第3話 王都の学舎(まなびや)
バキッ!
鋭い痛みがアルヴィン・ド・ヴァルモンを眠りから引きずり出した。木の棒が背中に叩きつけられ、薄暗い寄宿舎に怒鳴り声が響く。
「おい、役立たず! いつまで寝てんだ!」
6歳のアルヴィンは、うっすら目を開ける。王都の学舎――昨日から始まった新生活。だが、歓迎は棒の痛みだった。「痛いって……やめてよ……。」
バライ、10歳の上級生が胸ぐらを掴む。「お前が起きねえと、俺らがボコられるんだよ! さっさと動け!」
アルヴィンは無意識に念じた。――シュン。痛みが消え、身体が軽くなる。(また、あの力……?) 昨夜の路地裏、時間が止まった瞬間を思い出す。だが、眠気の方が勝る。「もっと優しく起こせばいいのに……。」
バライの棒が顔に振り下ろされる――その瞬間、アルヴィンは咄嗟に手を上げ、棒を弾いた。「朝食だ、先輩の前に席につけ!」 バライの声は苛立ちに震えていた。
※※※
学舎の食堂は、冷たい石壁に囲まれ、讃美歌の重い響きが漂う。生徒たちが整列し、序列に従って着席する。アルヴィンはバライに押し込まれるように席についた。
スープに手を伸ばした瞬間――。
「お前、何やってんだ!」
9歳の上級生ロモスが胸ぐらを掴み、アルヴィンを床に叩きつける。「11歳以上が食うまで待て! 新入りの分際で!」
転がされたアルヴィンは、埃っぽい床で呟く。「そんなルール、聞いてないよ……。」 だが、誰も助けない。食堂の視線は冷たく、序列の鉄則だけが支配していた。
※※※
授業は、さらに異様だった。教師の声が講堂に響く。「人間族は神の選民! 亜人を従えるは我々の使命!」
アルヴィンの脳裏に、獣人女性の涙が蘇る。「母国に帰りたい……。」 彼女の絶望と、教師の「正義」が重なる。(これが……王国の正義?) 胸の違和感が、眠気を押し退ける。だが、彼の目は半開きのまま、教師をぼんやり見つめた。
※※※
夜、寄宿舎の洗い場は湿気と腐臭に満ちていた。7歳の子爵の娘、シャロンが、すすり泣きながら上級生の下履きを洗う。「こんなの……意味ないよ……嫌だ……。」
アルヴィンはそっと近づく。「どうしたの?」
シャロンは震える手で語る。「ここでは年功序列が絶対……逆らえば、裸で廊下に立たされたり、もっと酷い目に……。」 彼女の瞳は、獣人女性の絶望を映すようだった。
アルヴィンは微笑む。「泣かないで。僕に任せて。」
シャロンは信じられない顔で彼を見つめる。だが、アルヴィンの瞳には、どこか不思議な光が宿っていた。彼は一瞬、静かに念じた。――シュウウ。山積みの下履きが、まるで新品のように輝き、乾ききる。
「え……何!?」
シャロンが目を丸くする中、他の下級生も呆然とする。「これで、辱められずに済む……!」
だが、一人だけ冷めた目でアルヴィンを見つめる少年がいた。公爵家の子息、レオナルド。彼は、アルヴィンの「力」を危険視し、上級生への報告を決意する。
※※※
その夜、アルヴィンは夢を見た。獣の咆哮、燃える森、泣き叫ぶ声。手を振ると炎が消え、雨が降る。だが、胸の違和感は消えない。(この学舎、この国……何かがおかしい。)
6歳の少年は知らなかった。この理不尽な学舎での日々が、彼の無気力を砕き、王国の腐敗を暴く革命の火種となることを。レオナルドの報告が、新たな試練を呼び、彼が10歳で真実に近づくきっかけとなることを。
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学舎の理不尽とシャロンの涙! アルヴィンの「やる気なし」と秘めた力が、正義を問う旅を加速!
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