第14話 腐敗の隊長と獣人の絆
第14話 腐敗の隊長と獣人の絆
闇の地下牢に、湿った石の臭いと錆びた鎖の軋む音が染みついていた。
フォール・リュミエールの最深部、腐敗した人間の欲望が巣食う場所。
そこに、ジュラインの不可視の姿が、息を潜めて潜んでいた。
獣人としての誇りを賭け、約束通り、姿を現さず、娘たちを救う手立てを探るはずだった。
だが、隊長の男――6年前、6歳のアルヴィンに敗れたは12歳の貴族。陰湿な目つきの人間のクズ――は、唇を歪めて嘲笑っていた。
あの敗北以来、彼の心はさらに腐りきっていた。
人間の権力者として、獣人を「家畜」扱いする外道の極み。
18歳の容姿を持つ娘たち――
獣人族は3歳で成人体型を成し、寿命300年を生きるが、それでも今はただの怯える少女のように見えた。
ぼろ布一枚に包まれ、鉄格子に繋がれた二人は、互いに寄り添い、震えていた。
リリアの耳がピクリと震え、鼻が歪む。
「匂いが……ひどいにゃ。娘さんたち、怖がってる……」
隊長は、娘の一人の肩に、ねっとりとした指を這わせ、
下着の端をずらし、腰に下卑たものを押し当てる。
少女の肌が引きつり、息が詰まる。
「獣人の女、悪くないな。いい声で泣けよ。もっと、もっとだ……」
もう一人の娘が、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、すがるように叫ぶ。
「お父ちゃん、助けて……!怖いよ、痛いよ……!」
だが、隊長は一切の慈悲など持たず、少女の胸を鷲掴みにし、太ももを舌で這い回る。
卑劣な笑みが、闇に浮かぶ。
少女の悲鳴が、地下牢の壁を震わせる。
「お父さーん!おとうさーん!おとうさーん!」
叫びは、ただ空しく反響するだけ。
隊長の指が、少女の内股をいやらしく撫で回し、耳元で囁く。
「お前たちの父親?そんなもん、どこにもいねえよ。あの世の父親か?見てろ、この娘が俺の玩具になるのを、じっくりな……」
不可視のジュラインは、その光景を、心を引き裂かれる思いで眺めていた。
娘たちの純粋な絆を、ゆっくりと、ねっとりと踏みにじる、観るに堪えないほどの嫌らしさ。
酷い仕打ち――それは、ただの残虐さではない。
見るに見かねて、ジュラインの心が折れた。
約束を破り、不可視の呪文を解き、声を上げた。
「――やめろ! 俺の娘だ!」
姿を現した瞬間、隊長の剣が閃いた。
刃がジュラインの胸を切り裂き、腕を深く斬りつける。
血が噴き出し、彼は膝から崩れ落ちる。
「ぐあっ……娘を……放せ……!」
立ち上がろうともがくが、隊長の蹴りが腹にめり込み、吐血する。
ジュラインの心に、絶望の波が走る。
娘たちの泣き声が、針のように刺さる。
「お父ちゃん……死なないで……!」
隊長は嘲る。
「どこから現れたんだ、この悪魔の獣人め。お前が父親か。娘の晴れ姿を見て死ぬがいいよ」
そう言いながら、娘の一人を引き寄せ、胸を乱暴に揉みしだき、もう一人の尻を平手で叩く。
パチン、という乾いた音が響き、少女の悲鳴がさらに甲高くなる。
「黙れ、獣の雌豚ども!確かに、父親は既に、俺の剣でバラバラだ。」
「死ぬ前に、娘が俺の快楽に落ちるのを、見届けろ。悪魔め……」
舌を出し、少女の内股をいやらしく舐め回す。
少女は身をよじり、泣き叫ぶ。
「お父さん、助けてー!いやぁぁぁ!」
隊長はさらに強く尻を叩き、少女の体を壁に押しつける。
汗と血と涙が混じり、地下牢は吐き気を催すほどの臭いに満ちる。
ジュラインは、何度も立ち上がる。
娘を救おうと、爪を立て、飛びかかる。
だが、返り討ち。
剣が腹を裂き、背中を斬る。
血だらけの体で、
再び、
再び、
立ち上がる。
「娘を……離せ……!」
隊長の笑いが、地下牢を満たす。
「ふん、この程度か。悪魔の獣人が、人を食う獣人だと?死ぬ前に、娘の惨めな姿を、じっくり見ろ」
何度目かの突進で、ジュラインの両腕が切り落とされ、胸から血が溢れ、
視界がぼやける。
膝をつき、地面に倒れ込む。
意識が遠のく。
娘たちの悲鳴が、遠く聞こえる。
「お父ちゃん……!」
リリアの頭の中で、叫びが爆発する。
[ジュライン、死なないで!もう我慢できないにゃ!この匂い、吐きそう……!]
