戦いのなかでの出会い
「くっ…。ここもか…」
勇者の力を持つエリアスは、飛び掛かってくる魔物に剣をふるいながら、声を漏らした。
はるか昔から、人間の国であるロスヴァー王国と、魔王が治める魔界とを隔ててきた結界樹が力を失い始め、幹や枝葉が枯れ果てている木が何本もある。
各地の要所要所にあった結界樹は、ここ数年で次々と枯れ始めている。
そのため、人間と魔族の領域が曖昧になり、互いに侵入しあって諍いが起きており、勇者エリアスが各地をまわり、被害があるところの魔族を討伐している。
「エリアス様っ」
「ラリッサ王女! こんな前まで来ては危ない! 下がって! 」
「いいえ。まずは私が、錫杖を結界樹のところへ刺しに行きます。どうか援護を」
金の髪を振り乱し、青い瞳を煌めかせながら、ラリッサ王女は前へ出た。
魔法のような霊力が存在するこの世界。
ロスヴァー王国の王族は、代々、強く霊力を受け継いでいる者が多い。
ラリッサ王女は霊力のなかでも特に、癒しの力が強く、聖女として勇者エリアスの魔物討伐に同行していた。
聖女であるラリッサ王女の役目は、エリアスたち討伐隊を補佐しつつ、枯れた結界樹に霊力を込めた錫杖を刺すこと。
これによって、とりあえずの結界が保たれる。
「わかりました! 総員、王女を援護せよ! 」
討伐隊の隊員が、結界樹の周りにいる魔物たちを、次々となぎ払っていくなかを、ラリッサ王女は錫杖を持って駆け抜けていく。
ラリッサ王女も、襲い掛かってくる魔物を、錫杖と自らの霊力で払っていると、ふと、魔物の襲撃が弱まった。
「なんだ…? 」
おどろおどろしい魔気が、結界樹の向こうに現れた。
「あ、あれは…」
討伐隊員たちの足が思わずすくみ、後ずさりする者もいた。
「…魔王だ…」
エリアスの低い呟きのとおり、真っ黒な魔気のなかに、黒髪に金の目をした魔王が浮かんでいるのが見えた。
「あれが…魔王…」
ラリッサ王女も目を見張った。
すさまじい魔気だ。
(なんて…、なんて…)
心の中でラリッサ王女は思った。
(なんて…カッコいいの!! )