王女の魔王との和平交渉②
ラリッサが言い切ったあと、その場はしばし静まりかえった。
(あら? どうしたのかしら)
ずいぶんしばらくしてから魔王がやっと口を開いた。
「…それは、なぜだ? 何の必要性がある? 」
「もちろんそれは、私どもロスヴァー王国が、魔王様はじめとする魔界を信頼しているという証になるからです。
魔界にとっても、和平条約を満たさない場合の人質としての役割をこなせます」
(考えてきた理由づけはこれでバッチリのはずだわ)
「いらん」
「は? 」
「人質などいらんと言ったのだ。もし条約を違えば、魔族を率いてロスヴァー王国に攻め込むのみ。第一、この魔界の城に、人間を置いた試しなどない」
(そっけないのね。でもそこも素敵♡)
「約束を違えないという誠意の証として、私はここへ遣わされたのです。このまま帰れば、民や王たちに合わす顔がございません。どうかこの城に置いてください…」
ラリッサはさめざめとした様子を見せた。
(せっかく魔界に来たんだもん。魔王様と親しくなりたいっ)
「陛下、失礼いたします」
ラリッサの後ろに控えていたモスートが、玉座へと近づいた。
魔王と何やらコソコソと相談している。
『とりあえずは和平を結ぶことが先決です』
『そうだな。ひとまず王女は城に置いておいて、見張っていればいいいい』
やがてモスートがくるりとラリッサのほうへ向き直り、魔王が言った。
「わかった。お前を城に置いてやる」
(わあー! やったわ! )
「ありがたき幸せにございます」
嬉しい想いはおくびにも出さず、ラリッサは頭を下げた。