ジュラインの心に、最後の希望が灯る。
アルヴィン……
意識が闇に沈む中、助けを、願いを込めて、呟く。
「た、たのむ……娘を……あ、アルヴィン……ン……」
初めて、
娘の前で、
涙が零れた。
獣人としての誇り、
父としての無力――
それが、
熱い雫となって、
血だまりに落ちる。
その時、
闇の向こうから、
欠伸のような溜息が聞こえた。
アルヴィン・ド・ヴァルモンが、ゆっくりと姿を現す。
彼の目は、
普段の眠たげなものから、
鋭く変わっていた。
獣人女性の悲鳴が、過去の聖職者の闇を呼び覚ます。
娘たちの震える体、ジュラインの血だまり――
それが、アルヴィンの胸に、正義の炎を灯す。
隊長が目を細め、剣を構える。
「貴様、誰だ?紋章があるな。師団の者か?恩賞を分けるぞ。混ざるか?」
再び、娘に手を伸ばす。
指が、少女の肌に触れようとした瞬間――
「久しぶりだな、隊長」
アルヴィンの声は、低く、冷たい。
欠伸を堪えながら、
しかしその瞳には、
抑えきれない怒りが宿る。
「教えが間違ってる。お前みたいな人間の腐敗そのものだ。亜人は人を食わねえよ。」
「むしろ、食い物にされてるのは亜人達の方だ。死ね、外道」
――シュウ。
アルヴィンが手を振る。
光の奔流が走り、隊長の体を凍りつかせた。
動けない。
瞬きすら許されず、ただ目を見開くだけ。
隊長の顔に、初めての恐怖が浮かぶ。
アルヴィンの怒りは、
男に絶望を与えるためのものだった。
ゆっくりと、隊長の周囲に光の鎖が絡みつき、
皮膚を焼くような痛みが走る。
「正義は、こんな奴を許さねえ。お前が娘たちにしたこと、全部、味わえ」
隊長の口から、うめき声が漏れる。
絶望の味――
それは、娘たちの悲鳴を何倍にも増幅した、男の心を蝕む毒だった。
一方、ジュラインと娘たちには、
アルヴィンは救世主そのもの。
ジュラインの意識が、かすかに戻る。
「お父ちゃん……!」
娘たちの目が、涙に濡れながらも輝く。
死の淵から引き戻された父、
恐怖の牢獄から解放される自分たち――
ジュラインが、肩車した幼い頃の娘たちを思い出す。
あの頃の無邪気な笑顔が、今の絶望を倍加させる。
「お父ちゃん……生きて……!」
だが、娘たちはもう大人びた姿。
アルヴィンがリリアに呟く。
「あれが娘って本当か?どう見ても大人だぞ。俺が思ってたのは、」
「子供を両肩に乗せて歩くジュラインだったのに……」
「あの娘たち、俺より大人じゃねえか?」
リリアが、やれやれと耳を振る。
「今はそんな話じゃないにゃ!早く助けにゃ!」
――シュウ。
アルヴィンが再び手を振る。
鎖が砕け散り、娘二人が解放される。
――治癒。
柔らかな光が、
傷を癒し、
ぼろ布を清潔な衣類に変える。
ジュラインの傷も瞬時に消え、痛みは跡形もなく去った。
娘たちが、父に飛びつく。
「お父ちゃん、怖かったよ……!もう、離れない……!」
ジュラインは、涙を流しながら娘を抱きしめる。
「生きてた……ありがとう、アルヴィン。」
「お前は……俺たちの救世主だ」
リリアの鼻が、敏感に震える。
「――他の獣人は?どこにゃ!」
娘の一人が、震えながら告げる。
「他の6カ国に、1人ずつ連れ去られたんです……」
「私たちが最後。この国に残された2人だけ……」
アルヴィンは、再び欠伸を堪える。
「しょうがないな、面倒だが、行くか。リリア、匂いを追えるか?」
リリアが耳を立て、拳を握る。
「任せてにゃ!獣人国は、私たちが守る!」
***
――シュウ。
光が渦を巻き、
アルヴィン、リリア、ジュライン、
娘二人、そして内通者が
獣人国へ転移した。
ミーナが駆け寄り、アルヴィンを抱きしめる。
「アルヴィン!無事でよかった……!」
ジュラインは娘を抱きしめ、深く頭を下げる。
「アルヴィン、命の恩人だ。お前がいなければ……」
娘たちも、涙を拭きながら礼を言う。
「ありがとうございます……あなたが来てくれて、本当に……」
ガレンが拳を握りしめ、頷く。
「内通者を暴いたな。だが、人間の国はまだ腐ってる。奴らの闇は深い」
アルヴィンは、人間の腐敗を思い浮かべる。
隊長の冷笑、
娘たちの震え、
血の臭い。
「ああ、人間の国は腐りきってる。6カ国の獣人を、全部救いに行ってくる」
この救出劇は、
獣人国の絆を鉄のように固め、
腐敗した王国への革命の火種を加速させることになる。
絶望の闇から生まれた、
光の絆――
それは、アルヴィンの
「しょうがないな」という一言から始まったのだ。
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