胃袋つかむぞ計画
「誠に、申し訳ございません! 」
ラリッサは、魔王の前でひれ伏していた。
「そなた…、魔界を乱すためにやってきたのか? 」
魔王はあきれ顔で言った。
「いえ! とんでもございません。畑のことは…事故、事故でございます! 」
「アルリネは、畑の修復におわれているぞ」
「はい…、大変、申し訳なく思っております。私もすぐにお手伝いを…」
「いや、いい! 余計な手を出すな」
「そんな…。それでは私の計画が…」
「計画? 」
「い、いえ。なんでもございません」
(私が魔界で生きていくための食料を確保しつつ、私の作った極上の魔菜で料理を作って、魔王の胃袋をつかむのよ)
「畑仕事は、どうぞお許しください。アルリネに、魔界でのやり方をきちんと教わりますから…」
(王女は、今、計画と言ったな。やはり私の弱点を探って、魔界を壊滅でもさせる気なのか?
それなら自由にさせて時間を与えるよりも、畑仕事をさせて、アルリネやメランに見張らせておくほうがいいか…)
「わかった。せいぜいアルリネに、教えを乞うがいい。もしまた変に霊力を使ったら、ただではおかないからな」
「ありがとうございます! 」
(ああ、よかった。魔王様の胃袋つかむぞ計画が台無しにならなくて。そうだわ、それなら畑だけじゃなくて…)
*******
「ねえ、魔王様のお好きな食べ物ってなにかしら? 」
「魔王様が好む味付けは? 」
「魔王様がよく飲まれるお茶やお酒は? 」
ラリッサはあれから、連日、城の厨房に通っている。
厨房のスタッフに、魔王様の好みの料理や食べ物を聞いているのに、誰もラリッサに答えようとしない。
(きっと、何も話さないようにと言われてるのね。それならそれでいいわ。厨房の仕事を見ていれば、そのうち大体わかってくるんだから)
というわけでラリッサは、ほぼ毎日、厨房で、料理人たちや厨房スタッフの様子を見つめている。
「料理長、あの人間の王女に、毎日じっと見つめられて、やりにくいっす~」
「我慢だ、我慢。一応、モスート様に苦情は申し上げてある。しかし基本的にはあの王女を好きにさせて、何かおかしいことをしたらすぐに報告しろということだ」
「はあ…。しかたないっすね…」
毎日、通い続けているだけあって、ラリッサはそのうち、どんな食材があってどんな風に調理されているか、調味料はどこに何が並んでいるか、皿やカップ、カトラリーなどはどこにあって、料理によってどんな風に使い分けられているか、などを覚えてきた。
また、ガルムやマーマイトなどラリッサが知らない単語が飛び交うが、見ていると調味料や魔ハーブだということがわかった。
ラリッサは隙をみて、いろんな調味料をこっそり味見した。
(なるほど。これはこういう味で、下味に使うみたい。これはこんな味で、煮込みには良く使ってるわね)
「料理のメインが出来るぞ。皿、用意しろ」
「ガルムを持ってこい」
「マーマイトが足りないぞ」
「はい、どうぞ」
「お、サンキュ」
「お皿、準備できました」
「おう」
忙しい厨房で、そんな声が飛び交うと、ラリッサはつい皿を出したり、調味料を渡したりしてしまっていた。
そして厨房のスタッフも、ついうっかり、いつのまにかそれを受け入れてしまっていた。