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乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


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第57話、混乱する集落


 亜人集落での用が済んだので、王都に帰る。


 ジュダは集落を見回した。広場脇では、相変わらず酒盛りが行われているが、象系亜人(フィーリエ)の一団が加わったらしく、先ほどより窮屈な印象だった。


 象系亜人は、小柄と言われるものでも二メータを超え、大きなものだと三メータに迫る者もいるという。鼻が長く、耳が大きい。パンツは穿いているが、基本エクート同様、裸族である。


 とにかくデカイ。そして食う。子供のフィーリエ人がいないところから、男ばかりの集団だろう。


 彼らは旅の一行なのか、じゃんじゃん食事を要求し、浴びるように酒を呑んでいた。すでにカラになったと思しき(たる)がいくつも転がっていた。


 基本、草食なフィーリエ人だが、体もでかければ態度もでかいことで有名だ。それらが多量の酒を飲んでいるのを見ると……賢明な判断力を持つ者なら近づかない。


「あれが有名なフィーリエ人か」


 ラウディも顔を引きつらせた。南方でその姿を見ることが多いフィーリエ人だが、ヴァーレンラント王国でその姿を見るのはなかなか珍しい。


「あれを見ていると食欲が失せるな……」

「同感です」


 ジュダは馬車を止めてある集落外へ向けて歩き出す。


 特に注意すべきものは――視線を走らせる。フィーリエ人の一団が酒盛りしている向こう、天幕が集まっている影に佇む人影が見えた。


 ドキリとした。その影は、長銃を構え――その銃口をこちらに向けていた。


「危ないっ!」


 そう叫んだのは、ジュダとメイア、ほぼ同時だった。隣のラウディを抱え――ジュダは瞬時に彼女に触れた部位が痛んだ――地面へ倒す。メイアも同じ行動をとっていたため、ラウディはジュダとメイアに両側から倒された格好だ。


 稲妻が走ったような音が轟いた。空を切ったのは赤い光弾だった。


 魔石銃――しかも加工された弾丸ではなく、光弾が放たれた所から見て、タイラル式――魔力を撃ちだすタイプの魔石銃だ。


 ほぼ直線に飛んでいくこの魔石弾は、何の加工もない弾丸を撃ちだすより命中精度に優れる。一方で攻撃力が低いのだが、それも銃に付けられている魔石次第。特注魔石であれば、肌を焼き、体を貫く威力を発揮する。


 ――狙いはラウディか! 真昼間から襲撃とは……!


 ジュダはふつふつと怒りを感じたが、すぐにそれは別のものによって遮られた。

 魔弾は、フィーリエ人の一団をよぎった。荒々しく飲み食いする巨大な亜人たちの間を。


「ぬぉおぉぉおおおおおおおっ!」


 怒りの咆哮が集落に響いた。


 元より、耳がよく鼻も効く亜人たち。最初の銃撃で、多くの亜人はその発砲主のいる方向を見ていた。フィーリエ人もそのはずだが、運の悪いことに、彼らは食事に没頭していた。そして何より多量の酒を摂取し、その感覚は平常とは言い難かった。最初に声を上げたフィーリエ人は、自分が攻撃されたと感じたのだ。


 一人の咆哮は、たちまち他の象系亜人の仲間に伝わった。彼らは、酒に酔った頭で種族本能である仲間の危機に対する反応を見せた。


 つまり、周囲の者に対し攻撃を開始したのである。

 木製の机は食器ごとたちまち踏み砕かれ、近くにいた亜人たちも怒れる象亜人の押し潰しから慌てて逃げる。


「亜人が襲ってきたら、返り討ちにするとか言ってましたよね?」


 ジュダは立ち上がりながら言った。どしんどしんと、地響きとともに、フィーリエ人の一人がこちらへ突進してくる。当たれば人間など軽く跳ね飛ばされる。否、間違いなく死ぬ。

 ラウディも血の気の失せた顔で頷いた。


「言った。……でもあんなのは想定外だぁっ!」

「逃げましょう!」


 ジュダが先導し、ラウディもメイアに付き添われて走る。

 混乱した場、逃げ出す亜人たちが右往左往し、衝突する者の姿もちらほらと。


「どけっ!」


 加速に入った狼亜人の傭兵が、こちらの進む方角と交差する。ラウディがとっさに衝突を避けようと身構える。

 だが間に入ったのはジャクリーン教官だった。

 彼女は身を屈め、突っ込んでくるロウガ人の股座へ肩を滑り込ますと、相手の力を利用し、そのまま持ち上げ、倒してしまった。


「失礼。割り込みは遠慮してもらおう」


 すました顔でジャクリーンが、何が起こったかわからないまま呆然とするロウガ人を見下ろし、その場を離れた。


 ジュダは後方を一瞥する。マギサ・カマラと会い、彼女が同行する今、この集落に留まる理由はない。

 馬車置き場に戻り、さっさと王都へ帰ろう。ラウディ、マギサ・カマラ、メイア、トニ、ジャクリーンと皆揃っているのを確認。


 と、馬車置き場から、リーレの操る幌馬車が向かってくるのが見えた。騒ぎを見やり、駆けつけてきたのだ。……素晴らしい対応だ。

 逃げまとう亜人たちが避ける中、幌馬車は一行の前に横付けするように止まった。


「お待たせ?」

「いや、いいタイミングだ」


 ジュダは答え、「トニ!」と声をかけた。エクートの少女は身につけていたワンピースをするりと脱ぐと、素早く馬の姿をとる。投げ捨てるように脱いだ服をジュダは受け取り、それをリーレへとパスする。

 ラウディ、メイアが馬車に乗り込む中、ジャクリーンは馬車を離れた。


「先に行け。すぐに追いつく!」


 馬車置き場に置いてきた馬を取りに行くのだろう。ジュダは頷くと愛馬(トニ)の背中に飛び乗った。


 集落を見やれば、混乱はさらに加速していた。暴れる象亜人たちは、邪魔な天幕や木製の柵を押し潰し、手当たり次第に襲い掛かっていた。

 逃げ遅れた亜人が、その鞭のように振るわれた鼻で吹き飛ばされ、何とか抑えようとした勇敢な……―無謀な亜人は、その巨体の前に踏み潰された。


「……処置なしだな」


 これでは、この集落は壊滅だろう。目の前で起きている事態に、ジュダも閉口である。


「――早く!」


 ラウディが馬車からマギサ・カマラに手を伸ばしている。どうやら乗るのに手間取っているらしい。メイアと二人掛りで、ウルペ人の占い師を引っ張り上げると、御者台でそれを確認したリーレが馬車を走らせた。

 ジュダは離れていく馬車と後ろの集落を再度眺め――


「すまない、待たせたか?」


 ジャクリーンが白馬で追いつくのを待って微笑した。


「いいえ。行きましょう」


 集落から距離をとった。

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