第6話 決意と旅立ちの朝
「アルヴィン――! 助けて!」
ミーナの悲鳴が、夜の学舎を切り裂く。「やめて! 嫌、嫌だ! アルヴィン!」 叫びは恐怖に震え、10歳のアルヴィン・ド・ヴァルモンの胸を抉る。4年前、獣人女性の絶叫。シャロンの涙。エルフの悲劇(。そして今、ミーナの声が、胸の違和感を確信に変える。
4年が過ぎ、アルヴィンは10歳。貴族の成人だ。学舎の闇――奴隷制度、獣人やエルフの売買、聖職者の欺瞞――を目の当たりにし、怒りが募る。だが、彼は無気力な仮面を被り、眠そうな目で授業をやり過ごす。「師匠」と呼ばれ尊敬されるが、本人はただ欠伸を繰り返す。
※※※
今日、数年に一度の飛び級試験の日。崖の淵で12歳の成人と木剣対決し、勝てば卒業、負ければ12歳まで学舎に留まる。アルヴィンは欠伸する。「正しい試験? 意味あるの?」
コンコン。控えめなノック。「アルヴィン、ミーナよ。入っていい?」
ミーナ、男爵の娘が薄着で現れる。甘い吐息で囁く。「今日、飛び級試験だよ。準備は?」
「試験なんて面倒だよ。」 アルヴィンは肩をすくめる。
ミーナの声が震える。「アルヴィン、卒業したら離れ離れに……嫌だよ。」 彼女は意を決し、叫ぶ。「アルヴィン、好き! あなたの赤ちゃんが欲しい!」
アルヴィンは目を瞬く。書庫で読んだ知識が蘇る。――この国では「子を授かって愛する」が風習。だが、獣人やエルフの悲劇を思い出し、違和感が湧く。「ミーナ、気持ちは嬉しいよ。君は美人で頭もいい。飛び級を目指せばいい。」
「怖いよ……私じゃ無理かも。」 ミーナの目が潤む。
「なら、こうしよう。ミーナが飛び級できたら、君を受け入れる。」 アルヴィンは軽く言うが、ミーナの目は輝く。「絶対勝つ! アルヴィンの奥さんになる!」
※※※
試験場、崖の淵。10歳の生徒たちが次々と降参し、崖下に転がる。アルヴィンの番。12歳の成人が木剣を振り上げる――。
――シュン!
一瞬で、相手が地面に這う。誰も動きを見ず、大師範が叫ぶ。「アルヴィン・ド・ヴァルモン、卒業!」
次はミーナ。彼女は懸命に木剣を振るが、崖に追い詰められる。「アルヴィンのもとへ……!」 その瞬間、足元の岩が崩れ、ミーナが落下する。
――ヒュウ!
風が唸り、アルヴィンが飛び込む。不可視の身体でミーナを抱え、崖上に舞い戻る。大師範が目を丸くし、12歳の成人は恐怖で失禁する。「ミーナ、卒業!」
※※※
夜、卒業パーティー。だが、ミーナは現れない。アルヴィンが席を立つと、頭に悲鳴が響く。「アルヴィン、助けて!」
不可視を唱え、転移。薄暗い12歳の寮。ミーナが下着姿で、12歳の集団に囲まれる。「叫んでも無駄だ。アルヴィンは来ねえよ。」 キャロン、女リーダーの声が暗く響く。
――「本当に?」
アルヴィンの声が闇を裂く。不可視を解き、姿を現す。「入ったんじゃない。最初からここにいた。」
キャロンが笑う。「卒業で調子に乗るな。下級貴族の娘に、男を教えてやるだけだ。どうだ、アルヴィンも――」
「一度だけ言う。去るか、死ぬか。三つ数える。」 アルヴィンの目が冷たく光る。
キャロンは顔を強張らせ、集団を連れて去る。「いたずらがすぎた。ごめんなさい。」
ミーナが泣きながら抱きつく。「どうしてここに?」
「君の声が聞こえたから。」 アルヴィンが手を振ると――シュウ。ミーナの下着が輝くドレスに変わる。「パーティーに行こう。」
転移で会場へ。歓声が上がる。「ミーナ! アルヴィン! 卒業おめでとう!」
パーティーの終盤、ミーナが立ち上がる。「アルヴィン、大好き! 結婚して!」
会場が静まる。アルヴィンは思う。(俺はこの国を出る。どう伝える?)
彼は手を掲げ、炎を凍らせ、水に変える。「これが俺だ。卒業するが、この国を出る。もう会えないかもしれない。」
ざわめきが広がる。「どうして?」
「正義と悪を見定めるためだ。」
ミーナが頭を下げる。「私も行く! アルヴィンのそばに!」 彼女の瞳は揺るがない。
「危険だぞ。家は?」
「アルヴィンさえいればいい。許嫁がいても、二番目でもいい!」
アルヴィンは微笑み、ミーナの手を取る。「なら、来い。」 転移で宿舎へ。二人は肌を重ね、契りを交わす。ミーナの温もりが、アルヴィンの決意を固める。
※※※
翌朝、二人は転移で獣人国へ。地図の記憶を頼りに、広大な世界へ踏み出す。アルヴィンの夢に、エルフの声が響く。「あなたを待ってる……。」
10歳の少年は知らなかった。この旅が、王国の欺瞞を暴き、革命を起こす始まりとなることを。ミーナと共に、真実を探す旅が、今、幕を開ける。




