はちまんの秘密
ここは東京、日本橋にある、艦隊八幡社という不思議なビル。
一階では、お店番のはちまんが、朝からバタバタと忙しそうです。
―――
きょうも、ぽかぽかの朝なのです!
艦隊八幡社、ただいま開店準備中なのです!
はちまんは、いつものように
棚の飾りを整えたり、お香を炊いたり、
やることは盛りだくさん!
せかせかと、店内を歩き回っていたのです。
お品物もきれいにならべることができました。
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「さてと、最後に、あの紙のおかざりを付ければ……」
背のびをして、棚の上に手をのばしたそのとき。
”””ぐらっ”””
「わっ……あっっ!!」
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ふらりとバランスをくずして、
とたんに、ぽふっ!と頭が軽くなったのです。
……ぼうしが、ぬげてしまったのです。
ぱさり。床に落ちた、その音がとても大きく聞こえたのです。
はちまんは、すぐに頭をおさえました。
胸がどきどきして、耳まで真っ赤になったのです。
「や、ややややっ、見えてない、見えてないのです……っ」
・・・見られたら、いけないのです。
・・・このツノは、まだ……。
そのときです。
店の奥から、ちいさな足音が近づいてきました。
「……はちまん。」
やくも、なのです。
音もなく近づいて、
落ちていた帽子をそっと拾い上げて、手のひらにのせて差し出してくれたのです。
「えーと、これは……」
言い訳を探そうとしたけれど、
はちまんの口からは、うまくことばが出てこなかったのです。
「はちまん、ダイジョウブ。」
やくもの声は、静かで、やさしかったのです。
はちまんは、そっと帽子をかぶりなおしました。
両手でぎゅっと押さえて、深呼吸をしてから。
「……このツノは、まだまだ修行中の証なのです。やくも。」
「ウン、知ッテイル。」
それだけを言って、やくもは棚の下に落ちた飾りを拾ってくれました。
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「はちまん、何モ無イ所デ いつも、転ブ。
焦ラナイデ。やくも、居ル、デスヨ。」
やくもは、
はちまんのことを、はちまんよりも、知っているみたいなのです。
必死に隠していたのに、
なんだか可笑しくなってしまったのです。
ふふっ、と笑いが零れてしまって。
そして大きく伸びをしました。
「さあて、きょうもがんばるのですっ!」