第5話 世界の欺瞞と、真実の探求
「イヤアア――! やめて、お母さん、痛いよ!」
鎖の軋む音と少女の悲鳴が、夜の王都を裂く。宿舎のベッドで、アルヴィン・ド・ヴァルモンは耳を塞ぐ。だが、頭の奥に突き刺さる声は止まない。――父ガストンが凱旋の「報酬」として与えられたエルフ少女の絶叫。
6歳の少年は、漠然とした嫌悪感に目を覚ます。(また、あの声……。) 獣人女性、シャロンの涙、エルフの悲劇。胸の違和感が、鋭い痛みに変わる。
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夕食の食堂はざわめいていた。「あの細いガキが、12歳全員と師範を一瞬で!」「ありえねえ、手品か?」 生徒たちの視線は、侮蔑から畏怖に変わる。だが、アルヴィンは欠伸を繰り返し、眠そうな目でスープをかき混ぜる。「面倒だな……。」
部屋に戻ると、悲鳴がさらに大きく響く。エルフ少女の声が、助けを求める刃となって心を刺す。耐えきれず、アルヴィンは念じた。――シュウ。身体が不可視になり、一瞬で悲鳴の元へ転移する。
そこには、鎖に繋がれた10歳ほどのエルフ少女。金色の髪が汗で濡れ、目は恐怖と諦めで曇る。ガストンが彼女の腕を掴み、下卑た笑みを浮かべる。「いい子だ、静かにしろよ。」
アルヴィンは凍りつく。(父様……こんな人だった?) 6歳の彼には、行為の意味はわからない。だが、「やってはいけないこと」という確信が胸を締めつける。嫌悪感が波のように押し寄せ、彼は再び転移し、宿舎へ逃げ帰る。
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「父様、凱旋で数日家を離れてるんだよな……。帰ってみようかな。」
アルヴィンは不可視のまま、自宅へ転移する。半年ぶりの自室。懐かしい木の匂い、母イザベルの編んだ毛布。だが、隣の部屋から漏れる声に、足が止まる。
「もっと、強く……!」 イザベルの喘ぎ声。農夫の男が彼女に絡みつく。アルヴィンは目を疑う。次の瞬間、別の農夫が部屋に入り、同じ行為が繰り返される。(母様まで……?)
胸の奥から冷たい嫌気が湧く。物音を立てず見つめるが、さらなる農夫が現れる。アルヴィンは冷静を自分に言い聞かせる。(父様は、これを知ってるの?)
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衝動に突き動かされ、アルヴィンは王族の御城へ転移する。聖職者の館、荘厳な柱の奥。だが、そこは腐臭と悲鳴に満ちていた。10歳にも満たない農夫の少女たちが、鎖に繋がれ、聖職者に辱められている。――近所の少女、ミリアの顔もそこにあった。
「やめて! お願い、助けて!」 ミリアの叫びが、アルヴィンの心を抉る。(この国……腐ってる。) 獣人、エルフ、農夫の少女。誰もが踏みにじられる世界。
アルヴィンは書庫へ転移する。埃っぽい棚、10万冊の書物。念じると、ページが風のようにめくれ、一言一句が脳に刻まれる。――真実が浮かび上がる。
聖職者の教えは、こうした行為を「罪」と断じる。だが、王都の教えは明らかに違う、長きこの教えは、亜人は人を食い物にする、亜人を亡ぼせと。外道な亜人は辱めを受けよと。「表の華やかさと、内面の腐敗……この国は、欺瞞に満ちてる。」
アルヴィンの胸で、違和感が確信に変わる。(正義はどこだ? 悪はどこだ?)
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宿舎に戻り、ベッドに横たわる。エルフの悲鳴、ミリアの涙、ガストンとイザベルの裏切り。すべてが頭を巡る。「この国にいちゃいけない。世界を見て、正しいものを見つけなきゃ。」
アルヴィンは決意する。「もう少しここにいて、時期が来たら旅に出よう。」
6歳の少年は知らなかった。この確信が、腐敗した王国を根底から揺さぶる革命の第一歩となることを。10歳で獣人国へ旅立ち、真実を掴む旅が始まることを。




