王女の思惑
「…ということで、各地の結界樹は、およそ半数が枯れかけているか、すでに枯れています」
「原因はわかったのか? 」
エリアスの報告を受け、ロスヴァー王は神官長へ原因究明の進捗状況を尋ねた。
「まだハッキリしたことはわかっていませんが、結界大樹の力も弱まっていることから、結界大樹からの、結界樹への神力供給も十分ではないかと…」
ロスヴァー王は深いため息をついた。
魔界との国境を守る結界樹の中心となる結界大樹が、ロスヴァー国の中央に根を張っている。
が、その結界大樹の力も、弱まっているのだった。
「一刻も早く原因を突き止め、結界樹をもとに戻さねば…。エリアスによると、魔王も姿を現したということだし、ロスヴァー王国が魔王主導のもとに襲われる可能性がある」
「父上、よろしいでしょうか? 」
「なんだ? ラリッサ」
「魔王が現れた時、魔物たちは私たちへの攻撃をやめました。だから私は、錫杖を結界樹に刺すことができたのです。
もしや魔王は、私たちとの争いを望んでいないのではないでしょうか? 」
ラリッサ王女の言葉で、その場の者たちがざわついた。
「そんなことが、あるだろうか? 」
ロスヴァー王が訝しむと、ラリッサ王女は続けた。
「結界樹が枯れ始めたことで、人間と魔族が争い、魔物たちも大勢、私たちに殺されています。それは、魔界側にとっても望まないことである可能性は高いです。
ですから魔王は、結界を保つために、私たちに錫杖をわざと刺させたと、私は思います」
「うぅ~む…。それであれば、お互いにとって喜ばしいことではあるが…。つまりそなたは、魔界側と協力して結界を張り直したほうがいい、というのか? 」
「…ええ、そうです。そして、そのために、私が魔界へ赴き、魔王と交渉する覚悟です」
「なんと!!」
「王女様! なんて危険な…」
「どうか父上、民のために、このロスヴァー王国を守るために、私を行かせてください」
ラリッサ王女を遣わすかどうかともかく、何らかの形で、魔界側との意思疎通を図ろうということで、会議は終わった。
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「ラリッサ王女! どうしてあんなことを…」
エリアスは王宮の庭園で、ラリッサ王女に話しかけた。
「私は、ロスヴァー王国の王女です。民や国のためのための行動をとることは当然です」
「必ずしも、あなたが行く必要はないではありませんか」
(いいえ、行きたいの。だってあのカッコいい魔王に会いたいんだもの~♡)
「いいえ。これは王女である私の仕事です。必要であれば、私は…魔王に嫁ぐ覚悟もあります」
「何ですって! それでは人質だ…。お労しい。王女として生まれたばかりに…」
(王女として生まれたからこそよ。和平と称して、あのカッコいい魔王に嫁げるかもしれないッ♡)
「エリアス、いいのです。これが私の運命。私はこの国の王女として人生を捧げるために生まれてきたのです」
「ラリッサ王女…。必ずほかに方法があるはずだ…」
「いえ、いいのです。私が覚悟を決めればすむこと…」
(ほかの方法とか余計なこと考えないでね。ああ~、早く魔王に会いに行きたいわ♡)