それぞれの企み
「やったわ! これで魔王様と一緒にしばらくいられる~!」
ラリッサは、通された部屋でひとり喜んだ。
「これからどうやって魔王様と親しくなろうかしら…。まあ最悪、親しくなれなくても、魔王様を毎日拝見できるだけでも幸せよね」
コツコツとドアをノックする音がした。
「はい。どうぞ」
ラリッサが返事をすると、入ってきたのはこちらも黒髪で角がある侍女らしき様子の女の子の魔族。
「失礼いたします。私、メランと申します。ラリッサ様がご滞在の間、身の回りのお世話をさせていただきます」
「まあ、そうなの。よろしくね。
ところでメラン。魔王様って…お妃さまやご婚約者などはいらっしゃるのかしら? 」
「いえ。魔王様にはそのような方はいらっしゃいません」
「まあ、そうなの! あ、じゃあ恋人とか親しい女性とかは…? 」
「そういう方もいらっしゃいません」
(やったわ! じゃあチャンスありってことね)
「そうなのね、ありがとう。ところで…魔王様って何かお好きな食べ物はあるかしら」
「食べ物…ですか。私は、特に存じ上げませんが」
「そう…、わかったわ。ありがとう…」
ラリッサは少ししゅんとした。
(手っとり早く食べ物の好みでも分かればと思ったけど、残念。でもまだ来たばっかりだもの。これからいくらでも情報を集められるわ)
「食べ物といえば、もう少しいたしましたら、魔王様との晩餐の席をご用意いたします。
ラリッサ様がこの城へいらした歓迎の意味も込めておりますので、城のシェフが腕によりをかけてご用意させていただきます」
「まあ、嬉しい! 魔王様と晩餐だなんて! あ、じゃあ時間までに、髪型や服装を整えるのを手伝ってもらえる? 」
「もちろんでございます」
メランは快く承諾し、頭をさげた。
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「あの王女、どういうつもりだ。 モスート、どう思う? 」
王女が謁見の間から下がると、魔王は側近のモスートに尋ねた。
「は…。可能性としては魔王様や魔界のスパイが目的かと…」
「そうだな。表向きは和平条約だが、寝首をかくつもりかもしれない」
「はい。あの王女は光魔法を継ぐロスヴァー王族の者で、今までの戦いでも、手ごわい敵でしたので、油断は禁物です」
「わかっている。王女につけた侍女には、逐一報告するように言ってあるか? 」
「ぬかりございません。メランは優秀な侍女でございます。先ほどさっそく報告がありました。
王女は、魔王様にはお妃や婚約者、恋人はいるかと聞いてきたそうです」
「なに? なぜそんなことを…」
「そういったお方がいれば、魔王様の弱みになると思ったのでは? 」
「そうかもしれない…。ほかには? 」
「魔王様のお好きな食べ物などはないかと聞いたそうです」
「食べ物? まさか我の好物に毒でも仕込むつもりか…? 」
「この城には、聞かれたからといって、魔王様のことをぺらぺら話す者はおりませんのでご安心ください」
「そうだな。それにしても食べ物か…。それなら逆に、食べ物で、王女が自分から国に逃げ帰るように仕向けてやろうか…」
魔王はにやりとした。