くワシの人気に影響するからネー。とにかく輸入はしにくくなるので売れ行きは減少するだろう、その結果はオロン車の販促支援にもなり、これは一石二鳥の優れた施策と言える。どうかねこのアイデアは? 」と、自慢そうに尋ねた。


 それを聴いたクバルは、怪訝な顔をして答えた。


「えーと、まあ、それは名案かも知れませんが、そのような単純な手法そのままで上手く行きますかね? もうひと工夫必要かと、とはいっても、当面ゴルの製造を控える必要ありとなると、いま手元のゴルはほとんど無くなっており、検討するとしたら時間がかかるので、当座のしのぎにとにかくやってみますか。それでは早速、担当のトネルに指示しましょう。」


 クバルから指示を受けたトネルは、速やかに快活に答えた。


「はい、分かりました。それでは直ちにカトクに任せましょう。」


 トネルの指示を受けたカトクは、ドスの効いた低く太い、しかし穏やかな声音で答えた。


「分かった。関係部署に指示をだし、すぐにやらせまっせ。」


 かくて、ゴルゼの徴収量を増やすためにクバル達はエリートらしくスマートに、カンゼを今の3倍に引き上げた。そしてモトジのアイデアどおり、販売価格の引き上げは認めなかった。


 その3ヶ月後、


 モトジはクバルに尋ねた。


「例の輸入車の販売は、その後どうなったかね? 我がオロン車の売れゆきは相変わらずさっぱり振るわないらしいが?」


 一呼吸おいてクバルは冷静な低い声で答えた。


「確かにカンゼを3倍にしてゴルの徴収額は増加しましたが、妙な事に輸入車の販売量も益々増加してますネー。」


 それを聴いたモトジは、物事が自分の思い通りにならない不満感をあからさまに顔にだし、大きな眼はギラっと真っ赤に恐ろしげに輝いた。


「なんと!それはどういうことだ、そうか、カンゼがまだ低いということだなー。では更に2倍にして元の6倍まで引き上げよう。これはすぐに実行するように!」


 と、エゴイストらしく自分の考えを有無を言わさず他者に押し付けようと大声で叫んだ。


 クバルは、数秒、間合いを取り、腹式呼吸で動悸の高ぶるのを抑えながら、


「そうすると確かに直後のカンゼの徴収量は増えますが、輸入車の輸入量の方はどうなりますかなー。逆に減りすぎるとゴルゼの増収分は元の木阿弥になるかと?」


 と、小声で一応の疑問を呈したものだ。


 その6ヶ月後、


 モトジはクバルに尋ねた。


「先ほどマーケット担当から、オロン車の販売は低迷し、間も無くゼロになりそうとのことだが?」


 すると、クバルは答えた。


「その後、確かにカンゼの徴収額は増えてますが、輸入車の販売量は減るどころか益々増加してますヨ。というのも輸入車はこの夏に、「猛暑対策、お客様への感謝キャンペーン」とやらを大々的に打ち出して、価格を10パーセント割引き、おまけに高性能のカーエアコンと最先端のオートドライブをつけて販売しています。全く癪にさわりますが、抜群の技術力を武器にかなり儲かっているらしく、これまでに貯めこんだ資金を、「自分だけ儲け過ぎ、じゃない商いです!」をキャッチフレーズにして消費者へカッコよく還元しているようです。もっとも、良いものが安ければフツーに誰でもそちらを買いますヨネー。実は私もまた新型のスポーツタイプに買い換えました。乗り心地は満点、満足、大満足、ウワッハッハ、ケーレイ!」


 それを聴いたモトジは、あわて、にわかに興奮し、それはある意味分かりやすい自己表現とも言えるが、紋切型にエゴイストの本性を剥き出しにして叫んだ。


「それじゃあ、ワシもその輸入車を買うかいなー、とか言うと思うかい? 冗談じゃないゾー、それはダンピングになる、全く不当な廉売と言えるなー、話にならない卑怯者め! 直ちにその輸入許可は取り消してしまえ!そう!これは名案、名案、ウワファホホッホー。」


 と、華麗な四つの眼をギラッと七色に輝かせ、筋骨隆々とした六本の手足をブルッと震わせ、長い二枚舌をペロンと伸縮させて青い涎を垂らしながら、ニヤッと薄笑いを浮かべ、満面の得意顔で自画自賛したものです。


 かくて、その新車は輸入禁止になり、それ以降はオロングフ内の新車の購入や買い換えの場合にはオロン車を購入することが暗黙に義務化していった。オロングフの住民は、幾世代も前の技術基準や安全基準で作られたような自動車を高いゴルを払って買うことを強要されることになった。


 その後、全ての車の輸入はゼロとなり、カンゼによるゴルゼの徴収もゼロになった。


 ゴルの製造はモトジやクバルなどの気分や都合、場合により必要に応じて続けられたので、市井に出回るゴル量は徐々に増加する傾向に変化はなかった。監視委員会の指摘事項は現実味を帯びてきたが、モトジの属する特別ゴル使いグループはモラルや社会貢献などには関心が薄く、その生来のエゴイズムは如何ともしがたく、なんの対応もしないままに時間は経過してゆくことになった。


 結局、オロングフ会議は、監視委員会の指摘事項の妥当性を真面目に検討することなく放置した。


 ゴルを、経済を円滑に動かすための道具の一つと考えて分類すると、技術の世界でいえば特殊工具スペシャルツールに当たり、その取扱いは極めて専門的で高度の熟練を要するといえます。


 ゴルの取扱い方によって世の中のあり様には大きな差が出てくることは十分に予想され、その後、このオロングフの世界がどうなってゆくかをシミュレートするのは、読者の想像力あるいは創造力次第とも言えそうです。


<終わり>


(注記)ここに登場するモトジ、クバル、トネル、カトクなどは、この空想物語の架空の職名です。


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