40/73
函と蓋の違い
しゅぶる。しゅぶる。焼き付く。
それは、個ではなく。
しゅぶる、しゅぶる。焼け爛れるもの。
それは、群ではなく。
しゅぶる、しゅぶる。火が暮れる。
それは、いない。
★
男は、じっくりと燃え盛る。怪奇なる始まりだった。
男の生涯は穏やかであった。朝から教会に通い詰め、真摯に女神へと祈る。妻に子供、裕福で幸せな家庭であった。
だが、その男はある日、何時ものように教会で祈る最中に発火した。
修道女に見られながら、水さえ掛ける暇もなく、皮膚は煮え立ち脂を滴らせて、ひび割れて、黒炭のように内から赤く火をチラつかせて、燃えて死んだ。
男だけが、燃えたのだ。神の御前で、男は死んだ。
最後にその眼で見るは、床に刻まれる文字。古き言葉。汝、神に祈るは罪としれ。