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第16話 発見が、遅かった

空に浮かぶ雲が、大陸を覆うように広がる。


アルヴィンとリリアは、人間の商人の姿で、風を切って飛ぶ。

リリアの鼻が、風に震える。

「匂いが無い、わからないにゃー……あそこ、え、ひ、酷い」


彼女の声が、かすれる。

アルヴィン・ド・ヴァルモンは、欠伸をしながら、眠たげに目を細める。


「匂いがしないにゃ」

リリアが、繰り返す。

「一ついいかな、アルヴィン?」


アルヴィンが、首を傾げる。

「なんだ? 獣人に戻せは、受け付けないぞ」

リリアが、首を振る。


「違うにゃ」

「ジュラインの娘たちの救出、あんなひどい事される前にできたはずにゃ」


アルヴィンの心に、感嘆が走る。


(この娘、頭良いな)

「そう、その通りだ」


リリアの目が、潤む。

「なぜにゃ、あんなに、傷だらけ、死んだと思ったにゃ、ジュライン」

アルヴィンが、静かに答える。




「ジュラインとリリアに、人間の酷さを知って欲しかった。あれが正義だと思うか?」

リリアの耳が、幻のように震える。


「悪魔そのもの、人間は悪魔にゃ。仮に獣人国が人間を捕えても、あんなことはしないにゃ」

「ドワーフも、バーバリアンもにゃ」


アルヴィンの胸に、確信が芽生える。

(やはり、何か教えが食い違っている。亜人が人間を主食とする、そんなことは無い)


「何故人間は、亜人をどれ、いや、おもちゃ、違うな、酷い目にあわすのだ」

リリアが、言葉を選ばず、吐き出す。


「言葉を選ばなくて良いにゃ。昔、昔の話では人間も亜人も仲良く暮らしていたそうにゃ」

「ある時から、亜人が追放されたみたいにゃ。お城に行けば、わかるかもしれないにゃ」



「御城には沢山の記されているにゃ」

アルヴィンが、頷く。


「そうなのか、それは今度見せてもらいたいものだ」


リリアが、目を輝かせる。

「救出が終わったら、お城に案内するにゃ」

アルヴィンが、視線を大陸に移す。

「さて、匂いが無いとすれば、どういうことが考えられるのだ?今のリリアなら大陸全体の匂いもわかるはず」


リリアの鼻が、空を嗅ぐ。

「雨とか火とかは匂いが消えるにゃ。それでもわかるにゃ」


彼女の顔が、暗くなる。

アルヴィンは、言わんとしている事を理解する。

火――焼却の痕跡。


それ以上、聞かない。

「一つ一つの国ずつ、探すしかないな」


アルヴィンが、手をかざす。

――シュウ。


光が走り、獣人族に一番近い人間国に転移した。


***


国境の森が、二人の姿を隠す。

アルヴィンの目が、遠くの道に止まる。

(なんだ、この軍勢。戦争でもおっぱじめるのか、軍備の輸送の列、なんだ?)

「ここで、どうだ、匂いは」


リリアの鼻が、震える。

「ないにゃ、この軍隊は何だにゃ?」


アルヴィンが、肩をすくめる。

「関わらない方が良いだろう。商人として外の町から探索する。城の中で匂いがないのだから」


二人は、城下町へ向かう。城門で、衛兵が通行人を止める。色々な人が、止められ、確認される。


アルヴィンが、呟く。(そういうことか、なら)

――シュウ。


偽の通行証が、手の中に現れる。城門から、外に出る。

そのまま、歩いて、数時間。村に着いた。どこか陰湿な村であった。

人間の村にしては、華やかさがない。



リリアの鼻が、歪む。

「酷いにおいがするにゃ。発情期とはまた違った、嫌らしい臭いにゃ」

城に仕えている者や、軍人の上層部であろうか。


この村は、ダークエルフと……人間の幼女までもが、鎖に繋がれていた。



アルヴィンの心に、嫌悪が走る。

(戦争の準備をしているのではないのか?昼間から物好きな)


リリアの心が、ざわつく。

(匂いはしない)


二人は、村のはずれまで歩いていく。リリアの鼻が、ピクリと動く。

(かすかに、かすかに、におう、毛皮の匂い)

「このあたりで、少しだけ」


アルヴィンが、地面を見る。

「ここは、…土の中に」


考える必要もない。捨て山である。悪臭が漂う。


リリアの顔が、真っ青になる。


「あ、あれ、あそこ」


そこには、手だけが、土から出ていた。



アルヴィンの胸に、後悔が刺さる。


(遅かった)


「掘り起こすか?」


リリアが、震え、首を振る。震えが止まらない。既に息をしていない。


「匂い、悲しい匂い。辱めを受け、ここへ」

「酷い事をされて、ここで焼かれ、焼き残った……」

「人間は悪魔にゃ」



リリアは震えが収まらなかった。


悪臭は酷かったのである。


***


そして、次の国に転移するが、同じであった。

遅かったのである。転々と探し回る。5つの国を回った。

どこにも匂いが無く、わずかな臭いは、亡骸を示しており、



それを直視するリリアは、人間の行いに吐き気すら覚え、震えていた。




あと1つの国。


ここまで、転移と歩きながら既に2カ月が経過していた。


どこにも希望が無いのである。



今思えば、ジュラインの娘二人を救出できたのが、奇跡であったとリリアは思った。

これが、人のする事なの。リリアは人間に対し、憎悪に満ち、


すれ違う村人でさえ、爪で襲うような殺意をだしていた。


アルヴィンが、リリアの手を握る。


「リリア、これは上層部、何といえば良いのか、国を治めている側の所業であり」

「村人も採取される側である」

「村人を殺めても何も解決はしない」


「村人の顔をもう一度みてみろ」


リリアの視線が、村人に移る。


(絶望のような顔をしている。この人たちも、蔑まれているのか)


「許せないのは、国を治めている人というわけにゃ」


アルヴィンが、頷く。


「前に酒場で行っただろう、7割を持っていかれ、それでも足りなければ」


「女子供を容赦なく、拉致する。それが人間の国だ。腐っている」


「村人の一部に変なのもいるが、それはごく一部、大半の村人は国を恨んでいる」


「俺の故郷も恨まれていた、今思うとだけどな」


リリアの目が、燃える。


「人間なんて滅べばよい!アルヴィンやミーナさんは別だけど」


アルヴィンが、静かに語る。


「人間の教えは恐らく長い事、亜人は悪。特権階級とでもいえば良いのだろうか」

「権力者はなんでもありで、許される。聖職者はさらに酷い」

「教えとして、それが当たり前であると、貴族は頭に植えつけられている」


「俺もミーナも教えられた。俺は疑問を抱いていた、本当にこれが正しいことなのか」


「それで国を捨てた。ミーナは俺についてきた。同じ疑問をもっていたからな」

「残された、最後の1つに転移するぞ」




アルヴィンが、手をかざす。


――シュウ。


光が走り、アルヴィン、リリアは最後の1つの国に転移したのであった。


初めて見る光景に遭遇するのであった。


雨季の足音が、遠くで響く。希望の欠片が、かすかに灯るか――



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